65話 推論と真実
大広間には、ダーウィッチ家の者たちが集められていた。
「何が始まるのかしら」
ティーケが不安そうに呟く。
正面玄関を開けて、ウェッジが大広間に参上した。
アリスとフィオも連れて、堂々たる態度だ。
「皆さん、集まって頂き、ありがとうございます」
ウェッジが恭しく礼をする。
「皆さんを集めたのは他でもありません。この、クローシャさん、シーシャさんを殺害した犯人を特定するために、ご協力頂きたいのです」
「貴女たち、まだそんなことを言ってるの!?」
ティーケが噛みついてくるが、ウェッジは無表情で受け流す。
「まぁまぁ、何か考えがあるのだと思いますよ。聞いてみるだけ聞いてみましょう」
スケイルがティーケをなだめる。
「ウェッジ・モルガ……。それは、犯人が分かったということか?」
「えぇ、ダーウィッチ候。まずは、私の推理を聞いてください」
静かに頷くキース。
彼は落ち着いているように見えるが、手が震えていた。
いつ噴火してもおかしくない休火山めいた危うい雰囲気だ。
ウェッジは皆を見渡すと、推理を始めるときの儀式めいた口上を述べた。
「さて……」
◇◇◇
まず、この事件は二つの謎に集約されます。
一つは、密室の謎。
犯人はどうやって密室を作ったのか。
なぜ密室を作ったのか。
もう一つは、首切りの謎。
犯人はなぜ、首を切ったのか。
この二つを解けば、自ずと犯人が絞られることでしょう。
まず、時系列から確認しましょう。
私たちが《控えの間》で警護していたとき、クローシャさんが《黒の塔》から出てきました。
そして、《白の塔》でシーシャさんに出迎えられ、中に入った。
二人が生きているのを確認出来たのは、この時点までです。
そして、クローシャさんが《白の塔》から出てきて、《黒の塔》に帰っていきました。
少しして、悲鳴が聞こえて、皆で《黒の塔》に詰め掛けた。
扉をこじ開けると、中には首の無い死体。
そして、《白の塔》でも扉の向こうに、首の無い死体がありました。
この流れを押さえておいてください。
次に、被害者の確認です。
姉のクローシャさんは事件当日、黒いドレスを着ていました。
妹のシーシャさんは白いドレス。
そして、二人を見分ける方法は、髪型に顔の古傷、だけです。
最後に、現場の状況をおさらいします。
《黒の塔》と《白の塔》は基本的に同じ構造、左右対称となっています。
そして、《儀式の間》には首の無い死体がありました。
現場の物品はどちらの塔も、死体、鍵、ナイフ、だけでした。
ただし、ナイフの状態だけは、《白の塔》は刃先に血痕がついていて鞘から抜かれていました。
一方、《黒の塔》のナイフは鞘に納められたままでした。
双子の死体は身体のみでは判別がつかず、姉妹の特定が出来ませんでした。
《白の塔》の死体には、首以外の外傷はありません。
また、着ていた服に多少の乱れがありました。
そして、スカートの右の裾に血痕が飛び散っていました。
《黒の塔》の死体の右手にはすでに治っている切り傷の痕がありました。
三方の窓は閂で鍵が掛けられていて、外から糸などで動かせそうにない。
《黒の塔》の右手側の窓にある閂は、表面が綺麗な状態となっていました。
《白の塔》の左手側の窓にある閂は、錆びが削げ落ちていました。
部屋の扉は、双子が魔法で鍵を形成して開けるので、双子にしか開閉出来ません。
現場の特異な点は以上になります。
ここで、申し上げておくことがあります。
犯人には、協力者がいました。
この協力者が居たことで、犯人は密室を作り上げることが出来ました。
協力者とは誰か。
……すいません、ダーウィッチ候、気を悪くしないでください。
協力者とは双子のどちらか、なのです。
彼女は犯人に協力して、もう一人を殺害する手引きをしたのです。
しかし、この協力者は騙されて犯人を手助けしたのだと思います。
……なぜなら、協力者も結局は犯人に殺されたのですから。
犯人が協力者をどう騙したか、想像はつきますが、後で言いましょう。
まずは、犯人の行動を大まかに追っていきましょう。
先程言いました時系列で、犯人が行動を起こしたのは、クローシャさんが《白の塔》に入っていったときです。
