きらきら
幼馴染のととくんと私の2人で、UFOキャッチャーをして手に入れたのはおこずかいが半分になった財布のみ。
今日、家に帰ったらお母さんにランチ代もらわなきゃ。
私はととくんが迷子にならないようにぎゅっと肩を抱きしめて今日もまた友達を作れなかったお互いを慰め合いながら家へ向かって歩いていると、ふと暗い路地に黒い影が見えた。
興味本位でそちらに顔を向けると、そこには黒づくめでふんわりくるくるボブの生気が薄い男が可愛いピンク色の電子煙草を咥えながら自販機でぼやっと飲み物を選んでいた。
もしかしたら幽霊を初めて見ちゃったかもと思った私はさっきよりもゆっくりと足を進めながらその人を見ていると、横髪の隙間から見えた目がぱちっと合ってしまった。
愛「…ととくん。走るね。」
私は幽霊と目が合った時の対処法なんか考えていなかったのでとにかくその場から逃げるためにととくんをしっかり掴んで走っていると、ばぁっ!と幽霊が息も荒げず私たちの目の前に飛び出してきた。
「なんで逃げたの?」
パーマボブがとっても似合う幽霊さんは、走っても相変わらずちょっと血色の悪い薄紫色の唇でそう質問してきた。
愛「え、えっと…」
とと「何も喋らなくていい。」
愛「え?で、でも…」
「名前は?」
愛「…愛、です。」
「俺と学校一緒。」
そう言って、幽霊さんは3年生と分かる青色のカバーがついた学生証を見せて『葉星 結心』とちょっと掠れているハンコで押された名前を指した。
「3年の葉星 結心。君って1年の白雪ぼっちでしょ?」
愛「しらゆ…き、ぼっ…ち…?」
とと「愛、もう行こ。」
愛「待って。…私って白雪姫って呼んでもらってるんですか?」
私は憧れのお姫様とみんなに呼ばれてることを知り、胸が高鳴っていると結心さんは鼻で笑った。
結心「…ねえ。そいつの名前は?」
と、結心さんは私の質問を無視して帰りたそうにしているととくんを指した。
愛「ととくんです。」
結心「ふーん…。ととくんはフルネーム?」
愛「え…あ、兎乃 とと丸です。」
私は初めてととくんのフルネームを聞く人に会い、目の前で電子煙草の煙を撒き散らす結心さんが曇り空から顔を覗かせる星のように煌めいて見えた。
結心「へー…。いつから知り合い?」
ととくんに釘付けな結心さんは嫌そうな顔をするととくんの頬をぷすぷすと指しながらそう聞いてきた。
愛「私が3歳の時におじいちゃんがととくんを紹介してくれたんです。」
結心「…おじいさんの知り合いだったってこと?」
愛「養子です。」
結心「なるほど…。」
私は急にわしゃわしゃと頭をかく結心さんがなんで眉を寄せているのか分からないでいると、結心さんは顔をゆるめて片側だけの口角を上げた。
結心「明日、昼飯の時にお前のクラス行くわ。」
愛「えっ…?な、なんでですか…?」
結心「たまにはとと丸以外とも食いたくない?」
愛「…そんなこと、思ったことないです。」
私は背中がいつもより小さく感じるととくんを一段と強く抱きしめて気持ちをしっかり伝える。
結心「じゃあ…、とりあえず3人で。ちゃんと学校来いよ。」
愛「わ、分かりました。」
私はととくんのこれ以上嫌そうな顔を見たくなかったので、1回だけのランチを約束してその場を去った。
環流 虹向/桃色幼馴染と煙気王子様