その後(司祭アキム)
ルーミア様の無実が明かされた。
姫様が亡くなって、数か月が過ぎた。今回のことで、わたしはラスター王国を離れることになり、教区の異動と、司教への昇進を内示された。
ラスター王国を離れるまでにやることはたくさんあった。
孤児院に予算がつかなくなり、孤児院の運営が難しくなっていた。孤児たちをそのまま置いていくわけにもいかないため、他国や他の教区へ孤児たちを異動させる準備を行う。
また、治療院への予算もなくなり、治療師たちの生活が立ち行かなくなっていた。国の予算で治療費を賄っていたため、治療師たちは生活できていたし、民もわずかな料金で治療を受けることができていた。しかし、国から金が出ないので治療費を取るしかない。民たちは金が払えない。治療師たちは生活のために治療院を辞め、金のある者しか治療を受けられない…治療が受けられない者が増え、病や怪我が蔓延する。次第にそんな情勢になっていった。
ルーミア様から孤児院への菓子を注文されていた菓子店は、姫様の処刑の煽りを食い、閉店に追い込まれていた。姫様ははじめ、別の菓子店に依頼したのだが、「なぜ貴族を相手にしている我が店が孤児なんかのために菓子を作らねばならないのか」と断られた。そこで別の菓子店へ依頼すると、そこの店主はルーミア様の思いに賛同し快く注文を受けてくれた。はじめて菓子の見本が届いたとき、姫様はとても喜んでいた。手を抜かず美味しい菓子を作り、可愛らしくラッピングして届けてくれる良心的な店主だった。ルーミア様が心を痛めると思い、教国への移住とそこでの出店をすすめると、悩んだ末に店主は了承した。きっと、教国で人気の菓子店になるだろう。
*
ルーミア様からの贈り物が届かなくなって幾月か過ぎたある日、訪問先の孤児院で子どもたちに尋ねられた。
「姫さまは、ぼくたちのことを忘れちゃったの?」
「わたしたちのこと、嫌いになっちゃったの?」
不安そうに尋ねる子どもたち。
「わたし知ってるわ。ルーミア様はアクニンだったからショケイされたんだって」
「アクニンってなに?」
「よくわかんないけど、悪いことをしたんだってまちのおとなが言ってたよ」
首を傾げながら、子どもたちは話していた。
「ルーミア様は、君たちに何か嫌なことをしたかい?」
わたしが聞くと、彼らは揃って首を振った。
「姫さまは、いつもやさしかったよ。ぼくね、姫さまの前でころんだことがあるんだ。姫さまは、ぼくのかおとおひざをキレイなハンカチでふいてくれたよ」
「わたしは、姫さまにお花でかんむりをつくったの。じょうずにできたねって、あたまをなでてくれたわ」
子どもたちは、口々に姫様との優しい思い出を語った。
「姫様のことが好きかい?」
「うん」と、大きく頷く子どもたち。
「姫様のことを悪い人だと言う人がいるかもしれない。でも、君たちにとって、ルーミア様は優しい人だった。いい人だっただろう?人の言うことではなく、自分がどう思ったかを信じなさい。姫様が君たちにとって優しい人だったなら、姫様は優しいいい人なんだよ」
子どもたちは、難しそうな顔をしていた。
「まちの人がウソついたの?」
「街の人は、姫様が優しい人だと知らないのかもしれないよ?姫様に会ったことがないのに、姫様は悪い人だっていう誰かの話を信じてしまったのだとしたら、その人にとって姫様は悪い人なんだよ。でも、君たちはルーミア様に会って、優しくしてもらっただろう?姫様が優しい人だって知ってる。だから、君たちにとって、姫様がどんな人か聞かれたら、優しい人だって言っていいんだよ。君たちにとって、姫様は優しい人だった。わたしにとって、ルーミア様は慈悲深く気高い方だったよ」
いつか、わたしの言葉の意味をわかってくれればいいと思った。ルーミア様は、子どもは宝だと言っていた。子どもは未来だ…光だと…。
「ルーミア様は、遠い遠いところにいってしまったんだ。君たちを忘れたわけでも、嫌いになったわけでもない。ただ、とても遠いところだから、もう君たちに贈り物を届けることができなくなってしまったんだよ。姫様も、残念がっておられると思うよ。君たちが喜んでくれるのを、姫様は何より嬉しいとおっしゃっていたから…」
子どもたちは、姫様から忘れられたのでも、嫌われたのでもないと聞いて安心した顔をしていた。そんなに遠いところってどこだろうと話している。手紙を書いたら届くかと聞かれ、もしかしたら届くかもしれないが、わからないと答えた。子どもたちは、姫様に手紙が届くまで何度でも書けばいいのだと話し合い、建物の中に戻って行った。
*
ルーミア様に託された遺産を使い、自分がラスター王国から離れるにあたり、出来る限りの手はずを整えていった。
そんな時、わたしを一人の王族が訪ねて来た。