ちなみに、このクローシャさんの行動は犯人によって計画されたものでした。
ここで犯人はまず、外に出て《精霊の塔》に登ります。
あの塔は表面がざらついていて、何とか登れる構造になっています。
そして、最上部の金具に縄をかけました。
この縄を持って犯人は身体を揺らし、反動をつけます。
そして、振り子のように揺れをどんどん大きくして、《白の塔》の窓までたどり着いたのです。
このことを裏付ける証拠として、《精霊の塔》の先端の金具には擦れた跡が残っていました。
窓に手が届けば、内側にいる協力者が窓を開けて中に引き入れてくれます。
《白の塔》の窓に掛かっていた閂は鉄の錆びが落ちていました。
おそらく、この開け閉めで削げ落ちたのでしょう。
ここで、《白の塔》の《儀式の間》には、犯人、双子のうちの片方である協力者、もう一方の被害者、が揃いました。
そして、犯人は被害者を殺害したのです。
犯人は首を切断、その首を持って窓から外に出ます。
協力者は窓を閉めた後、扉から出て、鍵を掛けた。
これで、《白の塔》の密室の完成です。
そして、協力者は《黒の塔》に向かいます。
協力者は《黒の塔》の《儀式の間》に入ると、扉に鍵をかけました。
一方の犯人は、《白の塔》の窓から外に出た後、再び振り子の要領で、大きく身体を揺らします。
そして、一気に反動を付けて、今度は《黒の塔》の窓まで行きました。
この窓は《精霊の塔》に近い右側の窓です。
《黒の塔》の《儀式の間》についた協力者は再び窓を開けます。
そして、犯人を引き入れたのですが……。
ここで、犯人は隙を見て協力者も殺害したのです。
このとき、協力者は殺される前に悲鳴を上げました。
犯人は首を切り落とすと、首も持って急いで入ってきた窓から外に出ます。
窓は鉄製の閂をかける仕組みになっています。
犯人はどうやって窓に鍵をかけたのか。
私が調べたところ、閂は錆びが無く表面が綺麗な状態となっていました。
この状態は、閂が《錬金魔法》で変形させられたことを示しています。
犯人は窓から外に出た後、《錬金魔法》で閂を曲げて、鍵をかけたのです。
これで、《黒の塔》の《儀式の間》も密室となりました。
そして、犯人は縄を伝って地上に降りました。
首を処分してから、私たちのところに何食わぬ顔で現れたというわけです。
以上が、どうやって密室を作ったのか、ということの解答になります。
協力者の存在、《錬金魔法》による閂の操作、この二つが密室構成の鍵となります。
そして、なぜ密室を作ったのか。
その理由も後で説明します。
ここまで説明して、皆さん、協力者が誰かということを考えていると思います。
クローシャさんとシーシャさん、どちらが協力者か。
最初の殺人は《白の塔》で起きました。
そこから出てきた人物は、黒いドレスを着ていて、顔に古傷がありました。
顔に古傷があり、黒い服を着ていたのは、姉のクローシャさんです。
では、協力者とは姉のクローシャさんで、最初に殺されたのは、妹のシーシャさんなのか。
……実は《白の塔》では、驚くべきことが行われていました。
それは、双子の入れ替わりです。
詳しく説明しましょう。
妹のシーシャさんは姉のクローシャさんを《白の塔》の《儀式の間》に招くと、突然クローシャさんに襲いかかりました。
驚いたクローシャさんは、持っていたナイフを抜き、抵抗します。
その際に、シーシャさんは右の手のひらに傷を負いました。
このとき、スカートの右裾に血が付いてしまいます。
そして、シーシャさんはクローシャさんを追い詰め、気を失わせることに成功しました。
シーシャさんは窓を開けて、犯人を中に引き入れます。
犯人がクローシャさんの服を脱がせ、シーシャさんの服を着せます。
そして、……クローシャさんの首を切りました。
一方のシーシャさんは、クローシャさんの黒い服を着ます。
そして、その後、髪型を変えて、自分の左頬にナイフで自ら傷を付けました。
この傷は、犯人が《治療魔法》で治療します。
付け加えると、手の傷もこのとき一緒に治療したのでしょう。
