幕引き(調査官ロイ)
上司である高等法務院の裁定官が到着するまで、俺とジュストは調査を続けた。
ラスター王国の王族たちも、役人たちも俺たちに誠意を示すことはなかった。
ルーミア様を入れた牢への案内を頼むと、貴賓牢に案内された。アキム司祭様の添書で姫様が地下牢に入れられていたことは知っていたが、もちろん、貴賓牢にはルーミア様とのつながりはなにもなかった。調査の杜撰さや判断の浅慮さなど、様々なことが露見してなお、ルーミア様にした非道な行いを隠そうとする姿勢に腹が立った。
「ここではない。ここにルーミア様がいたことはない」
そう告げても役人は譲らない。諦めて、自分たちでルーミア様が入れられた牢を探すと言えば、好きにしろと言われた。血判とのつながりを辿り、たどり着いたのは地下牢の一室だった。暗く湿ってカビ臭い臭いがした。清潔とは言い難いその場所にルーミア様は囚われていた。
俺たちがその場所を突き止めると、役人は慌てて言い訳をはじめたが、俺は聞いていなかったからなんと言っていたかは知らない。
牢の中に入り、ルーミア様に思いを馳せる。どれほど無念だったか。こんな場所に入れられて尊厳を踏みにじられていい人ではなかった。
ルーミア様の自室を訪れると、そこには何もなかった。野盗にでも襲われたような有り様の部屋に唖然とした。金目の物は全て持ち去られていた。カーテンのレースや天蓋の装飾さえ剥ぎ取られ、酷いとしか表現できないほどに荒れ果てていた。
再び役人は何か言い訳をしていたが、俺の耳には何も届かない。ジュストの「ひでぇな…」という呟きだけが耳に残った。
ルーミア様のあまりの扱いにうちひしがれていると、第三王女が貴賓牢に入れられたことを知った。
「なぜ正統な血筋の王女が地下牢に入れられたのに、その王女に冤罪を着せた偽王女が貴賓牢にいるんだ?」
そう抗議しても、王も役人も言葉を濁すばかりで埒が明かない。この国は本当にどうかしている。なぜこれほどに偽の第三王女を庇うのか。
調査官として大方の調査を終えた頃、裁定官が到着した。現状を報告すると、上司は本部に連絡を取り第三王女を調べた。
上司の調べで、第三王女が魅了の能力者であることがわかった。無意識で魅了の能力を使っていたらしい。
***
俺たちは他人の能力の影響を受けないように訓練しているし、本部からそのための道具も「御守」として支給されている。
本来、各国の王族も他の能力者の介入をはね除ける能力を持っているはずだった。正式に高等法務院の能力者として訓練した者を凌駕する力はないが、王族でもない小娘一人に振り回されることはない程度の力は持ち合わせているはずだった。
***
ラスター王国の王族も役人も、揃いも揃って魅了の影響を受けていた。
偽王女は連合の預かりとなり、高等法務院へ移送されることになった。これから能力の正確な把握と訓練が行われる。性格もあるから、世に害を成すと判断されれば、一生連合の施設で飼い殺しにされる。
すでに無実の王女に冤罪を着せて処刑させている。無意識とはいえ、能力を使って人を害している。自分のせいなどとは微塵も考えないあの様子では、よくて飼い殺し。危険と判断されて処分もあり得る。
呆気ない幕引きだった。
偽王女の処遇などどうでもいい。
ラスター王国には、魅了の影響を除くために専門の浄化の能力者が派遣されるという。
それすら、どうでもいい。
ルーミア様があれほど心を砕いてくれていた孤児院…恩があったはずなのに。その孤児院のシスターでさえ、処刑される姫様に石を投げた輩がいた。
失望した。
なんとか見つけ出し、ジュストとそのシスターを訪ねると「孤児にばかり金をかける王女が嫌いだった」と語った。自分も物をねだったが貰えなかった。孤児なんかに物を与えるなら、自分にくれた方がよっぽどいい。「孤児に読み書きまで教えるなんて、イカれているんじゃないあの王女」とルーミア様を蔑んだ。
腹が立った。悲しかった。
アキム司祭様も、ルーミア様に石を投げた孤児院の者を探していたから、司祭様につきだしてやった。きっと、司祭様がいいようにしてくれるだろう。
生まれ故郷であるこの国に、もう未練はない。この国は、ルーミア様を処刑した。俺にとっては懐かしい故郷ではなく、憎むべき国になってしまった。滅びてしまえばいいとさえ思う。
ルーミア様の無実が明らかにされた。潔白であったことが証明され、姫様が冤罪で処刑されたことが連合の名で各国に示された。
ラスター国が魅了の影響を受けていたことも、合わせて世に明らかにされた。
これらのことによるペナルティとして、ラスター王国は連合の理事国から除名された。




