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77話 保身と停滞

◇◇◇


ウェッジは憲兵長に要求して、人質救出作戦のメンバーに組み込んでもらった。

憲兵たちは交渉班、突入班、情報収集班、現場管理班に分かれ、それぞれ忙しく動いている。

ウェッジは憲兵長から各班に紹介してもらう。

ウェッジは部外者という扱いなので、反発されることも覚悟していた。

しかし、メンバーの何人かが魔法大会での警護に当たっていたということで、ウェッジのことを記憶していた。

魔法大会優勝者という肩書きは、この魔法都市で実力を示すには十分なようだ。

すんなり受け入れられることになったウェッジはまず、憲兵のたちの持っている情報を集約することにした。

「まず、犯人の素性について、何か判明していることはありますか?」

情報収集班の班長である壮年の憲兵が答えてくれた。

「おそらくだが、《汎魔導教団》の過激派実行部隊、《ワンド》の奴らではないかと考えている」

「《ワンド》?」

「その名の通り、魔法士を中心とした部隊だ。何度か事件を起こしていて、その度に多数の死傷者が出ている。十年前にも大規模な立て籠もり事件を起こしていて、その時は民間人を含めた多数の犠牲者が出てしまった」

「つまり、今回も……」

「奴らは必要となれば躊躇いなく人質に手をかけるだろう」

ウェッジは無意識に奥歯を噛みしめてしまった。

アリスの命が危険に晒されている状況では、心中穏やかではいられない。

「だが、奴らも殺人狂ではない。要求を通すために必要な行動として、人質を盾にしているのだからな。犯人たちにとって、人質というのは貴重な資源・・だ。こちらが下手な対応をしなければ、人質をむやみに害することはしないだろう」

ウェッジの表情を見た情報班長はそう言って、ウェッジの心配を和らげようとした。

「それから、人質の状況についてだが……。先程ひとり解放されたが、まだ中には十数人が残っていると考えられる。君の心配している仲間も含まれているだろう。主に、事務局の職員が大半だ。それから、たまたま用事で来ていた一般人、事務局長のエリィ・クラインも拘束されているらしい」

「犯人たちとの交渉はどのように?」

ウェッジが尋ねると、今度は交渉班の長である憲兵が答えてくれた。

「使い魔の鳥を建物に送って、犯人たちと接触させることになる」

エリィがよく使っている魔法と同じものだろう。

その方法ならば、直接交渉人が出向くよりも犯人たちの警戒も解きやすくなるという。

「十年前の事件で多数の犠牲者を出してから、我々は犯人との交渉術を研究してきた。それによって確立された方法論だ」

「でしたら、その交渉術で今回の交渉は上手くいきそうですか?」

「立て籠もりで最も危険な時間帯は事件発生から数刻の間、いわゆる《怒りの時間帯》と呼ばれるものだが、その段階は越えたと思われる。そして、向こうは要求を複数投げてきた。しかも、人質の解放付きでだ。このことから、要求に応じれば、人質の解放も交渉可能だと考えている」

「なるほど、話し合いに応じれば、ということですね」

「だが、どうだろうな……。《協会ブロンヅ》本部の動きが鈍い。我々は捕えているオリキス、ジュノの解放も止む無しと考えたが、これに対して《協会ブロンヅ》が待ったをかけたのだ」

「そんな、人質の命がかかっているのですよ!?」

「そうだ。その認識を《協会ブロンヅ》は持っているはずだが、なかなか決定を下さない。犯人の要求を受け入れることに対して、何らかの抵抗があるようだ」

ウェッジは言葉には出さなかったが、内心では《協会ブロンヅ》に文句を言いたくなった。

蒼銅協会ブロンヅ》は保守的な組織だ。

それは同時に、自分たちは責任を負いたがらない体質に染まっているとも言える。

協会ブロンヅ》は、自分たちは動かずに憲兵団が解決するのを待つつもりかもしれない。

(まずいですね……。現場の危機感が全く上層部に伝わっていない……)

交渉班はその道のプロとして最善を尽くしてくれるだろうが、《協会ブロンヅ》の協力無くして穏便に解決に導くのは難しいだろう。

ウェッジは交渉決裂という最悪の事態を想定して、突入班と共に突入することになるだろうと覚悟した。

数ある作品の中から、本作品をお読み頂いてありがとうございます。


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