……私はアリスの《治療魔法》をよく知っているので、盲点でした。
彼女は《転生者》なので、重傷であっても治療すれば傷跡すら残しません。
現に、塔に入る前のクローシャさんがナイフで切った傷は、アリスがその場で傷痕も残さずに治しました。
しかし、標準的な《治療魔法》では、傷を治療しても痕が残るのです。
これで、シーシャさんはクローシャさんと同じように古傷を顔に付けることが出来ました。
そして、《白の塔》を出た彼女は《控えの間》の私たちに姉として振る舞う。
こうして、双子は《白の塔》で入れ替わったのです。
双子の入れ替わりに気づいたのは、白いドレスに付いていたスカートの血痕からでした。
クローシャさんと思われる人物は右手を怪我していましたが、服に血痕は付いていませんでした。
もし、クローシャさんの右手の怪我から飛び散った血が、向かい合うサーシャさんの服に付いたとしたら、スカートの左裾に付いていないとおかしいのです。
ですが、実際は右の裾に血痕があった。
つまり、白い服を着ていた人物は右手に怪我をしていた。
しかし、右手を怪我した人物は《黒の塔》でクローシャさんの服を着ていた。
この矛盾は、服の交換で解決出来ます。
そして、服を交換するとはどういうことか。
ここで、入れ替わりに気づいたのです。
そして、なぜ双子は入れ替わったのか。
おそらく、姉が妹を殺したとしか考えられない状況を作ることが目的だったのでしょう。
そうやって、妹のシーシャは殺されたふりをして、自分への嫌疑を逃れる。
密室を作った理由というのもこれで説明がつきます。
《白の塔》の殺人現場を密室にして、その鍵を持っている姉がいなくなれば、疑いは当然、姉に向きます。
ですが、犯人はそれを《首狩りの騎士》の仕業にするため、《黒の塔》も密室にして、不可能状況を演出したのです。
さて、この双子の入れ替わりに気づいたことで、首切りの理由も分かりました。
犯人が首を切り、頭を持ち去った理由。
それは、同じ傷を持つ双子の顔を隠すためだったのです。
クローシャさんの左頬に走る古傷。
これを真似して付けられたシーシャさんの傷。
もし、この二つが現場の死体に残ったままだと、双子の入れ替えが分かってしまう。
だから、犯人はわざわざ首を切ったのです。
それでは、事件の中身が分かったところで、犯人は誰なのか、推理していきましょう。
まず、犯人は《精霊の塔》から縄で窓に飛び移ることの出来る人物です。
これは、一般的な体力のある人間であれば可能な範囲でしょう。
ですが、今集まっている皆さんの中で、この芸当が出来ない方もいらっしゃいます。
まず、ティーケさん。
貴女は階段の昇り降りにも苦労する、まぁ、その、恰幅の良い体格をお持ちです。
縄にぶら下がったり、窓に飛び移るような芸当は難しいでしょう。
次に、執事のロキドさん。
高いところに手の届かない腰の曲がった貴方にも、この条件は当てはまりません。
これで、残るのは、ダーウィッチ候、タイガさん、スケイルさん。
貴方たち三人のうち、誰かが犯人となります。
まず、ダーウィッチ候。
貴方は犯人ではありません。
犯人は縄の振り子で《白の塔》から《黒の塔》に飛び移りました。
二つの塔の間は、この館の端から端までとかなり距離があります。
ですが、ダーウィッチ候。
失礼ですが……、貴方は眼が悪いのですよね。
……貴方がそのことを隠そうとしているのは分かります。
しかし、犯人を知るために、秘密を暴くことをご容赦ください。
貴方は壁に手を這わせる癖、眉間に力を入れる癖があります。
そして、目の前に来なければ、その人物が誰か分からない、ということがありました。
遠くのものがよく見えない状態なのでしょう。
その状態で、私のナイフを防いだことは本当に驚嘆すべきことですが。
つまり、貴方は縄で飛び移ろうにも、遠くにある塔の窓が見えない。
加えて、事件発生当時は満月の夜です。
月光で明るいとはいえ、夜ですから、さらに視界の条件は悪いでしょう。
以上から、ダーウィッチ候は犯人ではあり得ない。
そして、タイガさん、スケイルさん、残るは二人になります。
果たして、どちらが犯人なのか。
