王女の贈り物1(調査官ロイ)
ジュストは何も言わず、俺に付いてきてくれた。準備も急かしたのに、文句も言わなかった。
「だって、お前があんなにムキになって、必死なのって珍しいじゃん。よっぽど、その姫様いい人だったんかな…と思って」
ラスター王国へ向かう道中、俺はルーミア様のことを話した。
「孤児に身銭切ってくれるような、いい人だったよ。みんな、孤児になんか見向きもしないのに、あの人だけが俺たちを普通に扱ってくれた。どうでもいいものじゃなく、人として扱ってくれた。きれいで、優しい、気高い人だった」
高等法務院で働くようになった今の俺には、大抵の物が買えるようになった。弟と特に不自由ない生活ができるくらいの給料が貰えている。金を稼ぐようになった今なら、姫様のしてくれていたことが、どんなにすごいことだったかわかる。
俺はラスター王国の王都にある四つの孤児院のうちの東の孤児院で暮らしていた。親の記憶はわからない。
ルーミア様は時々慰問にやって来ていた。俺とそんなに歳は変わらないように見えた。慰問に来て、俺より小さい子どもたちと一緒に遊んだり、絵本を読んでくれたりしていた。王族のくせにドレスが汚れるのも気にしない人だった。たまに寄付してくれる貴族はいても、汚いといって孤児に近づく人はいなかった。そんなだったから、姫様だって裏では俺たちを汚いと言っているのだと思っていた。でも、違った。
アキム司祭様は、ルーミア様よりも頻繁に様子を見に来てくれていたから、顔は知っていた。姫様の慰問の日は司祭様が必ず同伴していた。
ある日、弟がルーミア様のドレスの裾を掴んだ。ドレスが汚れるとシスターたちが慌てる中、姫様はシスターたちを手で制してから、膝をついて弟に視線を合わせてくれた。
「ひめさま。ぼくね、あしたたんじょうびなの。たんじょうびはプレゼントをもらえるひなの?ぼくね、くまさんがほしいんだ」
「そう。誕生日なのね、おめでとう。プレゼント……そうよね。お誕生日は特別な日だものね。明日には間に合わないけど、くまさんの準備をして届けるわね。待っていてくれる?」
「ほんと?ありがとうひめさま」
ルーミア様と弟とのやり取りを聞き、シスターたちが「すみません」と謝っていた。それを聞いて、俺はどうせあしらわれただけだ、弟は泣くことになるだろうと、そう思った。姫様は司祭様と何か話をしていて、後で余計なことを言うなと叱られるのだと思ったが、何も言われなかった。
それから、少しして、その月の最後の週にぬいぐるみやお菓子が届けられた。弟には、宛名付きでくまのぬいぐるみがやって来た。「ひめさまがくまさんくれたよ」嬉しそうにぬいぐるみを抱き締めた弟が俺に報告にきた。あのぬいぐるみは、今でも弟の宝物だ。
次の月に誕生日が来る子どもたちに、何が欲しいか希望もとられた。はじめは争うようにしていた子どもたちだったが、毎月ルーミア様から贈り物が届くようになると、自分の時ももらえるとわかって争わなくなった。誕生月の子がもらったお菓子を奪う子どもはしだいにいなくなった。姫様は予算の中でできるだけ希望のものをくれ、希望がない子にはクッキーや飴を一缶ずつくれた。もらった一缶の菓子は自分だけで食べずに他に分ける子、数日をかけてゆっくり自分で食べる子、それぞれだった。贈り物だから、もらった者が好きにしていいといわれた。俺の時はクッキーをもらった。弟に分けてやれば、弟くらいの年の子たち数人が羨ましそうに見ていた。仕方がないから、そいつらに分けてやったら、そいつらが贈り物をもらった時に「お返し」だと、今度は自分の菓子を分けてくれた。他の者に分ければ、自分も分けてもらえる。俺たちは、そんなことさえ姫様から教えてもらった。