75話 要求と憲兵長
ウェッジはいったん《協会》本部を離れると、宿屋に戻った。
マキシたちが人目を引くことを避けるため、部屋に匿うことにしたのだ。
彼女たちに部屋で大人しくするよう指示をすると、素直に聞いてくれたようだ。
マキシを送り届けたウェッジは、急ぎ《協会》本部まで戻った。
現場に残ったフィオから特に状況の変化が無かったことを確認する。
ウェッジはアリスを助けるために、まず情報を集めることにした。
憲兵を捕まえると、ナイフをちらつかせ、状況を聞きだした。
憲兵の方も詳しい状況は把握できていないらしい。
ただ、かろうじて《汎魔導教団》の襲撃から脱した人の話から、人質は十人前後、犯人は複数名で剣や弓、魔法を使い本部を襲撃したという。
憲兵は何か要求があれば、交渉の余地が生まれるため、対話の方向で犯人たちにアプローチしているようだ。
ウェッジは本部の門が封鎖されているので、敷地を壁伝いにぐるりと一周した。
門の入口は憲兵で封鎖されていた。
壁を乗り越えて窓から建物内に強硬突入することも可能だろうが、人質に危害を加えられる可能性がある。
フィオも魔力感知でアリスの大体の場所は分かるものの、大雑把にしか判別できないため、他の人間の数や所在までは不明だという。
ウェッジが侵入できそうなところは無いか、再度建物の周囲を調べようとしたときである。
にわかに憲兵の詰所が騒がしくなった。
何か動きがあったようだ。
ウェッジも入口からこっそり中を窺う。
憲兵のひとりが《協会》の事務員を連れて憲兵長と話している。
どうやら人質だった男性が解放されたらしい。
しかし、ただで解き放たれたわけではなく、犯人から伝言を預かったメッセンジャーであるらしい。
人質の男性は疲れているようだが、憲兵たちは構わず犯人たちの伝言を教えるように促した。
男性は憲兵から温かいお茶をもらい、喉を潤した後、口を開いた。
「……犯人からいくつか要求をしたいことがあると言われました。まず一つ目、『魔王の遣いたるテルモア様を殺した犯人の身柄を引き渡すよう要求する』、という内容でした」
聞き耳を立てていたウェッジは要求の内容に驚いた。
(まさか、自分の身柄が要求されるとは……)
人質だった男性は話を続ける。
「二つ目は、『現在拘束されている同志オリキス、同志ジュノの解放を要求する』。三つ目、『逃亡用の馬車と当面の活動資金を要求する』でした……。犯人たちからは以上のことを伝えろと言われました……」
「そうでしたか、ありがとうございます。お疲れ様でした」
憲兵のひとりは男性をいたわる言葉をかけた。
憲兵長は難しい顔をしている。
要求内容を吟味しているようだ。
「これは、我々だけではなく、《協会》本部の方とも相談せねば、判断できないな……」
憲兵長は部下に《協会》の上層部と連絡を取るように指示したようだ。
「さて、要求にどう答えたものか……」
悩む憲兵長に、側近らしき憲兵が進言した。
「立て籠もり犯との交渉の鉄則として、最初は要求を受け入れる形で動くことを伝えるのが良いでしょう」
「うむ、そうだな。《協会》上層部との調整が必要なので、時間がかかるということも伝えるべきか?」
「伝えるべきでしょう。嘘偽りなく経過や内情を打ち明けることは犯人側の心証が良くなります。それに、基本的に制限時間を設定されていない場合、時間はこちらの味方となります。犯人が立て籠もりに時間をかければかけるほど、我々との対話や交渉に応じる機会が増えますので。そして、食料の問題や犯人たちの体力も時間があるほど削れます」
「よーし、分かった!」
憲兵長は両手をポンと打ち合わせると、部下に指示を出していった。
詰所を慌ただしく飛び出していく憲兵たち。
どうやら、犯人たちの要求を聞き入れる方針で動くようだ。
憲兵長が一息ついたタイミングで、ウェッジは彼の前に立った。
「なんだ? さっき入ってきた者だな、君。我々は忙しいのだ、邪魔しないでくれ!」
ウェッジが来たことをいかにも迷惑そうに態度と言葉で表し、邪険に扱う憲兵長。
「貴方がたは私に用があると思って、こちらから出向いたのですが……。そうですか、そういう対応ですか」
わざとへそを曲げたような口調で、相手の興味を引こうとする。
「どういう意味だ?」
「先程の立て籠もり犯の要求であった、テルモア殺しの犯人を知っています」
「何だと!? さっきの魔王の遣い云々のことを言っているのか!?」
ウェッジはここでたっぷり含みを持たせて、憲兵長を揺さぶった。
「えぇ、そうです、そうなのですが……。先程のような態度では、あまり言いたくないですねぇ」
憲兵長を流し見るウェッジ。
「うぬぬ、こちらは遊んでいる暇はないのだが……。しかし、我々にどうしてもらいたいのだね、君は!?」
彼は下手に出ることが苦手なようで、態度は横柄なままだったが、ウェッジの発言を捨て置けないと思ってくれたようだ。
ウェッジはここで相手が交渉のテーブルに乗ってくれたと感じた。
ならば、後は直球で進めていく。
「私の知り合いが人質になっているので、私を救出作戦に人員に加えてほしいのです」
「何っ! 我々の作戦では不満なのか!?」
「いえ、蚊帳の外で手をこまねいているだけ、ということはしたくないのです。それに結局、私を作戦に組み込まざるを得ないと思いますよ」
「どういう意味だ?」
「私がテルモア殺しの下手人です」
「なっ!?」
「ほら、私の身柄が犯人の要求のひとつになっているのですから、私抜きでは交渉のカードが足りないでしょう?」
あまりの展開に呆けた表情の憲兵長。
「しかし、うぅむ、ちょっと待ちたまえ……」
憲兵長はウェッジを待たせている間、しきりに口髭を触って、考え込んでいる様子だ。
「よーし、分かった!」
先程と同じように両手を鳴らす憲兵長。
「君、えぇと、名前は何だったかね? とりあえず、君の身柄を預かろう。犯人との交渉は我々が請け負うが、希望通り作戦には組み込んでやろう!」
「感謝します、憲兵長」
(アリス、待っていて下さい。助けに行きます……!)
ウェッジはこうして事件の渦中に自ら飛び込んでいった。
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