74話 襲撃と制圧
◇◇◇
アリスはウェッジに《協会》へ避難するように言われた後、本部の建物までやって来た。
アリスは事務員の男性にお礼を言って、エリィの部屋を訪ねた。
アリスひとりでは道に迷ってしまうので、見かねた職員が案内をしてくれたのだ。
ノックをすると、中から応答があった。
部屋に入ると、相変わらず鳥と植物だらけだ。
机に腰掛けたエリィがアリスを手招きする。
「すいませーん、ちょっとだけ匿ってもらっていいですか?」
「ふふ、よく来たね。いいよ、私もちょうど仕事が落ち着いたところだ」
アリスは言葉に甘えて置いてあった椅子に座る。
「お邪魔かもしれないですけど、ちょっと色々あって……」
「構わないよ。魔族が来て、ウェッジたちが迎撃に向かったんだろう?」
「えっ、知ってたんですか!?」
「あぁ、鳥たちの網に異質な魔力が引っかかったんでね。使いを飛ばしたら魔族が魔法都市に近付いてきてることが判明したんだ」
エリィの魔法により使役される鳥たちには、フィオの魔力感知に似た使い方もあるようだ。
アリスは感心した。
「ウェッジたちだけに任せるのは申し訳ないが、こと魔族との戦闘については、彼女たち以上の適任者はいないからね」
「そうですか……。ウェッジさん、無事に戻ってきて欲しいな……」
「そうだね……。だが、相手が魔族となると、一筋縄では……」
エリィは急に黙り込むと、扉を強く睨んだ。
「……どうしました?」
ただならぬ雰囲気のエリィに、アリスが声を掛ける。
「静かに! これは、悲鳴……?」
エリィには何か聞こえたようだ。
部屋の中に緊張感が走る。
不意に扉が荒々しくノックされる。
「アリス、君は私の後ろに」
そう言うと、エリィはアリスを後ろ手で庇いながら、声を上げた。
「誰だ!?」
「ここを開けてもらいたい、エリィ・クライン事務局長。言っておくが、余計な抵抗はしないほうが身のためだ」
ざらついた声で答えが返ってくる。
「そう言われて、素直に『ハイ、どうぞいらっしゃいませ』と答えるとでも?」
「なら、仕方無い」
声の主がいったん扉から離れた気配がする。
次の瞬間、扉が爆発した。
舞い上がる煙。
エリィたちは思わず顔を背ける。
原型を留めていない扉をどかして、黒いローブに覆面姿の何者かが入ってきた。
「ほう、もう一人居たのか。まぁ、増える分には良い。君たちは人質だ。我々、《汎魔導教団》の目的のために拘束させてもらおう」
黒ローブが言い終わらないうちに、同じ格好の者がもう一人入ってきて、杖を構える。
蒼白い光を放ち、《契約書》を浮かべている。
すでに《瞬間契約》を結んで、いつでも魔法を実行できる状態なのだろう。
初動を相手に握られたことで、エリィは舌打ちをした。
「それでは、大人しくしてもらおうか。この状況で何かしようものなら、どうなるか、貴女ほどの者なら分かるはずだ」
「……そうだね。ふふ、私を人質にしようとするなんて、随分と豪胆だ」
エリィは皮肉げに笑うと、両手を挙げた。
黒ローブはエリィの手を背中で縛り、ナイフを背中に突きつけた。
「おい、そこの娘も縛れ」
黒ローブがもう一人に指示を出す。
「おっと、その子は私とは無関係だ。人質なら私だけにしたらどうだい?」
エリィがアリスを庇おうと口を挟む。
「黙れ」
黒ローブは静かな口調で言うと、エリィの顔を殴りつけた。
「がはっ!」
「エリィさん!」
すでに縛られかけているアリスが叫ぶ。
「連れて行くぞ」
黒ローブはエリィを無理やり立たせると、もう一人を促した。
エリィは口から血を流し、ふらつく足で歩き出す。
「ひどい……」
アリスはすでに泣きそうな顔になっていた。
アリスの後ろにも黒ずくめの者が杖を突きつけて、歩くよう促す。
しかし、部屋を出るときに、エリィは段差につまずき、転んでしまった。
「何をしている、早く立て」
黒ローブがもたつくエリィの髪を掴んで引き起こそうとする。
顔を無理やり起こされたエリィは、しかし不敵に笑った。
蒼白い光をまとって《契約書》が浮かび上がる。
魔法の前兆を察した黒ローブは攻撃を警戒し、とっさに両手で顔を庇った。
だが、エリィの狙いは黒ローブではなかった。
部屋から鳥の鳴き声がする。
黒ローブが部屋を見ると、鳥たちが一斉に窓から飛び立っていった。
「お前、助けを呼んだな!?」
黒ローブが先程とは違い、怒りのこもった声でエリィに問いただす。
「ふふ、さぁて、どうだろうね?」
黒ローブはいまだ起き上がらないエリィを見下ろしている。
「勝手をすればどうなるか、まだ分かっていないらしい」
そして、エリィの足にナイフを振り下ろした。
「あぐぅ!」
太ももを刺され、悶絶するエリィ。
そのまま、黒ローブはエリィの髪を掴み、引きずりながら連れて行こうとする。
「ダメ! エリィさん、治療を!」
アリスが近寄ろうとすると、エリィは首を横に振り、制止した。
「どうして……」
エリィは何とか起き上がると、アリスに向かって微笑んだ。
まるで、心配するな、とでも言うように。
こうして、《汎魔導教団》による《協会》の制圧が始まった。
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