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イーサンの初恋

護衛たちが来てからというもの、ヘイゼルは毎食護衛たちの分も食事を作って出した。


そこまでしてもらうわけにはと言っていた護衛たちも、固いパンや保存食に飽きて、ヘイゼルが出してくれる採れたての野菜のサラダや温かいスープを喜んで食べた。


そのうち、家には全員入らないので家の外に大きなテーブルを作ってそこでみんなで食事を摂るようになった。


王子として厳しく躾けられたテオドールは、王宮にいたころは無口で笑うことも少なかった。

しかし、ヘイゼルの横で畑の野菜を収穫しながら年相応に笑うテオドールを見て、このままの方がテオドールは幸せなのだろうなとイーサンは思う。


しかし、国のため、どうしてもテオドールには王位に就いてもらわなければならない。


あの頑固な王子が意思を変えるとは思えないので、ヘイゼルの方を説得する方が早いだろう。


それからヘイゼルを説得しにかかった。


隣国に行けば、テオドールの望みの通りに王宮に一緒に住んでもらうこともできるし、別で家を用意してもいい。一生暮らしを保証する。畑仕事をしなくても、遊んで暮らせるだけのお金も用意する。


しかしヘイゼルは首を縦には振らなかった。


ヘイゼルを観察していると、イーサンは自分の説得が完全にお門違いなことが分かってきた。


ヘイゼルは太陽と共に起き、楽しそうに畑仕事をして、みんなが自分の作った食事を食べる姿を嬉しそうに見ている。


遊んで楽に暮らすことなど望んではいない。

人に与えることに喜びを感じる人なのだ。



イーサンはそんなヘイゼルに好感を持ち始めていたが、あんなに素敵な人だ。恋人だっているだろう。と、自分の気持ちにブレーキをかける。


そんな事よりもテオドールを連れ帰ることに集中しなければならない。



なかなか首を縦に振らないヘイゼルのことを探るため、イーサンは情報収集のために街へ降りて聞き込みをして、4年前に夫と死に別れ、以来ずっとあの家で生きていると知った。


「夫との思い出が詰まっているからあの家を離れられないということか」


説得が更に難航するだろうと思い悩むイーサンを横目に、黒猫が悩みなどなにもないようにスヤスヤ眠っていた。


********


野菜を売りに街に降りる時は、イーサンが護衛としてついて行くことになった。

本当は3人ほど護衛をつけたいのだが、テオドールの正体がバレるとまずい。

というわけで、一騎当千のイーサンが私服で護衛に当たる。


イーサンも重い瓶の詰まった箱を運び、ジョゼッタの店に行く。


ジョゼッタだけにはテオの正体を明かしていた。


「ねぇ、この肉おいしそう!今夜の晩御飯これを料理してよ!」

「あら、ほんとね。このお肉は煮ても焼いてもきっと美味しいわ!」


野菜を売った後ジョゼッタの店の商品を物色している二人を、イーサンは微笑ましく見つめていた。



「最近あの子の笑顔が増えて嬉しいよ。テオとあんたのおかげかね」とジョゼッタさんがイーサンにニヤニヤ話しかけてきた。


「はは。…ヘイゼルさんとは長い付き合いなんですか?」


「あの子が小さい頃から知ってるよ。ダニーと結婚してからはいつもふたりで野菜を売りに来てくれてね。絶対に一緒だったよ。それなのに先立たれちまって、可哀想な子だよ。まだ若いのに、もう結婚はしないんだとさ。

ダニーをまだ愛してるんだろうね」


胸がチクッとした。


何の痛みかは分かっている。


ヘイゼルに出会ってそう長くはないが、ヘイゼルの素晴らしさにすぐに心を捉えられた。自分ではブレーキをかけていたつもりだったが、もうすでに恋に落ちていたらしい。



ヘイゼルに国に一緒に来て欲しい。


テオドールのためだけじゃない。


ヘイゼルが自分の隣にいてずっと笑ってくれたら…


「さ、帰りましょうか」


ヘイゼルが肉の包みをかかえて戻って来る。


ヘイゼルの眩しい笑顔に、イーサンは何も言葉が出ず頷くしかできなかった。




それから何度か街に3人で行った。


いつもとは違う店に寄った時、家族と間違えられた。

俺は少し動揺したが、ヘイゼルは満面の笑みで応える。「私たち、同じ緑色の目をしてるでしょう」


その時ばかりは、この碧い眼が、緑ならなと、そう思った。

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