96話 疑念と残響
最後の魔道具に向かって樹海を進むウェッジたち。
ウェッジは魔力の尽きたフィールを背負い、ドゥーゼは杖を片手に一歩一歩踏みしめるように歩いている。
そのために歩みは遅く、目標地点までずいぶん時間を要した。
そして、四つ目の魔道具まであと少しのところまでやって来た。
ここで、ウェッジはフィールと荷物を降ろし、彼を木にもたれさせると、周囲を見渡した。
今までの流れで、魔獣は魔道具の近くを徘徊していた。
最後の魔道具もおそらく魔獣が警戒態勢を敷いている可能性が高い。
(やはり、いましたか……)
ウェッジの目は魔獣を捉えた。
しかも、三体。
魔道具を囲むようにして、辺りを見回している。
幸い、ウェッジたちはまだ気付かれていないようだ。
(間違いない)
ウェッジは確信した。
この《樹海》はウェッジたちを拒んでいる、と。
魔道具で結界を張られるのを防ぐために、魔獣を使って妨害している。
単なる木々の集まりが意思を持って、ウェッジたちに牙を剥いているのだ。
だが、ウェッジも《樹海》に負けるわけにはいかない。
ウェッジはナイフを構えた。
先の戦闘で、頭だけ吹き飛ばしても再生して、起き上がって来ることが分かった。
ならば、どう攻めるか。
先手を取れるこの状況で、最大火力にて初撃で仕留める。
それがウェッジの出した結論であった。
ウェッジが放つナイフは計六つ。
《破城》による頭部と胴体の破壊。
それを三体同時。
ウェッジが足のスタンスを広く取る。
両手のナイフを握りしめ、大きく振りかぶる。
極限まで引き絞った身体のバネは、すべてナイフの推進力に転化される。
そして、破壊の刃を解き放った。
触れるものを吹き飛ばす銀の閃光が、魔獣を抉る。
破裂音とともに魔獣の頭と胸が吹き飛んだ。
三体のうち、二体は狙い通りに倒した。
しかし、一番奥の魔獣だけ身体を捻り回避したのか、致命傷には至らなかった。
頭を半分吹き飛ばされ、胸に大穴を開けられても、こちらに突進してくる。
「チィッ!」
ウェッジは思わず舌打ちをして、次弾のナイフを手に装填する。
魔獣が《瞬間契約》による魔法を放ってくる。
ウェッジは後ろに飛び退き、降ってきた石の槍を躱す。
ウェッジは再び《破城》を放ち、魔獣に止めを刺そうとした。
しかし、ウェッジは聞いてしまった。
「■■■■《・・・・》……」
魔獣の唸り声、そのはずだ。
だが、魔獣が人の言葉を喋ったように聞こえたのだ。
どうして、と。
あり得ない出来事は、ウェッジの判断を一瞬遅らせてしまった。
その隙に、魔獣はウェッジの目の前まで迫ってきた。
魔獣の振り回した腕が、ウェッジの頭に迫る。
ウェッジは左腕で頭を守った。
岩で殴られたような衝撃。
ウェッジの身体が横に飛ぶ。
しかし、同時にウェッジの右腕はナイフを放っていた。
魔獣の腕にナイフが刺さる。
ウェッジは殴られた勢いそのままに、木に激突した。
「ぐうっ!」
苦悶の声が漏れた。
よろめきながらウェッジは立ち上がると、再びナイフを放った。
ウェッジの狙いは正確かつ精密に、先ほどと同じ所を穿った。
魔獣の腕に刺さったナイフと投げられたナイフがぶつかり合う。
次の瞬間、魔獣の半身が消し飛んだ。
ナイフ同士がぶつかった衝撃だけではない。
ウェッジは投げたナイフに《振動》を込めていた。
そして、二投目のナイフの振動する方向を最初とは逆の位相にしていた。
そうすることで、ぶつかった瞬間に、ナイフが共鳴し、反発し、瞬間的に大きな衝撃が生まれるようにしたのだ。
ウェッジの投擲技法、名を《残響》。
魔獣のわずかに残った半身は辺りに赤黒い体液を撒き散らし、倒れた。
ウェッジは自分の耳に異常がないか疑った。
先の魔獣の唸りに混じった言葉。
聞き間違いであってほしいと思ったほどである。
人語を解する魔獣など、それこそ前代未聞だ。
倒れた魔獣の亡骸を見る。
血のように赤黒い体液は、鉄の臭いがした。
だが、魔獣について気にしている余裕は無い。
(早く、《集魔球》を設置して結界を張らないと……)
しかし、荷物を取りに戻ったウェッジが見たのは、青い顔をして横たわったフィールだった。
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