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妹(王子レリック)

僕は最愛だったはずの妹を、自ら死に追いやった。


ルーミアが生まれた時、僕の顔を見て泣き止み、僕の指を握って離さなかったあの子を本当に愛しいと思った。兄として、僕がこれからこの小さな妹を守るのだと自然とそう想えた。

母から病床で「ルーミアを頼むわね。どうか、妹を守ってあげてね」と言われた時、僕は何があっても妹を守ると誓ったのに…。


ルーミアが処刑され、その冤罪が晴らされた数日後に、連合から浄化の能力者()()がやって来た。

元第三王女の魅了は王宮の隅々に影響していたため、王族や大臣、役人など、かなり多人数が浄化の能力を行使する対象となった。

ラスター王国の浄化は数か月がかりで行われた。連合が当初想定していたよりも、魅了の影響が大きかったのだ。何度も繰り返し浄化を受け、徐々にもやのかかっていた視界が鮮明になっていく感じがした。それと同時に罪悪感と後悔に襲われた。

それまで、夢の中の出来事であったようだったのが、あれは現実だったのだと思い知る。

僕は確かに、実の妹の処刑を提案していた。父である国王に、ルーミアを「処刑すべきです」と進言したのは僕だった。ルーミアはあの時、信じられないという顔をしていた。目を見開き、僕を見つめていた。そしてやがて、悲しそうな痛そうな顔をして目を伏せた。

なぜ今になって、これ程はっきり思い出すのか…。

ルーミアにあんな表情(かお)をさせて、酷い言葉を言い放ち、冷たい視線を向けた。今頃になり、自分のしでかしてしまったことの非情さを痛感した。自分ではない誰かがしたことのように思えるが、確かに僕の所行だった。

後悔したところで、ルーミアの命は失われてしまった。僕が死に追いやった。もう全てが手遅れだった。


守れなかった。僕が引き金を引いた。

ルーミアを想って涙を流すことさえ、許されない…僕は、大切な妹にそれほどの罪を犯した。


数か月をかけ、やっとのことで王宮の浄化が終わると、何事もなかったかのように日常が戻ってきた。ただ、ルーミアがいない。

王族も役人も、ルーミアのことには一切触れない。はじめからいなかったかのように、誰一人口に出さなかった。ルーミアを想う僕だけが、取り残されたように感じた。

ルーミアを(しのぶ)ために部屋に行くと、何一つルーミアのものは残っていなかった。部屋中が荒らされ、本当に何も無くなっていた。悲惨としか言い様のない有様だった。

僕が持っていたはずだったルーミアからの贈り物も、僕の手元には何もなくなっていた。たくさんもらったルーミアが刺繍してくれたハンカチも、ルーミアが作ってくれた剣の鞘につけていた房飾りも、ルーミアからの手紙も、何一つ妹からもらった物は残っていなかった。魅了の影響下で全て処分してしまったらしいのだが、僕自身は覚えていない。


ルーミアは連合銀行に金庫を持っていたはずだと思い問い合わせたが、個人情報は機密事項だと教えてもらえなかった。(つて)を辿ってどうにか調べたところによると、ルーミアの金庫の権利はアキム司祭に移譲されたらしい。


僕はルーミアの墓に参る資格がないと思っていた。だから、ルーミアの墓を訪ねることもできずにいた。

しかし、ルーミアを(しのぶ)ものが何もなく、耐えきれなくなった僕はルーミアの墓を訪ねることに決めた。

ルーミアの遺体は教会が引き取ったことは知っていた。アキム司祭ならルーミアの遺体がどうなったのか、墓がどこにあるのかを知っていると思った。ルーミアに最後に面会したのはアキム司祭だったのだから…。

しかし、アキム司祭を訪ねてわかったことはルーミアの墓がないことだった。王族である妹を火葬したと知らされて激高した僕は、司祭へ掴みかかった。そこで司祭からルーミアの手紙を見せられた。そこにはアキム司祭への感謝が綴られていた。最期まで自分に優しくしてくれた人を困らせないでほしい…そう書いてあった。自分に会いにも来ず、助けもしなかったくせに、今更遅い。墓がないと文句を言う資格さえない。まるで、僕に向けて書かれた手紙だと思った。僕の罪悪感と後悔に追い打ちをかける内容だったが、自分を戒めるためにもその手紙を譲ってほしいと司祭に頼んだ。しかし、司祭からは断られた。


ルーミアは、僕に言葉を残してくれてはいなかった。

僕がルーミアにした仕打ちを考えれば当たり前なのだが、うちひしがれた。


アキム司祭は、ルーミアから預かっていた母の遺品を僕に預けてくれた。母と妹二人の遺品だと思うと、胸が苦しくなる。ルーミアが「自分はもう身に付けることも引き継ぐこともできない」と言ったという。泣きたくなった。本当なら、ルーミアが自分の娘へ引き継いでいくはずのものだったのだ。遺品のネックレスと一緒に、司祭はルーミアの遺髪を渡してくれた。せめて母のところで遺髪だけでも一緒に眠らせてあげたい…アキム司祭の心遣いが有難かった。ルーミアが最期に会えたのが僕ではなく、司祭だったことは幸いだったのかもしれない。兄として情けないが、ルーミアに何もしてやれなかった。


罪悪感と後悔で押しつぶされそうになりながら、僕は教会を後にした。




お付き合いくださっている方々、本当にありがとうございます。

目標達成できました。

あと数話、お付き合いいただけると嬉しいです。

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