姫様へ(司祭アキム)
わたしは教国の教区で司教となった。
ルーミア様が亡くなってからのラスター王国は、坂道を転げるように転落し、衰退していった。
貧富の差は広がり、治安は悪化の一途を辿った。
ルーミア様を真面目なだけだと評価した者たちは、その真面目さが国を支えていたのだとわからなかった。何の面白味も可愛げもないと評価した者たちはただ知らなかったのだ。優しく可愛らしい方だったことを。無駄なことをする頭のイカれた方だと言った者たちは、未来を見据え、可能性の種を撒いていたことに気づけない愚か者だっただけだ。姫様が死ねばいろいろやり易くなると言った者たちは、結局身を滅ぼした。確かに姫様がいなくなって、不正や横領が横行したが連合の鑑査で白日のもとに曝され、国の評価をさらに落とした。
ルーミア様を冤罪で処刑した一件で、ラスター王国は連合の理事国を外された。
教会と国が孤児院から手を引いたことで、私設の孤児院が作られたが、孤児に強制的に売春をさせたり人身売買の温床となった。
他国で人身売買の組織が摘発され、ラスター王国から孤児が売られてきたことが判明した。
孤児の人身売買で、さらにラスター王国は連合加盟国の中で評価を落とした。今では連合の監督下におかれ、全てにおいて連合の決裁を必要とする。事実上、自治権を持たない状態となっている。
治療院はもはや機能しておらず、志のある治療師は他国に流れた。金のある貴族や商人でなければ治療は受けられず、ラスター王国の死亡率は跳ね上がった。
ルーミア様の兄である第一王子は王位継承権を放棄し、聖職者として修行中らしい。
ルーミア様の死とともに、ラスターは乱れ衰退していった。
ルーミア様は清廉潔白で、王家の最期の慈悲であった。
ルーミア様が撒いた種は、少しずつ花を咲かせ、実を結んでいた。
孤児たちは移動したそれぞれの国で立派に生きた。読み書きや計算ができたことで、一人前に扱われ、大人になって使い捨てられることはなかった。中には一財産築いた者すらいて、彼らは姫様への恩返しだと孤児や社会的に立場の弱い者に援助をした。そうして、慈悲の輪は途切れず少しずつ続いていった。
治療師たちも、ラスターの治療院を離れたが各地で人々の治療を続けたらしい。
連合は、ルーミア様が読み書きの習得を推奨していたことにいたく感動したらしく、これからの時代には必要なことだと識字率の向上を図り、学校の開設を推し進めた。そのことで、連合加盟国の子どもたちの識字率は8割を超えるようになり、比例するように国々は豊かになっていった。
毎朝、毎夕に神に祈りを捧げる。
時々、早朝に神聖で透き通るような光を見るときがある。その暖かく柔らかい光を見ると、ルーミア様の笑顔を思い出す。姫様の微笑みを、わたしは生涯忘れない。
***
ルーミア様。姫様の慈悲は種となり、芽吹きはじめました。あなたが生きた証はたくさんのところに残っています。あなたの撒いた種は花を咲かせ、実を結んでいくでしょう。
わたしも、姫様に恥じぬように生きたいと思います。
どうか、多くの者たちがあなたのように清廉潔白で慈悲深くありますように…。
優しい世界になりますように、願いをこめて。
次で最終話です。
お付き合いいただいて、本当にありがとうございます。あと少し、よろしくお願い致します。




