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数字の神が支配する世界  作者: 葉月 優奈
プロローグ
2/56

002

上にいた人間は、女だ。見た目は若い女。

長いカールのかかった黒に白髪が交じる髪。

肌は不健康な青白さに、頬はこけていた。

真っ赤なジャケットに、水色のズボンは防犯カメラの人物と一致した。


鉄パイプを振り上げて、そのまま俺のドローンに振り下ろした。

だけど、俺は相棒の声でドローンを動かした。

アメミットの操作性で、俺は回避に専念。

カプセルの中で、俺が思ったとおりにドローンを動かすイメージをしていく。


同時に、遠隔操作されたドローンが静かに動く。

女が振り下ろした鉄パイプを、かろうじてかわしていた。


「しくじったか」

高さ四メートルほどのドラム缶から飛び降りた女は、しっかりと赤いスニーカーで着地した。

それでも、鉄パイプを持って俺を睨んでいた。


「ぼさっとするな!」

「ああ、悪い」

木箱の裏に隠れた人間が、こちらから見えない。

だけど、目の前の女には番号が表示されていた。

『982810331930』、名前は橋本 春華。

住所も、緊急連絡先も、生まれた母親の名前も、情報として開示されていた。


「すでに、俺たちブラックナンバーが粛正をしに来た。

抵抗すること無く、その場でとどまって神の声を聞け。

そうすれば、神の計らいでお前の来世は証明する」

「簡単に粛正されるかよ、死神!」女……橋本は叫んだ。

彼女の闘志はまだ、全く衰えない。

むしろ目つきは鋭く、戦う意志がはっきり伝わってきた。


「やれやれ、じゃあさっさと仕事をするか。相棒」

「ふざけるなよ!」橋本の足元が、いきなり青白く光った。

よく見ると、光っているのはスニーカーだ。


HSSハイパースポーツスニーカーか」

「あくまで橋本はアメミットを、破壊するつもりだな」

「野蛮なレッドナンバーだぜ、どうする相棒?」

俺のドローンに声をかけてきた、緑とピンク縞のドローン。


「やる仕事は、何一つ変わらない。俺たちブラックナンバーの仕事は……」

「粛正だな。じゃあ、サクッと終わらせようぜ」

固まっていた二機のドローンが、一気に離れた。


橋本は、そのまま走り始めた。

だけど走る速さは、全然違う。

HSSの最高時速は、人間でも70キロまで走れる靴だ。

橋本の足は一気に速くなり、身体能力が人間の限界を簡単に超えてしまう。


走り出した橋本は、そのまま助走と同時に高く飛び上がっていた。

狙いは、相棒のドローンか。少し低めに飛んでいたところを、狙って鉄パイプを振り上げていく。


「消えろ、死神っ!」

橋本が、再び叫ぶ。

だけど相棒のドローンは、高度を一気に上げた。

鉄パイプをかろうじてかわしたが、橋本は三メートルの高飛びをしていた。


「相変わらず、チート性能だな。HSSは」

人並み外れた運動神経に、感心する俺。

高く飛んだ橋本が、地面に赤いスニーカーで着地。


HSSだと、人間離れの身体能力を得るのだ。

だから、空を飛ぶドローンにも攻撃を仕掛けることができた。


「だけど、俺らにはアレがあるだろ」

「やっぱり使うのか」

「そう、これを」

緑とピンク縞のドローンが、反転した。


そのまま前を向いて、橋本に向かう。

ドローンの前には、口が開いていた。

空いていたドローンの口から、光が収束。


そのまま、光線となってレッドナンバーの橋本に向かっていく。

黒い光線を、HSSを履いた橋本が走って避けた。

飛んでいく黒い光線は、そのまま橋本の後ろにあったドラム缶に命中。

命中されたドラム缶は、パチンコ玉のような小さな球にいくつも分解されて消えて無くなった。


「外したか」相棒のドローンが悔しがった。

「HSSの動きは速い。

いくらADLアトミックディストラクションレーザーでも、容易に捕らえきれないぞ」

