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王女の願い(司祭アキム)

「司祭様に、お願いが三つございます」

ルーミア様がそう言った。

わたしが頷いたのを見ると、姫様が続けた。

「まず、紙とペンを貸してくださいませんか?」

鞄から便箋とペンを取り出し、ルーミア様に渡した。

しばらくかかり、姫様が何事か書き上げた。書き上げた物に、ルーミア様が血判を押す。

「これを、連合高等法務院へ届けていただきたいのです」

姫様から、便箋を受け取った。

「高等法務院ですか?」

「そうです。わたくしは、自らの潔白を明らかにしたいのです。この国では調査はしてもらえない。高等法務院であれば、きちんと調べてもらえるはずです。もし高等法務院の調査で、わたくしが有罪だといわれれば、もうこの世界に正義はないと思って、諦めます…」

「高等法務院に訴えることが何を意味するか、ルーミア様ならご存知のはずです。それに、今からでは処刑には間に合わない…」

「はい。この国の司法が機能していない…そう訴え出るのと同じ。国の信用に関わる、体面を傷つけることだと存じております。けれど、司法が機能していないのは本当のことです。録な調査もせず、裁判も開かない。一方的に断罪し処刑する。ラスターがそんな国だと、他の連合加盟国の国々に知らせることに、わたくしは何の憂慮もありません。自業自得でしょう?わたくしにだって、やり返す権利はあるはずです。今まで、国に…王家に尽くしてきたつもりです。その結果が冤罪(これ)です。命を差し出す代わりに、名誉を取り戻したいのです。

それに、処刑に間に合うかどうかは、もはやどうでもいいのです。今のわたくしには、命より矜持の方が大切なのです。わたくしは、自分の名誉を守りたい。冤罪だと、己の潔白を証明し、世の人々に知らしめたい。牢に入れられ、考えました。わたくし、頑張ってまいりました。母の名を汚さぬよう、王家の体面を保てるように、勉強もマナーも、慈善活動や他のことも頑張りました。けれど、冤罪で処刑される。わたくしは、自分が可哀想だと思ったのです。

王家の体面などもう知りません。もうどうでもいい。誰が真犯人で、誰がわたくしに罪をきせたのか、その理由さえも関心はありません。ただ、冤罪を晴らしたい。名誉を回復したい。

命を差し出すのですから、最期に一つ我儘を言うくらい、許されるでしょう……?…」

そして、小さな声で姫様が呟くように続けた。

「お母様が悪く言われるのは嫌なのです…。わたくしのせいで、お母様が『あんな娘を生んだなんて王妃失格だ』、『妹を殺そうとする娘の母親だ。王妃だって裏では何をしていたかわからない』そんな風にお母様が蔑まれるのは耐えられません。お母様は立派な方でした。優しくて、暖かくて…清廉潔白な方でした。わたくしが冤罪をきせられたせいで、お母様が侮辱されるのは嫌なのです。ですから、どうしても冤罪だと証明したいのです。わたくしの命があるかどうかはどうでもいい。わたくしは、自分の名誉を回復したい。それは、わたくしが死んだ後でもかまいません」

ルーミア様の無念さが伝わってきた。わたしは頷くことしかできなかった。

「よろしくお願い致します」

ルーミア様が頭を下げられた。受け取った便箋を両手で捧げ持ち、姫様に誓った。

「必ず、高等法務院へ届けます」

わたしの言葉を聞き、姫様は微笑んでくださった。


「つぎですが、母の形見を、母の墓所に納めていただきたいのです」

ルーミア様がおっしゃった。

「連合銀行の金庫に預けてあるお母様のネックレスを、お母様に…お母様の墓所に返していただきたいのです。金庫にある他のものは全て司祭様のお好きに処理していただいてかまいません。他の宝石や、教会と共同で行っていた事業をはじめ、いろいろな権利書が入っておりますので、今回のお礼として受け取ってくださいませ。孤児院や治療院の運営に役立てていただくのでも、司祭様が個人的にお使いになるのでもかまいません。司祭様のお役に立ててくださいませ」

姫様はもう一通の便箋を渡してくださった。

「わたくしの金庫の中身の全ての権利をアキム司祭様に移譲すると記載しております。金庫の中に、ケースに入った大きなサファイアのネックレスがあります。たぶん、見ればわかると思います。部屋に置いておくと姉や妹に盗られてしまう可能性があったので、金庫に預けておりました。お母様の形見なのです。母の家に代々受け継がれてきたものだそうで、母から娘へと代々女性に引き継がれてきたそうです。息子しか生まれなければ孫娘へ…そうして受け継がれてきたのだと母が教えてくれました。わたくしはもう身に着けられませんし、引き継ぐこともできません。どうか、機会を見つけてお母様の墓所に返していただきたいのです。どうか、お願いいたします」

ルーミア様が頭を下げられた。

了承を伝えて、本当に他のものはわたしが好きにしてよいのか確認すると、「司祭様なら良いようにしてくださると思いますので」と微笑まれた。

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