犯人の条件として、《治療魔法》が使えること、《錬金魔法》が使えること、という条件があります。
タイガさん、スケイルさんについては、どちらも《治療魔法》が使えることが聞き取り調査で判明しています。
ですが、《錬金魔法》については、スケイルさんは使えますが、タイガさんは使えるか不明です。
もしかしたら、使えることを隠している可能性も否定できません。
ですが、タイガさん。
貴方は事件当日の夜、部屋に戻るアリスに目撃されています。
二階で誰かとドアごしに喧嘩している姿でした。
この目撃された時間は、クローシャさんが《白の塔》に入ってから後のこと。
つまり、犯人であれば、塔の中で犯行を行っているか、塔の間を移動している時間です。
よって、タイガさん、貴方には現場不在証明が成立します。
したがって、タイガさんは犯人ではない。
余計なお世話でしょうが、補足します。
タイガさん、貴方が風邪を引いた理由は、この喧嘩のせいでしょう。
多分、ティーケさんと痴話喧嘩をして部屋を放り出された。
外で寝て過ごしたか何かで、体調を崩したんですね。
えぇ、気を取り直して。
以上で、容疑者は一人に絞り込まれました……。
この事件の犯人、伝説を騙り、双子を殺した《首狩りの騎士》……。
それは、あなたです!
◇◇◇
ウェッジは力強く犯人を指し示した。
「……え、ぼ、僕かい!?」
指を差されたのはスケイルだった。
犯人と言われて大いに困惑しているように見える。
「ウェ、ウェッジさん、そんないきなり驚くようなこと言わないでくださいよ。僕が、そんな、犯人だなんて……」
「証拠ならありますよ」
ウェッジは冷たく言い放った。
「ウェッジさん、持ってきたよー」
アリスがウェッジの後ろにやってきた。
布でくるまれたものを抱えている。
ウェッジはアリスからそれを受け取ると、タイガとスケイルの前に差し出した。
「タイガさん、スケイルさん、これを見てください」
ウェッジが布を開いていく。
「なんだァ、こりゃ。梟? 死んでるのか、これ?」
タイガが怪訝そうに覗き込む。
スケイルは眼を剥いて梟の死体を見つめていた。
「これは、エリィです」
「はぁ?」
なおさら意味が分からず、首をかしげるタイガ。
「私たちに同行していた仲間ですよ」
ウェッジは梟を優しく包むと、説明を始めた。
「この梟はエリィという魔法士が、使い魔にしていたものです。彼女は梟を通じて私たちと会話などをしていました。ですが、犯人によって殺されたのです」
ウェッジはスケイルを横目で見る。
「もちろん、喋らなければただの梟に見えます。タイガさんが現にそう思っていたようにですね」
そして、とウェッジは続けた。
「この梟が話せることを知っている人物は限られています」
「まず、ダーウィッチ候にロキドさん。このお二人の前では、エリィは私たちと話していました。そして、スケイルさん。貴方もこの梟の特殊性を知っていた。この梟に話しかけられたのですから」
「……その梟が喋ることを知ってるから、それがどういうことになるんだい?」
スケイルが感情を抑えた声で切り返す。
「この梟が塔周辺を嗅ぎ回っているのを貴方は目撃した。そして、《精霊の塔》の痕跡に気づいた。貴方は口封じのために梟を殺すことにしたのです」
ウェッジは梟に目を落とした。
「この梟の秘密を知っていて、かつ殺す必要があるのは犯人だけです。秘密を知る人物のうち、先程の条件で二人を除外したら、残るは貴方だけになります」
ウェッジはエリィの梟と行動を共にしていたときのことを思い出す。
エリィは梟の体力を考慮して、頻繁にウェッジの肩を借りて休ませていた。
そのため、ウェッジはしょっちゅう梟を肩に乗せて移動する羽目になり、肩こりに悩んだのだが。
また、一緒に夜食は食べないので、水だけ飲ませた。
塔を調べに行くときも、梟は窓を開けられないので、ウェッジの部屋に来て、窓を開けてもらうと、当然だが魔法も使わずに飛び立っていった。
「……いやだなぁ、ウェッジさん」
スケイルが急に笑顔で語りだした。
「その梟、実は危険なんですよ。僕が外に居たら、急に襲ってきて。それで棒で追い払おうとしたら、ついやっちゃったんです」