「俺が引きつけるから、任せた」

「やるのかよ!」

「当たり前だろ、相棒。頼りにしているぜ」

相棒のドローンが、再び橋本に近づく。高度を下げた。

口を橋本に向けながら、飛んでいく相棒のドローン。


橋本も、狙いを相棒のドローンに集中していた。

鉄パイプを持った橋本が、相棒のドローンを追いかけていく。


後ろでは俺も同時に、ドローンを動かしていた。

再び相棒のドローンが、ADLを放つ。

黒い光線が、身体能力が大幅上昇した橋本は体を反らせて避けていく。

当たった黒い光線は、近くの古い大型冷蔵庫を一瞬で分解していた。


「消えろ、消えろ、死神っ!」

橋本は、鉄パイプを振り上げた。再び相棒のドローンに、振り下ろそうと狙う。

だけど、俺は冷静に橋本の動きを見ていた。


「黙れっ!」

俺のドローンが、先端を向けた。

向けた先は、鉄パイプを振り上げた橋本。

そのまま、俺のドローンの先端に光が集まった。


そして黒い光が、放たれた。

相棒のドローンに気を取られた橋本は、俺の放ったADLを回避できなかった。


黒い光線が、橋本の体に命中。

当たった脇腹から、赤いジャケットはボロボロと崩れていく。

橋本の顔は、涙が見えた。


「どうして……消えないと……」

切ない声を出しながら、最後は小さな球となって分解されて消えていった。

唯一残ったのは、鉄パイプ。カランと倉庫に、鉄パイプが落下した音だけ響いていた。


「終わったか」相棒のドローンが、俺のドローンに近づいた。

「ああ、(レッドナンバー)橋本 春華は粛正された。

神マートの名の下に、成仏されて新しい生命として生まれることを」

「相変わらず、死後の世界を信じているのか?」

「人は生まれ変わる。俺はあの出来事で、そう信じることにした」

だけど、俺がしたことは変わらない。

それでも信じるしかない、俺はそう言い聞かせていた。

それが、人類の存続に必要なことだと思い込んでいたから。


「相変わらずエースのお前が、そんなことを言うとはな」

「俺はエースなんかじゃない。ところで相棒、もう一人は?」

「もう一人?」

「もう一人、人がいなかったか?生命反応が二つあったけど」

「いや、こっちには生命反応も……番号も確認できなかった」

「そうか……」見える視界には、『MISSION CLEAR』という文字が見えた。


サーチを試みるも、確かに倉庫内に生命反応は無かった。

木箱の裏を、俺はドローンで覗き込むも人の姿はない。

それと同時に、俺はドローンを自動運転に変更していた。


「どうしたん、相棒。今日はおかしくないか?」

「悪い、先に出る」

ドローンが自動操縦になったのを確認した俺は、ドローンの操作を終えた。



――場面は、白い壁の部屋に戻った。

ここは、無機質な白い壁の部屋。

いくつもの大きなカプセルが置かれていて、その中に一つの白いカプセルが開いた。

開いた瞬間、VRゴーグルをつけた俺はゴーグルを外す。


意識が、この部屋のカプセル内にいる俺に戻った。

碧眼で、青年風の顔をした黒タイツの俺。だけど、目元は青くて息苦しい顔になっていた。

短いさらさらとした髪の俺は、そのままカプセルを出て走り出した。


カプセルの外には、一人の人間が待っていた。

金髪で堀のある面長の男が、黒いスーツを着て立っていた。

手に持っていたのは、大きなポリバケツを持って待っていた。


「修成、ダメか?」

「はい、ダメです」青白い俺は、そのままポリバケツに吐いていた。

吐いている俺の後ろで、別のカプセルが開いた。

カプセルが開くと、赤毛の若い男が上半身を起こして俺の方を見ていた。


「相変わらずだな……修成は」

吐いている俺を見守るその目は、どこか穏やかな目を見せていた。



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