出国(王子レリック)
父王にルーミアの葬儀を行いたいと相談したが、父は許さなかった。ルーミアは冤罪を着せられて処刑されたというのに、父は国の体面が傷つけられたとルーミアに怒っていた。完全に逆恨みだった。
「おとなしく死ねばよかったものを。連合の高等法務院へ書状など出しおって。ルーミアが余計なことをしたせいで、ラスター王国の評価が下がったのだぞ」
何を言っても、父には伝わらなかった。ルーミアの死を悼む様子もなかった。冤罪で処刑された娘を悼むでもなく、悲しむでもなく、余計なことをしたと憤る父に期待する気持ちは一切なくなってしまった。
ルーミアを悼んで祈りを捧げて生きていきたい。贖罪をしたいという気持ちが日に日に強くなっていった。アキム司祭へ相談すると、姫様が守ろうとしたラスター王国の民のため、この国でできることを王族として果たしていくことも贖罪だと言われた。それと同時に、聖職者になるなら教会へつないでくれるとも言ってくれた。ルーミアを慕っていた者たちからは嫌われていることはわかっていた。それでも、司祭は僕にも誠意を持って対応してくれた。
僕は、僕にできることをしてからラスター王国を離れることを決めた。もうこの国に未来はないのかもしれない。父王は僕では止められなかった。第一王子といっても、何もできなかった。
孤児院や治療院の予算がなくなったことも、僕では力及ばず役人にあしらわれるだけだった。ルーミアが母のあとを継いで慈善事業に力を入れ、予算をもぎ取り続けたことがどんなにすごいことだったのか、ルーミアがどれほど頑張っていたのか、僕はその時初めて知った。
アキム司祭が、ルーミアの遺産を使い、妹の遺志を継いで民のために動いてくれていたことも知った。僕は自分を恥じた。司祭がルーミアの金庫の権利を移譲されたことが面白くなかった。しかし、司祭は僕よりずっとルーミアの想いに寄り添ってくれていた。
僕は大臣や役人の汚職や横領の証拠を集め、連合に告発した。集めた証拠の中に人身売買組織に繋がる証拠もあったらしく、ラスター王国はさらに連合での評価を落とした。
父王は僕にも激高し、ルーミアの時と同じように「余計なことをした」と怒っていた。
もう、この国にはいたくない。ルーミアへの贖罪として、神に仕えようと心を決めた。王位継承権を放棄し、教国へ向かった。つないでくれるといったアキム司祭には頼らなかった。頼ってはいけないと思った。知らない土地で、知らない人たちの中で頑張らなくてはならないと思った。たとえどれ程辛くても、自分で進んでいかなくてはならない。それも僕への罰だと思った。
教国で聖職者となるべく教会に入った。それからはつらい日々だった。今まで掃除も洗濯も自分でしたことがなかったから、何もできないと馬鹿にされながら雑用の仕事を覚えていった。それでも、王族として難しい本を読めたり、数か国語かを話せたり、計算ができたり…今までの知識が僕を助けてくれることもあった。
ルーミアの兄だと、妹を死に追いやったと責められることも蔑まれることもあった。
アキム司祭様から託された母の、ルーミアのネックレスは、ラスター王国を出る前に母の墓所に納めた。ルーミアの遺髪も、母の墓に納めてきた。その時、ルーミアの遺髪を数本もらった。母とルーミアが描かれた絵と、ルーミアの遺髪をロケット型のペンダントに入れ、ラスター王国を出た時から肌身離さず持っている。
許されるとは思わない。けれど、ルーミアを近くに感じることで、どこか救われるような感じがした。他にルーミアを感じるものは何もなかった。
ルーミアは夢にさえ出てきてはくれなかった。
神父から神官、神官長となり、長い時間が過ぎていった。己の髪に白いものが混じるほど年を重ねても自分を許せないまま、ルーミアのために神に祈り続ける日々だった。