正当防衛ですよ、と開き直った態度のスケイル。
ウェッジはため息をつくと、スケイルに冷ややかな視線を浴びせた。
そして、スケイルの右手を指で示す。
「なら、その右手、なぜ怪我をしているのに隠しているんです?」
「えっ……?」
不意に指摘され、とっさに右手を隠すスケイル。
「貴方は事件が起きてから、ほとんど右手を使っていませんね。それはなぜですか?」
「これは、転んで……」
「違います。貴方は《黒の塔》に飛び移るとき、失敗して怪我をしたのでしょう?」
「失敗した、なんでそんなことが! ……いや、今のは違っ……!」
「そして、失敗した原因は分からないんですよね、スケイルさん。……私は分かっていますよ」
スケイルはもう不用意な発言はしまいと、睨むだけにしたようだ。
「《白の塔》から《黒の塔》に飛び移るとき、貴方は窓の下の壁にぶつかった。そこから何とか窓にたどり着いたが、ぶつけた拍子に右手を負傷した。きっちり、距離を測った縄のはずなのに、なぜか《黒の塔》の距離が近く感じた。そうでしょう?」
「ま、まるで、見てきたみたいに言うじゃないか……」
スケイルは余裕が無くなったのか、態度も変わってきている。
ウェッジに対して敵意を隠そうとしなくなっていた。
ウェッジは敵意を柳に風と受け流し、説明を続けた。
「目測を誤った理由は、塔の色のせいです」
「塔の色ぉ?」
タイガが聞き返す。
「黒色には実際の大きさよりも小さく見せるという効果があります。逆に、白色は実際の大きさよりも膨張して見えるのです。」
ウェッジは食堂の黒と白の食器を見て、このことに気づいた。
「実際に、《黒の塔》は《白の塔》よりもわずかに大きいのですが、色の効果で同じ大きさに見えているのです」
ナイフで塔の最上部を狙ったが、《白の塔》では《黒の塔》と同じ位置に刺さらなかった。
「そのため、振り子で飛んだとき、その差によって、本来の想定よりも下のところにぶつかったのでしょう」
スケイルは黙って聞いている。
「スケイルさん、貴方は右手を怪我しても《治療魔法士》ですから、本来なら自分で治せるはずです。なのに、貴方は治さないで我慢し、しかも周りに隠すようにしていた。治さなかった理由は、魔力の不足によるもの。さて、なぜ魔力が足りないのですか?」
「いや、若先生は事件のせいで徹夜になって、体力が無くなったと説明してたぜ?」
タイガが割って入った。
朝の一幕のことであろう。
「魔力が足りなくなったのは、単純に魔法を使ったからでしょう。シーシャさんの傷の治療、それから閂を閉めるときの《錬金魔法》で。だから、自分の怪我は後回しになっている」
《転生者》でない魔法士の魔力の総量は知れている。
「違う、違う、僕じゃない……!」
スケイルは必死に否定した。
しかし、周囲の視線は彼を味方するものではなかった。
往生際の悪いスケイルに、ウェッジはため息をついた。
「それでも、まだ否定するのなら、彼女に出てきてもらいましょうか」
正面玄関が勢いよく開く。
「ふふ、待ちくたびれたよ」
黒いローブをタイトに着こなした女性が立っていた。
「梟殺しの生き証人、エリィさんです」
「やぁ、よくも私のかわいい梟を殴り殺してくれたね」
「なっ……!?」
ウェッジも、最初にエリィを見たときは信じられなかった。
普通に外の門を開けて入ってきたのだが、梟が殺されてから、いくら何でも来るのが早すぎる。
――こういうとき冴えるのさ、私の勘はね。
勘で不穏なものを感じたエリィは梟を動かしながら、この村に急いで駆けつけようとした。
途中、梟が殺されてからは、魔法も駆使して山を駆け抜けてきたという。
そして、館にたどり着き、ウェッジに梟が殺されたときの状況を伝えたのだ。
まさかの本人登場に、スケイルは言葉を無くし、膝をついた。
「《首狩りの騎士》スケイル、観念するのです」
ウェッジの言葉は刃のように犯人を貫いた。
数ある作品の中から、本作品をお読み頂いてありがとうございます。
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