76話 拘束と目隠し
◇◇◇
アリスとエリィは黒ローブたちに連行され、建物のある一室に着いた。
そこには、他の人質が集められており、皆が後ろ手を縛られ、座らされていた。
人質を囲む形で犯人グループらしき黒い恰好の者もいる。
黒ローブは足元の覚束ないエリィを乱暴に床に転がす。
呻き声を上げるエリィ。
刺された足はすでに血で真っ赤に染まっており、殴られた頬も痛々しく腫れあがっている。
アリスは背中を小突かれて、人質たちのところに向かうよう促された。
人質たちはざっと見て十人ほど。
皆の表情は硬く、怯え切っている。
犯人たちは一ヵ所に集まっていく。
何やら相談を始めるようだ。
皆が黒い覆面をしており、手には杖や剣、弓などを持って武装している。
エリィを傷付けた黒ローブが他の覆面に首尾を確認していく。
「これで、人質は全員か?」
「あぁ、建物を隅々まで探索したが、中に残っていたのは、ここにいる奴らだけだぜ」
「僕がチャーリーと一緒に回ったから、間違いないよ」
「デルタがそう言うのなら、見落としはなさそうだな」
「オイオイ、どういう意味だよ、それ」
彼らはお互いを作戦用のコードネームで呼び合っていた。
そして、どうやら会話の主導権や態度などから、エリィをいたぶった黒ローブがリーダーであるようだ。
「実に順調だな。それならば、次の作戦段階に移る」
「イエッサー!」
犯人たちが声を揃え、呼応した。
手際の良さから、犯人たちはかなり訓練された者たちであることが窺える。
黒ローブが人質たちを見渡し、声を発した。
「人質諸君、私は《汎魔導教団》の者だ。仮の名だが、ここではアルファと名乗らせてもらおう。さて、諸君には我々の要求を叶えるため、少しばかり協力をしてもらいたい」
慇懃無礼な言葉であるが、暴力を用いて拘束している時点で、誠意が上滑りしている。
「協力といっても、諸君はここでしばしの間、静かにじっと過ごしてもらうだけだ。実に簡単だな。我々の要求もささやかなものだから、お互いに禍根は残さないようにしたいものだな」
「……よく言うよ」
人質のひとりがぽつりと呟いた。
呟いた男性を睨みつけるアルファ。
「人が話をしているときに、許可なく発言するのは止めてもらえるかな。実に不快だ」
アルファはその男性に顎を向ける。
すぐさま近くにいた覆面が動き、男性の顔を蹴り上げた。
ゴッと鈍い音がした。
「ひぃッ!」
周りの人質たちが怯えて声を漏らす。
「す、すいませっ、ガッ!?」
蹴られた男性が謝ろうとすると、再び蹴り上げられた。
「許可のない発言は認めないと言ったのだがね。まぁ、もういい。下がれ」
覆面は何事も無かったように、元の位置に戻っていった。
「話の腰を折られたが……、言ったように我々の要求を相手に伝えて、後は待つだけのことだ。それまでは我々と諸君、お互い上手くやろうじゃないか」
最後にわずかばかりの愛想をにじませるアルファ。
しかし、人質の誰もアルファの言葉を信じようとする雰囲気はなかった。
アリスもアルファから漂う暴力的な雰囲気に恐怖を覚えていた。
しかし、アリスはそれよりもエリィのことが気がかりだった。
足の出血は治療しなければ、命に関わるかもしれない。
エリィは息も荒く、先程から寝転がったままだ。
しかし、傷は浅くないはずのエリィが、ゆっくり身体を起こした。
「済まないが、発言させてもらえないかな……」
弱々しい声だが、態度は毅然としている。
「エリィ・クライン事務局長、発言を許可しよう」
アルファが答えた。
「君たちの要求とやらは、一体何だい?」
「それを聞いて、どうする?」
「こう見えて、私はこの《協会》でそれなりの地位を持っているからね……。もし、私の一存で何か答えられるのなら、君たちの要求を飲んでやってもいいと思っているんだ……。その方が、お互いてっとり早いんじゃないか……?」
顔を殴られたので、幾分か喋りにくそうな様子である。
「そうだな、確かに……。さすが事務局長サマだな」
アルファは少し考え込んだようだが、エリィの提案に乗ることにしたようだ。
「それでは、我々の要求を伝えよう。言ったように、実にささやかなものだよ」
そう前置きすると、アルファは要求内容をエリィに告げた。
エリィは口を挟むことなく、全ての内容を聞き終えた。
「さぁ、どうかな、事務局長サマ?」
アルファは鼻につく丁寧な口調で、エリィに迫る。
エリィも痛みに耐えているためか、汗を浮かべているが、アルファの眼をじっと見つめ、思案している。
「すまない。どちらの要求も私だけではなく、上の理事クラスの権限でなければ叶えられないだろう」
エリィが慎重に吟味したであろう結論を告げた。
アルファはそれを聞き、押し黙っている。
この発言で、また犯人たちの機嫌が悪くなれば、また誰かが傷つくことになるかもしれない。
人質たちは、自分たちに累が及ぶことを危惧しながら、アルファの反応を待った。
「そうか。ならば、当初の予定通りといこう」
アルファはあっさり言うと、部下たちに指示を出し始めた。
エリィが要求を叶えられらなかったことについては、彼らにとって特に問題ないらしい。
ここで犯人たちは人質たちの顔に黒い布を巻き始めた。
目隠しをするつもりらしい。
アリス、エリィも目を布で塞がれた。
暗闇の中、アリスは犯人たちの言葉を注意深く聞いていた。
「アルファ、終わったぜ」
「では、各自配置について哨戒に当たれ」
『イエッサー』
いくつもの足音に人が部屋を出入りする音が混じる。
慌ただしい音が響き終わると、部屋は急に静かとなった。
人質たちの息や衣擦れの音がわずかに聞こえるだけだ。
アリスは急に不安に襲われた。
今、まさに自分の命は犯人たちに握られているのだ。
手を縛られ、目を塞がれた状態では、まったく抵抗もできない。
アリスは恐怖と戦いながら、ウェッジが助けに来てくれることを切に願った。
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