冤罪の王女(王女ルーミア)
わたくしは、明日処刑される。
妹王女の毒殺を謀ったと冤罪をきせられた。
わたくしは何もしていないと訴えても、誰も信じてくれなかった。きちんと調べて欲しいと訴えても、まともに調査もしてもらえなかった。裁判も行われず、わたくしの罪が断じられた。
妹の殺害を謀ったなど王家の威信に関わると、王籍を剥奪された。王女であったのに、貴賓牢ではなく地下牢へ入れられた。
ある者は、わたくしを真面目なだけが取り柄の娘だと言い、またある者は、わたくしが何の面白味も可愛げもない娘だと言った。ある者は、わたくしが無駄なことをする頭のイカれた娘だと言い、さらにある者は、わたくしが死ねばいろいろやり易くなると言った。
ある者は、わたくしが王家の慈悲だと言い、気高いと評した。またある者は、わたくしを清廉潔白だと言い、さらにある者は、わたくしが死ねばこの国は乱れるだろうと言った。
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わたくしの名前は、ルーミア・サラ・ラスター。ラスター王国の第二王女として生まれた。母は王妃で第一王子である兄とわたくしを産んだけれど、わたくしが十二歳になる頃に病で亡くなった。側室が産んだ子も含めて、ラスター王国には王子が四人、王女が三人いる。
ラスター王国は、いくつかの有力国と周辺国、および教会を束ねる教国からなる連合国同盟に加盟し、理事国の一つとなっていた。しかし、現状としてラスター国の王宮と教会はあまり仲がよくなかった。
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ある日、妹が倒れた。医者の見たてでは毒を盛られたのだという。そして、わたくしの部屋から毒の入った小瓶が見つかった。
「わたくしは何も知りません。それはわたくしの物ではありません。わたくしは妹を害してなどおりません。きちんと調べていただけば、疑いは晴れるはずです」
わたくしは訴えた。
「何も知らないなど、白々しい。お前の部屋から毒の入った瓶が出てきたのだぞ」
「そうよ。あなたがやったのでしょう」
「同じ王族として恥ずかしい。王家の恥だ」
腹違いの兄弟姉が口々にわたくしを罵った。
「違います。わたくしは何もしておりません。わたくしではありません」
無実を訴えたけれど、誰も信じてくれなかった。みんな、わたくしが犯人だと決めつけていた。助けを求めるように第一王子である兄を見たけれど、兄は汚いものを見るような目でわたくしを見ていた。そして、兄の言葉がわたくしを打ちのめした。
「父上、王女の毒殺を謀ったのです。その罪は許されるものではありません。処刑すべきです」
兄の言葉が信じられず、目を見開いた。見つめていても兄の表情は変わらない。汚い何かを見るように、憎々しげにわたくしに視線を向けていた。
「そうだな。実の兄が言うのだから、誰も反対はすまい。ルーミア、第三王女毒殺未遂の罪で処刑とする。王女が妹の毒殺を謀ったなど王家の威信に関わる。よって、お前の王籍を剥奪する。以上だ。連れて行け」
父王の言葉が理解できないまま、わたくしは兵士に連行された。両方から腕を掴まれ、引きずられるように牢に連れて行かれた。
わたくしが入れられたのは、貴賓牢ではなく、地下牢だった。わたくしの貞操など、どうでもよいのだろう。たとえ牢から出られても、一度地下牢に入れられれば貞操を疑われる。清いままでも関係ない。まともな縁談は望めない。だから、平民でも商家の娘など金があれば貴賓牢を融通してもらう。貴族の娘なら、まず地下牢に入れられることはない。
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王公貴族の罪を問う時は普通、連合所属の法務官が立ち会う。冤罪を生まないため。そして、王家や貴族家などの権力や身分のある者であっても、罪を犯せば公平に罰せられるように。第三者として、中立な立場で連合の法務官が調査や裁判、断罪の場に立ち会うことが連合加盟国の原則とされていた。
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わたくしを断罪するにあたり、法務官は呼ばれなかった。
きちんと調べて欲しいと訴えても、再調査されることはなかった。訴えても、裁判が行われることもなかった。
わたくしの主張は無視され、ラスター王家によって一方的にわたくしの罪が断じられ、元第二王女ルーミア・サラ・ラスターの処刑が決まった。