89話 運送屋と結界
次の日、ウェッジはエリィに呼び出された。
《協会》本部のエリィの部屋に向かう。
部屋に入ると、エリィの他にもう一人が立っていた。
「やぁ、待ってたよ」
エリィが手を振る。
「よろしくお願いします!」
その横で、元気よく挨拶してきたのは、見た目十代半ばの少年だった。
健康的な日焼けした肌、眉の辺りで揃えた前髪で、一見活発そうな印象だ。
収納の多そうなベストを着て短いズボンを着ていて、これから外に遊びに行くような恰好である。
「早速だが、昨日の話の続きをしよう。彼は、《運送屋》だ」
「どうも! フィール・デオンと言います!」
「こちらこそ、よろしく」
少年の溢れる若さにやや押されながらも、ウェッジは挨拶を返す。
ウェッジは過去に《運送屋》と一緒に依頼をこなしたことがあった。
《運送屋》は字のごとく、目的地までヒト・モノ・カネを運ぶ職業だ。
使う手段は馬や人力、魔法まで幅広く、業者も専門性により細分化され、多種多様だ。
ウェッジとフィールが挨拶を済ませたところで、エリィが話を進めた。
「昨日言った部隊の消失点、《侵食樹海》は人の足では一週間ほどかかる遠方だ。そこで、《転移魔法》を使える彼に運んでもらうことになる」
「彼も《転移魔法》を……」
見た目は幼いが、それなりに経験を重ねているという。
「それに、今回の仕事で連絡がつかなくなった人の中に、僕の師匠もいるんです。師匠は部隊を森に送る《運送屋》でしたので」
「そうですか……」
身内が巻き込まれているのであれば、心配にもなろう。
「そんな事情もあって、《転移魔法》を使える《運送屋》の彼が捜索に志願してくれたのは、こちらとしても渡りに舟だ。ウェッジ、どうか彼と一緒に行ってほしい」
「分かりました。私も貴方の師匠とやらに無事でいてもらいたいので、ことらからも是非お願いします」
「一緒に頑張りましょう!」
フィールは飛び跳ねるように喜びながらウェッジの両手を握ってきた。
「それで、今回の依頼だが、いくつか特殊な事情があるので、注意点を伝えておきたい」
エリィは神妙な顔である。
いつも笑いながら無茶振りをしてくる彼女にしては珍しい。
「まず、注意事項だ。《侵食樹海》、樹海と呼ぼうか。そこでの滞在時間は最小に抑えることだ。寄り道や迷走は避け、目的だけを迅速に達成してほしい」
「言われずとも、手間をかける真似はしませんよ」
ウェッジのモットーは『面倒事は最小限』である。
フィールも頷く。
「そして、これはフィールに対してだが、樹海では、なるべく魔法は使わない方がいい。あの場所で魔力切れは致命的な結果を引き起こす。そのことを念頭に置きたまえ。そして、魔法を使わないウェッジにはこれを渡そう」
「これは?」
見たところ、大ぶりの宝石がぶら下がったペンダントだ。
宝石は蒼い半透明で、わずかにきらきらと輝きを放っている。
「これは、微弱な魔力を常に放出し続けている魔道具だ。これを身に付けておくだけで、魔法士でない君も魔力による抵抗が出来る」
続いて、エリィは机の上に転がっていた丸い水晶玉を掴み、目の前に掲げた。
「これが、今回の依頼で最も重要となる《集魔球》だ。これを《侵食樹海》の中にある魔道具に設置して、結界を維持することが目的だ」
用意された《集魔球》は全部で四つ。
つまり、四ヵ所を回る必要があるのだ。
「そして、これはやむを得ない場合は忘れていいが、なるべくなら、樹海内の魔獣の類いは戦わない方が良いだろう。言ったように、魔力切れが怖い場所だ。下手に魔法を使うことは避けた方が良い。樹海だから体力面も出来るだけ温存するに越したことはないからね」
エリィがこれだけ事前に情報を開示してくれるということは、それだけこの依頼の難度が高いのだろう。
「色々、親切にありがとうございます」
道具も揃ったので、このまま二人で樹海に向かうことになった。
「それでは、よろしく頼むよ」
エリィが手を振って二人を見送る。
エリィはウェッジたちが退室した後、地図の一点を見つめて、誰に言うことなく呟いた。
「ウェッジ、頼んだ立場でこんなことを言うのもどうかと思うが、……生きて帰ってきてくれたまえ」
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