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68話 変装と尾行

最近、アリスの様子がおかしい。

魔法都市に帰ってきてからの数日、ウェッジはそう感じていた。

決まった時刻になると、行き先も言わずに外出してしまう。

何をしてたのかそれとなく尋ねてみても、言葉を濁すばかり。

(何か人に言えぬようなことをしているのでしょうか……?)

しかし、アリスに限ってそんなことはしないだろう、という信頼もある。

ウェッジは煩悶した。

アリスに問い詰めたい気持ちはあるが、過度に干渉するのもよろしくない。

何せ、自分の役割は護衛なのだ。

保護者ではない。

しかし、もし、何か相談出来ない類いのトラブルに巻き込まれているのだとしたら……。


「と、いうわけです。どうか、協力してもらえませんか?」

ウェッジは頭を下げた。

「それは構いませんけど……」

堂々巡りの思考の末、ウェッジが相談に選んだ相手はグロリアだった。

「アリスさんが心配なのは分かりましたけど、具体的にどうされるのですか……?」

「アリスを、尾行します」


◇◇◇


次の日。

アリスはウェッジの予想通り、同じ時刻になると部屋を出ていった。

ウェッジはいつもと同じように見送ると、すぐに行動を開始した。

まずはグロリアと合流する。

どちらも顔が割れているので、ウェッジはグロリアに頼んで変装道具を揃えてもらった。

「……で、何ですか、これは?」

グロリアが渡してきた変装グッズは、カツラとフリフリのドレスだった。

「ウェッジさんの普段のイメージとかけ離れたものの方が、変装には効果的だと思いまして」

さぁ、さぁ、と笑顔で迫るグロリア。

(グロリアさんの趣味を、考えに入れてなかったのは失敗でしたか……)

不承不承ながら着替えるウェッジ。

「良くお似合いですわ!」

「……そうですか」

現れたのは、金髪縦ロールにフリルの沢山ついたドレスを着たお嬢様だった。

……ただし、目つきは険しく人を刺すように鋭い。

グロリアは地味な服に帽子を被るだけで、変装を完了させた。

「私も、それくらいの変装で良かったのですが……」

「いけませんわ、それくらいしないと! さぁ、行きましょう!」


――かくして、アリス追跡劇が始まった。


着替えが終わり、二人は街に出た。

アリスはすでにかなり先まで進んでいる。

急ぎ、物陰に隠れながら後を追う二人。

「アリスの出かける理由が危険なものでなければ、すぐに引き返します」

「そうね、どこまで行くのかしら」

アリスは時折、周りを気にするようにしている。

何度か後ろを振り向いたが、ウェッジたちは隠れてやり過ごした。

ウェッジはギルドの依頼クエストで尾行任務も請け負ったことがある。

相手は野獣や魔獣の類いが多かったが、人間相手でも多少は心得があった。

人間相手の尾行では、一定の距離を保っているだけでは気付かれる恐れもある。

不測の事態に備えるため、二人組ツーマンセルでの対応が理想だ。

そのため、ウェッジは相方にグロリアを起用したのだ。


「かなり遠くまで来ましたね」

「そうですわね。一体、何が目的なのかしら……?」

ここで、アリスがきょろきょろと辺りをうかがいながら、路地に入っていった。

二人も遠巻きに路地を覗く。

すると、アリスは路地で待っていた中年の男性と親し気に話し、裏口から建物に入っていった。

「こ、これは……」

困惑するウェッジ。

建物の表に回る。

そこは、複数の会社などが事業をしている商業施設だった。

「何でしょう、この建物……。パブに占い屋、貿易会社に道場……?」

「どれも、アリスが通うイメージと結びつきませんね」

これでは、アリスがどこに行ったのか、判断がつかない。

ウェッジは先程の場面を思い返した。

中年男性のだらしなくにやけた表情。

アリスの緊張した面持ち。

(何だ、この中で一体、何が行われている……!?)

建物の中をうろついてアリスと遭遇してはまずいため、尾行はここで打ち切りとなった。

部屋に戻ると、グロリアにお礼を言う。

「結局、何をしているのかは分かりませんでしたね」

「そうですわね。ですけど、アリスさんなら、そんな心配しなくても大丈夫なのでは?」

確かに、世間知らずなところはあるものの、芯はしっかりしている少女である。

「アリスさんから言い出してくるのを待ちましょう、ね?」

グロリアに説得され、ウェッジはしぶしぶ了解した。


そして、一週間ほどしたある日。

「ウェッジさん、ちょっといいですか?」

アリスから声を掛けられた。

「何でしょう?」

後ろ手に、何やらもじもじとしているアリス。

「これ、受け取ってください!」

アリスが差し出してきたのは小包みだった。

突然のことに驚きながら、受け取るウェッジ。

「中を見ても?」

こくこくと頷くアリス。

開けると、中には鉄製の片手鍋と包丁が入っていた。

「これは……?」

ウェッジは贈り物をされる心当たりがなく、首をかしげる。

「あの、ウェッジさんにはいつも助けてもらってるから、その、お礼! ウェッジさん、お料理するの、楽しそうだから」

「そんな、わざわざ……」

「いいんだよー、あたしがお礼したかったんだから」

アリスは満面の笑みを浮かべる。

ウェッジはその屈託のない笑顔を見て、ここ数日のアリスの行動の不審さなど吹き飛んでしまった。

「ごめんね。本当はもっと早くに渡したかったんだけど、なかなかお金が貯まらなくて……」

「お金を貯める……? そんな、お金なら賞金がまだ十分に……」

「違うよ。あのお金はウェッジさんが頑張って貰ってきたものだもの。これは、あたしの感謝の気持ちだから、あたしが頑張って買わないと意味がないんだよ」

「そうでしたか……。もしかして、最近出かけていたのは……」

「あはは、ごめんなさい、黙ってて。このために、ちょっと働いてました」

ようやく、ウェッジはアリスの行動が理解出来た。

「ありがとうございます、アリス。これは、大切に使いますね」

「どういたしまして!」

ウェッジには、贈り物そのものよりも、アリスの気持ちと笑顔が何よりも嬉しかった。


「ところで、アリスは一体何の仕事をしていたのですか?」

「んー、色々したんだよ。最初は近くのお店で働いたんだけど、一日で『お願いだから、辞めてくれ』って言われて……」

「え!?」

「で、近所を転々としてたんだけど、どこもそんな感じで行くところ無くなっちゃって。遠くの所まで足伸ばしたの」

「あぁ、あそこですか……」

ウェッジはあの建物の混沌とした看板を思い出す。

「パブ、占い屋、貿易会社に、そうそう、道場も行ったよ。でも、どこも頑張ったんだけど、一日しか続かなくて……」


一体アリスが何をやらかしたのか、怖くて聞けないウェッジであった。

数ある作品の中から、本作品をお読み頂いてありがとうございます。


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