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ぽかぽか

気づいたら私はたくさんの毛布で包まれていて、1つのシワもない不思議なロゴがいっぱいの服を貸してもらっていた。


「こちら右手から、ほうじ茶、緑茶、玄米茶、生姜ハチミツ、ホットオレンジがありますので好きなものをお召し上がりください。」


愛「…ととくんは?」


「えっと…、兎乃様でしたら温かいお風呂に入ってもらってドライヤーで乾燥させていただいています。」


愛「そうですか…。ありがとうございます。」


「はい。もうしばらくお時間がかかってしまうのでお先に煮込みうどんをお持ちします。」


そう言ってツバキのいい香りがした髪の毛かっちりお姉さんは足音立てずに部屋の外へ出て行った。


1人に私はストーブ前から少し離れ、出してもらった生姜ハチミツをすするように飲んでいると天女様かと思うほど透き通った桃色と薄緑色の布を纏わせた雲のような羽衣を着ている結心さんがやってきた。


結心「温まったか?」


愛「…はい。ありがとうございます。」


結心「まだ唇が青いからちゃんと温まらないと。」


そう言って結心さんは私の体を軽く抱きかかえてストーブ前に座った。


結心「とと丸は今サウナ室で水抜きしてるから。多分、寝る前には戻ってくると思う。」


愛「…結心さんは神様なんですか?」


私はずっと気になっていたことを聞いてみた。


すると結心さんは初めて見る切なそうな顔で優しく笑い、私の首に温かい手を置いた。


結心「愛は神様と普通の人間、どっちの俺が好き?」


と、結心さんは私の首元に置いた手を少し締め付けながら聞いてきた。


愛「んー…、私は結心さんが好きです。」


私がそう言うと結心さんは眉毛をピクッと動かし、私を抱き寄せておでこをくっつけた。


結心「俺はここでは神様、学校では人間、結心はただ親がつけた名前なだけで何かの種ではないよ。」


種…?


神様…?


人間…?


なんか…、難し過ぎて今の私にはよく分からないよ。


愛「私にどっちを好きになってほしいか、結心さんが決めてください。難しいことはよく分からないです。」


結心「…どっちも好きにならなくていいよ。」


そう言って結心さんは自分のまつ毛で私のまぶたを少し撫でると、次は鼻先で私の鼻を撫でた。


結心「愛は自分が思うがままに過ごせばいいよ。辛いことがあるならそこから逃げ出せばいいし、楽しいことや嬉しいことで心が喜んだ時に笑えばいい。とと丸もそう思ってるんじゃないかな。」


愛「…結心さんはととくんのこと、どう思ってますか?」


私は少し動いてしまえば唇が触れてしまいそうな結心さんに、唯一ずっとそばにいてくれたととくんの存在を質問してみる。


結心「どうって?」


愛「みんながととくんの声が聞こえないように、バラバラになったととくんや海に一緒に入ったととくんの声が聞こえなくなったんです。そういうの…結心さんはどう思うのかなって…。」


自分から初めてととくんの存在をうやむやなものにしてしまうことを口にした私はなんだか脈がおかしく感じる。


結心「でも、普段は聞こえてるんだろ?」


と、結心さんは私から顔を離して首を傾げた。


愛「聞こえてます…。おじいちゃんが死んでから…。」


結心「じゃあとと丸はとと丸として生きてる。だから愛とたくさん話せるんだろ。」


愛「…そうなんですかね。」


結心「俺はここの“神様”、とと丸は愛の“幼馴染”。そういうことだから人がどう言ってきたって気にしなくていい。」


愛「結心さんはととくんの“友達”ですか…?」


結心さんの言ってくれたことが嬉しかった私はととくんと結心さんがお話し出来るようになったらもっといいなと思い、聞いてみた。


結心「俺は愛と仲良くなりたい。だから愛がとと丸と仲良くしてほしいって思ってるならそうするよ。」


愛「…そうじゃなかったら?」


結心「まあ、元々は愛と2人でデートしたかったし。そこは愛次第。」


結心さんがそう教えてくれるとツバキのお姉さんが私のために煮込みうどんを持ってきてくれたらしく、襖の向こう側からこちら側に声をかけた。


その声を聞いた結心さんはずっと抱きしめていた私に仕事をしてくると耳打ちして体を離し、服のシワを軽く直すとお姉さんと入れ替わりで部屋を出て行ってしまった。


愛「ありがとうございます…。」


私は久しぶりにひとりぼっちをいっぱい味わう時間に少し喉を締め付けられると、お姉さんが出来立てのお茶をそばに置いてくれた。


「大丈夫です。ハーベン様の息吹きを浴びれば幸せが必ず訪れます。」


愛「…そうですか。」


「もしよかったらこちらを。」


そう言ってお姉さんは小瓶に入った白い砂のようなものを見せてきた。


「こちら、ハーベン様の息吹きを結晶化させたものなんです。」


と、お姉さんは私の手を取り、ひとつまみにも満たない量を手のひらに出した。


「こちらを鼻から体内に吸収すれば、次々と吐き出す私たちの毒の呼吸を浄化してくれて神に仕える者として正常な働きが出来るんです。」


愛「すごい…、ですね…。」


「はいっ。毎食一雫分頂いて体の中に入った食べ物から出る毒も浄化してもらうんです。」


“神様”の話をしてくれたお姉さんは少し瞬きの回数が少なくて怖く感じたけど、あんなに熱心に教えてくれたのだから本当のことなんだろう。


私は鼻での飲み方を知らなかったのでもらった結晶を口から入れ、あつあつの煮込みうどんを時計の針も聞こえない静かな部屋で1人食べた。



環流 虹向/桃色幼馴染と煙気王子様

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