おーぷにんぐ
にゃ。
「もしもし、いつもお世話になっております。私、BUキャンペーンサポートセンターの佐藤と申します。只今お時間2〜3分程よろしいでしょうか?」
「あ、はい、大丈夫ですけど、、、」
「ありがとうございます。早速なのですがBUをご利用のお客様に対してお得な無料キャンペーンのお知らせがございまして〜」
コールセンターの営業において大事なのは第1声。もしもし、という一句で決まると言っても過言ではない。
逆にこの一句で懐に入ってさえしまえば後は決められたスクリプトを読むだけでいい。それがこの俺、佐藤 太郎が半年コールセンターで働いて身につけた物だ。
そして、俺は勝ち取った契約を管理者に知らせる為、高らかに手を挙げる。
「はぁい、佐藤さん今日も流石ですね〜」
そういって笑顔で駆けつけ確認作業をしながら、いつもさりげなく褒めてくれるのは神里 あかりさん。間違いなくこのオフィスのマドンナである、と俺は思っている。
実際、神里さんの魅力に抗えず告白し玉砕。気まずくなって職場を去る。
そんな大学生バイトを俺はこの半年で20人は見てきた。
「佐藤さん、1件獲得!本日12件目です!ありがとうございます〜」
「「「ありがとうございます〜」」」
佐藤さんの声かけと共に他の管理者も賛辞を送ってくれる。この瞬間が案外気持ち良いのだ。
去りゆく神里さんの後ろ姿を見送り、またアウトコールを再開する。
12時〜20時、土日祝を除いた平日が俺の出勤日。
時給1000円。実家暮らし、大した夢などない普通の25歳である。
そんななんでもない俺の人生がイージーモードに突入するのは、なんでもない翌日の水曜日だった。
わん。