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7話 情報屋と料理

ウェッジは部屋を出た後、市場で食材を仕入れた。


そして、その足で情報屋に向かう。

アリスの捕縛依頼がどこから出ているのかを調べるよう頼むつもりだ。


「ね、ね、ね、姐さん! お久し振りです!」


店に入ると、威勢のよい声を上げ、店主のツォラがウェッジを迎えた。

雑貨屋も兼業しているため、店先には日用品からよく分からないものまで並んでいる。

ウェッジも冒険の消耗品はここで仕入れることが多い。


「今日は、本業の方でお願いします」


「わ、わ、分かりましたぁ! 姐さんのためなら、このおとこツォラ、何でも調べてきまさぁ!」


「大声は止めてください」


へい、としょげるツォラ。ウェッジに対しては挙動不審極まりないが、情報屋としての腕は確かだ。


「アリス・ワーグ・アリスという少女について、水面下で捕縛の依頼が出ていると思います。その依頼主が誰なのか、調べてほしいのです」


ツォラの顔付きが仕事人のそれになる。


「分かった。アリス、捕縛、依頼主と」

「期間は?」

「それなら、あー、三日もかからず調べられるぜ」

「報酬額は内容次第で、良いですか?」

「まず、前金で200は頂きたい。残りは情報を渡すときだ」

「分かりました」


仕事に私情は挟まないのがツォラである。

報酬は誰だろうと過不足無く請求する。


だからこそ、ウェッジはこの情報屋の腕を信頼していた。

情報が多ければ動き方も変わってくる。

不確かな状況で不用意に動けば、取り返しのつかない事態になる。

これもウェッジの経験則である。


「情報を掴み次第、姐さんの所に届くようにしておくぜ」

「助かります」


これで、依頼主が分かれば、攻めるにせよ逃げるにせよ、方向性が決まる。

それを期待して、アリスの待つ部屋に帰った。


◇◇◇


調理場では、アリスが食材と格闘中だった。


どうやら、肉と野菜を刻んだ何かを作っているようだ。

食材は、ぐちゃあ、としか形容できない感じになっている。


「せっかくなんで、待ってる間に何か一品作っておこうと思って……」

「気を使わなくてよいですよ」


何が出来上がるのか分からない不安がある。


ウェッジはアリスの指先に目を止めた。

血のにじんだ包帯が巻かれた指先。

何ヵ所か刃物で指を切ったようだ。

ウェッジは疑問に思う。


「アリス、あなたは自分の怪我を治せないのですか?」


「え、や、あー、これ、恥ずかしいなぁ。えぇと、自分の怪我は治せないことは無いんだけど、あんまり得意じゃなくて」


ウェッジはひとまず安心する。

まったく自分が治せないとなると、護衛の際の注意は細心かつ最大限となってしまう。

もとより、少女を傷付けるなどという選択肢は無いが。


「それに、他の人のだと治さなくちゃー!てすごい思っちゃうから」


(己よりも他人、献身的な姿勢が魔法にも影響してくるのですか)


ウェッジはとりあえずアリスに、頼むから料理はこちらに任せるよう、やんわりと言った。


さて、とウェッジは調理場に立つ。

買い込んだ食材で、まずは腹ごしらえだ。

ナイフを巧みに使い、食材を細かく切り分けていく。

ナイフはウェッジにとって手指の延長だ。

するする、とんとん。

手際よくリズミカルに調理は進む。


そして、出来上がったのが、野菜を煮込んだスープ。

それにブレッドを添えた。

質素かつ地味な食卓となったが、アリスは立ち込めるスープの香りに顔をほころばせる。


「「いただきます」」


身体に染み渡る、優しい味のスープ。

野菜の面取りもしてあるので、形が崩れず味も馴染んでいる。


「あ、美味しい」


アリスが、はふはふと具をほおばる。

素朴な食事だったが、アリスは気に入ったようだ。


◇◇◇


腹ごしらえも済んだところで、ウェッジは今後の方針をアリスに提案した。

アリスの追っ手はおそらく際限なく襲ってくるだろう。

ならば、打つ手は二つ。

根本を絶つか、安全なところに逃げるか。


ウェッジはまず安全圏への退避を提案した。

具体的には、《魔法都市ライン・リィク》への移動。

もちろん、これには狙いがあった。

まず、魔法都市には《転生者リライヴ》を容認し、庇護する方針である魔法士の組織、《蒼銅協会ブロンヅ》の本部がある。

ここでなら、アリスは厚遇される可能性が高い。


アリスの所属する《白銀教会シルヴァリ》も避難先の候補にあった。

だが、アリスは同朋の巻き添えを嫌い、避けているため、断念した。


この案の懸念する点は、《協会ブロンヅ》と《教会シルヴァリ》の関係が悪いため、アリスの立場が読めない点であろうか。


また、魔法都市でなら、魔法士が多く集うため、魔法、魔物関連の情報も手に入りやすい。

魔族の情報も期待できるのだ。

魔族がどこの誰なのか判明すれば、ウェッジは乗り込む気でいた。


これも面倒を嫌う性格ゆえの方針で、追われ続ける面倒はごめん被りたい。

たとえ、相手が謎に包まれている魔族であっても、ある程度の情報が揃い、正体が解明できれば対処のしようがある。


そして、アリスは努めて明るく振る舞っているが、先の暗い表情が心の底に沈んでいるのだ。

アリスの性格から敵討ちは望んではいないことをウェッジも分かっている。

しかし、アリスが本当に笑うためには、魔族を討つことも必要だと、ウェッジは決心していた。


「さて、どうでしょうか、この案は」


ウェッジが提案した魔法都市への移動。


「当面の目標としては妥当なところだな」


すでにかなりの薪を木炭に変えたフィオが同意する。

アリスはどうですか、と水を向けた。

この場では、アリスの意向が最も強いものとなっている。

ウェッジもアリスの気持ちを曲げてまで魔法都市に固執する気は無かった。


「行きましょう、《魔法都市ライン・リィク》へ」


アリスが決心した。

これで一行の目的地は定まった。

次の目的地は、精霊と契約、権謀術数が渦巻く《魔法都市ライン・リィク》。


「ところで、フィオは精霊なのですか? 意思を持つ精霊というのは聞いたことがありませんが?」


ウェッジがすっかり忘れていた疑問を思い出す。


「我か? 我は侵食精霊だ。世界に五柱しかいない、高貴で稀なる存在だ」


「侵食精霊。初めて聞きましたが、それはきっとすごいのですね」


「そうであろう、そうであろう」


「では、意思があるのはその侵食精霊だからですか?」


「知らん。他の侵食精霊がどうかは知らんし、我は存在したときにはすでに我だったからな」


「あ、……そうですか」


結局、疑問はいまいち解けなかった。


◇◇◇


新しいステータスが公開オープンされました。


名前:ウェッジ・モルガ

スキル:調理技能……Bランク


名前:アリス・ワーグ・アリス

スキル:調理技能……Dランク


名前:フィオ・デ・フィラム

種族:精霊《侵食精霊》

好物:乾いた薪

数ある作品の中から、本作品をお読み頂いて、ありがとうございます。


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