94話 未知と道
ウェッジはナイフを魔獣に向けて放った。
都合、三本。
喉、眉間を狙うが、キィンと高い音と共に弾かれた。
体表は樹皮状の皮膚で覆われていて、投げナイフの効果は薄そうだ。
そして、先ほどから正体の分からない恐怖がつきまとっている。
ウェッジは反転して、距離を取ることにした。
後ろからがさがさと音がする。
走って追い掛けてくる魔獣の気配がする。
それほど速くはないものの、捕まったら何か致命的な結果になるという確信があった。
木々をかき分けて、フィールとドゥーゼの所まで戻ると、二人に早くここから離れるよう告げる。
ウェッジの背中越しに、魔獣の姿を捉えたフィールは素早く状況を察してくれた。
フィールが魔法を実行し、ドゥーゼを担ぎ上げた。
ウェッジも振り向きざまにナイフを放つ。
追いかけてきた魔獣が呻き声を上げた。
ナイフは目に刺さり、赤黒い体液が流れた。
そのまま、二投目を放つが、魔獣は横に素早く跳んだ。
魔獣の目の前に、蒼白い《契約書》が浮かぶ。
ウェッジは愕然としたが、驚いている暇はない。
牽制でナイフを放つと、フィールがウェッジの手を掴む。
フィールがドゥーゼとウェッジの二人を抱え、駆け出した。
先ほどまでウェッジのいた場所が、地面から突き出た石の槍で貫かれる。
「アレから離れましょう! 早く!」
ウェッジが叫ぶと、フィールがさらに速度を上げた。
高速で森を駆ける。
枝などでフィールの顔や足が傷ついていくが、彼は構わずに進んだ。
しばらく走った後、ようやくフィールは足を止めた。
二人を降ろすと、フィールは地面に大の字になった。
「はぁ、はぁ、ここ、まで、来れば、大丈夫、ですか、ね……?」
「ありがとう、フィール。助かりました」
ウェッジはフィールに礼を言うと、ドゥーゼに問い質した。
「ドゥーゼさん、貴女の言っていた魔獣というのは……」
「あァ、さっきアンタが見たヤツだ」
「あれは一体……?」
「アタイにだって分からねェ。けどよォ……、アタイも長いこと《運送屋》やってるが……、人型の魔獣なんてのは見たことが無いね」
ウェッジが見た魔獣、それはヒトの形をし、二足歩行をしていた。
「私も、《魔法契約》をする魔獣というのは聞いたことがありません」
ドゥーゼもウェッジの言葉に頷く。
魔獣は《原始魔法》を使う獣の総称。
そして、複雑な《瞬間契約》を行うのは、人間しかいない。
これがウェッジたちの常識である。
だが、この《樹海》では、常識が通用しなかった。
あの人型の魔獣には、凶暴な魔獣とは違った得体の知れなさがある。
(この《樹海》を結界で封じているのは、あの魔獣を外に出さないため……?)
ウェッジは単純に先遣隊の救援と魔道具の起動を行う任務だと思っていた。
だが、予想以上にこの《樹海》には危険が存在している。
先遣隊どころか、自分たちの身の安全すらも怪しくなってきた。
しかし、ここで投げ出すわけにはいかない。
そして、残る魔道具の起動のため、ウェッジたちは更に《樹海》の奥に向かっていった。
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