71話 穴と涙
マキシはわずかな隙間も無く、谷が塞がれたことを確認した。
地鳴りも収まり、一転して静寂が訪れる。
「あー! そういえば、ミチルも谷底にいたんだった!」
後になって、相棒の魔獣が巻き添えになったことを思い出したようだ。
「どうしよう、開けたほうがいいかな?」
マキシが独り言を呟く。
「今、開けますよ」
「え!?」
マキシの足元から声がした。
そして、下から何か削る音と共に轟音が聞こえる。
次の瞬間、マキシの足元から爆炎が吹き上がった。
爆発で吹き飛ぶマキシ。
彼女の居た所にぽっかりと穴が開いている。
「ふぅ、風穴、開けました」
穴から顔を出すウェッジ。
煤と砂だらけだが、外傷は少ない。
「我に土木作業まがいのことをやらせるとはな」
続けて、不満をこぼしながらフィオも顔を出した。
穴から這い出る二人。
金髪を焦がしたマキシが翼を広げ、空に飛んでいる。
「な、なんで、生きてるんですかー!?」
「岩を掘って避難しましたので」
あっさりと種明かしをするウェッジ。
実際には、ウェッジが回転力のある投擲、《羅咬》で壁に穴を掘り、いったん避難したのだ。
その後、上に向かって穴を広げ、フィオが舞い上がる土埃を利用して粉塵爆発を引き起こした
なお、爆発の際には、炎の壁で自分たちを保護しつつ、上に爆発が向かうよう仕向けた。
これにより、大地ごと圧し潰されるという危機的状況を、ほぼ無傷で生還したのだ。
「そして、戦って分かりましたよ。……貴女は戦いに致命的に向いていない」
ウェッジはマキシに告げると、翼にナイフを放った。
呆気にとられたマキシが、翼を傷つけられ、墜落する。
地に堕ちた彼女に、ウェッジがナイフを突き付けた。
「どうしますか? まだ、続けるのですか」
ウェッジは内心、降伏してくれることを望んだ。
先程の大技は機転を利かせて上手くやり過ごせたが、次もあのランクの魔法を出されると、今度こそ危ないだろう。
相手に付け入る隙があっただけで、魔法に関しての実力は決して侮れないのだ。
「うぅ、わたしの初仕事が……」
「アリスをまだ諦めないというのなら、テルモアと同じく討たせてもらいますよ」
マキシはここで頭を抱えて沈黙した。
どうやら考え込んでいるようだ。
「降伏なんて……。魔族として仕事はやり遂げないと……」
「責任感は買いますが、命を張るほどのものですか?」
ウェッジはため息混じりに諭した。
「え?」
虚を突かれたような顔のマキシ。
ウェッジは魔族の思いがけない反応に少し戸惑った。
「いや、ただの仕事なのでしたら、別に命がけでする必要はないのでは?」
「確かに、仕事……、だけど……」
マキシの視線が宙を彷徨う。
途端、ボロボロと大粒の涙を流し始めた。
「えぇっ!?」
これにはウェッジも驚いた。
「ど、どうしたのですか? えぇと、よーしよし、落ち着いて」
翼を持つ魔族だが、見た目は二十歳前後の女性だ。
そんないい年をした女性が突如泣き出したのである。
「うえぇえーん」
ウェッジたちに構わず、おーいおいと泣き続けるマキシ。
「えー、フィオ、……私、何か泣かせるようなことを言いました?」
「我も分からん」
「とりあえず、涙を拭いてください……」
ハンカチを渡すウェッジ。
「ありがどぅ、ございまぶ……」
ひとまず落ち着きを見せたマキシに、ウェッジは再び尋ねてみた。
「一体、なぜ急に泣き出したのですか?」
「うぅ、……わたし、《四獣遣い《フォア・フォーズ》》に入ってから、頑張って中の仕事してたんですけど……」
しゃくり上げながら、マキシはぽつぽつと話す。
「頑張っても、頑張っても、誰も褒めてくれないし……、優しい言葉も無いし……、みんな、わたしの資料とかも大事にしないし……」
ウェッジはとりあえず頷きながら先を促す。
「それで、いざ《転生者》抹消の初仕事だー、て意気込んだら、こんなだし……」
戦場に出るのが初めてだったということに納得するウェッジ。
「でも、今『命かけてまでやる仕事じゃない』って言われたら、なんだか頑張ってたのが虚しくなっちゃって……」
「それで、泣いてしまった、と」
マキシは素直にコクコクと頷いた。
「どうしますか?」
ウェッジは困惑しながらフィオに聞いてみた。
「我はたとえ娘だろうが泣く子供だろうが、敵であれば焼くぞ」
そう言いながらも、フィオはマキシに対して攻撃を加える気はすでに無さそうだ。
ウェッジも同意見である。
敵であれば容赦はしない。
だが、目の前の者をそこまで憎んでいるわけではない。
「貴女は、どうしますか?」
今度は刃を伴わずに、幾分柔らかい口調で尋ねてみた。
「わたし、もう、こんな失態したら、みんなの所に、……戻れない」
ウェッジはフィオをちらりと見た。
フィオは諦めて好きにしろといった表情である。
「貴女にもうアリスを害する気持ちが無いのなら」
ウェッジは手を差し出した。
「私たちと手を組みませんか?」
マキシは震える手で握りかけて、一度は引っ込めた。
しかし、意を決したのか、ウェッジの顔を見つめ、その手をしっかりと握り返した。
ーー《四獣遣い《フォア・フォーズ》》がひとり、土のマキシ、陥落。
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