王女の贈り物2(調査官ロイ)
「司祭様、誕生月のプレゼントなんていらないから、もっと食事の量を増やしてよ」
ある日、俺はアキム司祭様に食って掛かった。贈り物は孤児院の予算から費用が出されているのだと思っていた。どうせ予算から出ているんだったら、ルーミア様の偽善行為に使うのじゃなく、食事の量を増やしたり、肉を増やしたり、小さくなった服を新しくして欲しかった。
珍しく、司祭様が厳しい声を出した。
「君たちへの贈り物は全て、ルーミア様が私財から出してくださっているのだよ」
そう司祭様は言った。
姫様の好意にほかならない。別に贈り物をする必要はないのだと。他にも、足りない予算をルーミア様が私財や自分の支度費用から補ってくれているから毎日食事が食べられるのだと教えてくれた。
王族一人一人にあてがわれる支度費用のうち、他の王女たちが月に十着のドレスを作り宝飾品を買うところ、ルーミア様はドレスを一着だけ作れる予算を残して、孤児院や治療院に費用を回してくれているのだという。それでも足りない急な出費や俺たちの毎月のプレゼントの費用は姫様の個人資産から出ているのだと。不公平にならないように、王都にある四つの孤児院全てに毎月、贈り物をしているのだと聞かされた。
俺は何も言えなくなった。知らなかった。
「ルーミア様は、君の弟に感謝していたよ。孤児院の子どもたちだって、誕生日は特別な日のはずなのに、それに思い至らなかった。あの子がそれに気づかせてくれたと」
アキム司祭様は、うつむいた俺の頭を優しくなでてくれた。
俺は、次にルーミア様が来た時に謝ろうと思っていた。俺の弟のせいで姫様が余計な金を出すはめになったのだと思ったし、偽善だと言ったことを申し訳ないと思った。姫様が俺の孤児院を訪れた時、声をかけるとルーミア様は予想外の言葉をくれた。
「謝らないでちょうだい。余計なお金ではないわ。誕生日は誰にとっても特別な日なのに、気づかなかったの。気づかせてくれて、ありがとう」
そう微笑んでくれた。くまのぬいぐるみを抱えた弟を見て「気にいってくれて、よかったわ」と、弟の頭をなでてくれた。
誰かが贈り物に絵本を望み、他の誰かがそれを自分で読めるようになりたいと望んだ。
姫様は、そんな願いさえ叶えてくれた。
孤児でなくても読み書きができるものは少なかった。裕福な商家の生まれや、大人になってから奉公先に恵まれれば読み書きが習える。そんな程度の識字率の国で、ルーミア様は孤児に読み書きや簡単な計算を教えてくれた。孤児に知恵をつけてどうするんだという大勢の反対を押し切り、手配してくれた。姫様は「読み書きができなくて困ることはあっても、できて困ることはないでしょう?」と言っていた。
ただの労働力として買い取られ、働けなくなれば捨てられる。読み書きができれば、少しでもいいところで働けて、安定した収入を得られる。孤児だからとバカにされず、人として一人前に扱われる。孤児であっても、頑張ればちゃんとした仕事について暮らしていける。姫様はそんな光を示してくれた。
孤児院の子どもでなくても、金を出せば孤児たちと一緒に読み書きを学ぶことができるようにもしてくれた。読み書きを学びたい者から、ルーミア様は子どもの小遣い程度の金を取った。街の大人はがめついだの欲深いだのと言っていたが、子どもの小遣い程度で読み書きが学べるなんて安すぎるくらいだし、わずかにしかならない集めた金は全て孤児院や治療院に使われた。
欲深いのは街の大人なのに、姫様は聞こえる自分への批判をただ静かに受け止めて「子どもたちの未来が拓けるなら、それでいいのよ」と笑っていた。
俺が高等法務院に行った時、少しだが読み書きができることに、とても驚かれた。弟は俺よりもっと読み書きができ、計算も少しできるようになっていた。ルーミア様のお陰だと言うと、素晴らしい方がいるのだな…と連合の偉い人が感心していたのが、とても印象に残っている。
俺が孤児院を出るまで、毎月の姫様の贈り物は続いていた。俺が孤児院を出た後も、ルーミア様は孤児たちに贈り物を続けてくれていただろう。
疑いなくそう思える。ルーミア様は、そんな方だった。
俺の昔話を、ジュストは静かに聞いていてくれた。




