王女の遺品(司祭アキム)
「ルーミアの最期の様子を教えてもらえないだろうか…。わたしに何か言葉を残したりはしていなかったか…?」
第一王子からそう尋ねられた。第一王子にも、誰にもルーミア様はお言葉を残してはいない。そう伝えると、第一王子は項垂れた。
王子が望むので、あの日ルーミア様と話したことを語って聞かせた。
ルーミア様はお兄様が迎えに来てくれるのを待っていた。次に生まれ変われるなら、獣になりたいと言っていた。そう聞くと「ルーミア、すまなかった。ルーミア…」そう呟いて王子は顔を覆った。
しばらく、王子は言葉を発することなく静かに顔を覆ったままだった。
しばらくして、王子が顔を上げた。その瞳は潤んでいる。そして、王子は語り出した。
魅了にかけられた間のことははっきり覚えていないらしい。ぼんやり記憶はあるが、夢の中の出来事のようなのだと。確かに、ルーミア様の処刑は自分が言い出したのだが、現実ではない自分の言ったことではないようなのだと…。
亡くなった王妃から妹を守るように言われたのに、自分が殺してしまった…そう悔やむのだが、ルーミア様が亡くなったことさえ夢のようで現実味がない…ルーミア様がいないなんて信じられない気持ちの方が強いのだと…。
苦しい胸の内を語っていたが、一番苦しかったのはルーミア様だと言うと、王子は「そうだな…」と頷いた。
魅了にかかっていたのかもしれないが、ルーミア様は冤罪を着せられて処刑されたのだ。ルーミア様の名誉は回復されたが、ルーミア様の命が戻るわけではない。信じていた兄にさえ捨てられたと、諦めと絶望の中で死んでいったのだ。
一生後悔の念を抱えて生きていけばいい。
それも償いだ…ルーミア様の命は戻らないのだから。
王子は何かルーミア様の遺品がないかと聞いてきた。
「何もなかったのだ…」
力なく王子は呟いた。
これまで、ルーミア様に貰った贈り物は魅了にかけられた間に処分したのかなくなっていた。ルーミア様の部屋に行ったが、全て持ち去られていて何もなかったのだと。ルーミア様を偲ぶものが何もないのだと。
ルーミア様の手紙が欲しいと言われたが、丁重に断った。ルーミア様の墓のことで何かあれば、自分が守ると言われたが、そういうことではない。あれは、ルーミア様がわたしのために残してくださったものだ。
悩んだが、ルーミア様から託された王妃様の遺品を第一王子に渡した。複雑な手続きを経て金庫から引き出し、手元に持ってきていた。
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姫様の金庫には、王妃様の遺品のほかに、いくつかの宝石と権利書があった。綺麗に整理されたそれらとは別に、大きな箱がある。中には、孤児院の子どもたちが描いた絵が入っていた。姫様と思われる人物が描かれたつたない絵や、割合上手くかけている絵、書けるようになったばかりの字で姫様へ感謝を綴った物もあった。嬉しいような、悲しいような気持ちになる。本当にルーミア様がいなくなってしまったことが痛ましい。
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「機会を見つけて王妃様の墓所に納めて欲しいと、お預かりしておりました。自分はもう身に着けることも引き継ぐこともできないから、お母様に返してほしいと…」
ケースを開けて、中身を確認してもらう。ルーミア様の言っていたサファイアのネックレスが入った脇にあった小袋を、王子は手に取った。中からルーミア様の一房の遺髪が出てきた。
「ルーミア様の墓はありません。せめて、お髪の一房でも王妃様とともに墓所で眠っていただきたいと思いまして。ご遺体からいただきました…」
わたしの言葉を聞き、王子はルーミア様の遺髪をそっと握りしめ涙を流した。時々嗚咽が漏れ聞こえる。
「最期までルーミアへ心遣いいただき、心より感謝する」
王子は必ず王妃様の墓所に遺品と遺髪を納めると約束し王宮に戻って行った。
その後、わたしはラスター王国を離れることとなった。
あと一話で終わりの予定でしたが、王女の兄についての話を追加したいと思います。
毎日更新を目標に準備して始めましたが、更新に数日かかるかもしれません。
ブクマしていただいている方々をはじめ、お付き合いいただいている方々、本当にありがとうございます。
あと数話で完結しますので、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




