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61話 黒の塔と白の塔

ウェッジたちは簡単な食事を取り、儀式の時刻まで待つことにした。

食事については、キースが食堂で皆を集めての会食を提案してくれた。

しかし、警護の準備に追われているウェッジたちは手早く食事を済ませたいということで、簡便な方を選んだ。

執事のロキドに食事の用意と、塔に向かう渡り廊下の鍵を開けてもらうよう頼む。

見取り図では、館の扉を抜けたところが《控えの間》という部屋になっている。

ウェッジはこの《控えの間》で待機して、徹夜の警護をすることにした。


ウェッジが夜食と飲み物、装備などを《控えの間》に運び込む。

「ウェッジさん、頑張ろう!」

アリスも徹夜の警護ということで少し興奮しているようだ。

「ふふ、私も付き合えるところまでは頑張ろう」

エリィもどうやら警護に加わってくれるようだ。

ウェッジは少し肩の力を抜くことが出来た。

そうして、夜も更けた頃、双子が現れた。

「あら、ウェッジさんたち、こちらで何を?」

「私がここで、寝ずの番をします。何かありましたら、声を上げてください。すぐ駆けつけますから」

「私も居るぞ」

エリィが口を挟む。

「そう、それは頼もしいわね」

クローシャが微笑む。

「えぇ、そうね……」

一方、シーシャの方は緊張しているのか、表情は硬い。

二人は儀式用のドレスに着替えていた。

姉のクローシャは黒いワンピースドレス、シーシャは対称的に白いワンピースドレスだった。

「それから……、お二人には、これを」

ウェッジは鞘に納めたナイフを二つ渡す。

クローシャが妹の分と合わせて受け取った。

「これは……?」

鞘からナイフを抜いて、まじまじと見つめるクローシャ。

「護身用です。何も持たないよりはマシでしょうから」

「ね、クロ姉さま、私にも見せて!」

シーシャがクローシャに抱きつく。

「きゃっ、痛っ!?」

クローシャの右手のひらに赤い血が滲む。

「あっ……、ごめんなさい……」

シーシャが抱きついた拍子に、ナイフで切ったようだ。

「あたしに任せて!」

アリスが駆け寄る。

傷口を見ると、《治療魔法ヒーリング》を実行した。

「これくらいなら、すぐだよ」

アリスの魔法により、傷はすっかり治ったようだ。

「すごい治療速度ですわね。ありがとう、アリスさん」

「えへへ、どういたしましてー」

「……ねぇ、アリスさん。貴女、《転生者リライヴ》の《治療魔法士ヒーラー》なのよね?」

クローシャは魔法で傷が治ったところを見つめながらアリスに聞いた。

「そうですよ。……どうしました?」

「例えば、貴女なら……、昔の古傷も綺麗に治せたり、するのかしら?」

アリスは反射的にクローシャの髪で隠れた傷を見た。

「……ごめんなさい。さすがに、もう治った古傷とか傷痕は、あたしでも……」

「そう……。いえ、いいのよ」

「クローシャさん、その……」

クローシャは無意識だろうか、傷痕を指でなぞっていた。

「大丈夫よ。……ただ、この傷痕が無ければ。……そうね、好きな人の前で自信が持てたかな、って。ごめんなさい、貴女に無理言って」

「いえ、いいですよー。……儀式、頑張ってくださいね!」

クローシャは笑顔で返した。

そして、クローシャは《黒の塔》へ、シーシャは《白の塔》へ吸い込まれるように入っていった。


しばらく、ウェッジたちは雑談などで時間を潰していた。

ふと、扉を開ける音が聞こえた。

ウェッジが見ると、《黒の塔》から姉のクローシャが出てきた。

「どうしました?」

ウェッジが声をかける。

「シーシャが少し不安そうだったから、ちょっと様子を見にね……」

「そうですか……。儀式の方は、どうですか?」

「まぁ、そうね。……順調よ」

「気を付けてくださいね」

クローシャは手を振り、《白の塔》へ向かっていった。

クローシャが扉をノックすると、シーシャが顔を出し、姉を中へ引き入れた。


ウェッジは気を取り直して警護に戻る。

隣では、アリスはうつらうつらと舟をこいでいた。

ウェッジがアリスに呼び掛けると、いったんは起きたものの、目を開けているのもつらそうだ。

「ごめん、あたし、もう、限界……」

「分かりました。一人で部屋に行けますか?」

「だいじょーぶー」

ゆっくり立ち上がると、アリスはふわふわした足取りで、《控えの間》を出ていった。


アリスとフィオが部屋に戻り、しばらく経った頃。

ウェッジの背後でノックが聞こえ、キースが顔を出した。

「首尾はどうかね?」

彼も儀式の行方は気になるようだ。

「クローシャさんが先ほど、《白の塔》に向かいました。あぁ、今ちょうど出てきたようですね」

《白の塔》から黒い服が出てくるのが見えた。

「ふむ、クローシャか?」

眉間に皺を寄せたキースが確認する。

「そうですね……」

そして、そのまま、何も言わずにウェッジの前を通り過ぎようとする。

このとき、なぜか、ウェッジは彼女の態度にわずかな違和感を覚えた。

つい、尋ねてしまう。

「……あの、貴女、クローシャさんですよね?」

すると、彼女は髪を手でかきあげた。

左頬に走る古傷が見える。

「どうかしたかしら?」

「いえ、失礼しました……」

そのまま、ウェッジは彼女が《黒の塔》の扉を開けるのを見届けた。


《黒の塔》の扉が閉まるのを確認した後、ウェッジは夜食を取ることにした。

ブレッドに野菜を挟んだだけの、シンプルなサンドを食べて一息ついた。

エリィは水をちびちびと飲んでいる。

キースは自室に戻ると言って去っていった。

腹が満たされたためか、少しばかり気持ちがゆるむ。


「きゃあっ!!」

短い悲鳴が聞こえた。

「エリィ、今の! 聞こえましたか!?」

「あぁ、聞こえた。悲鳴のようだね」

「黒の塔からです!」

ウェッジは駆け出した。

エリィも後を追う。

渡り廊下から黒の塔へ向かう。

扉を開けると、螺旋階段が上まで続いていた。

階段を走り、塔の最上階、《儀式の間》を目指す。

《儀式の間》の扉にたどり着いた。

両開きの黒塗りの木の扉である。

ウェッジが扉を開こうと手を掛ける。

だが、しっかり鍵が掛かっているようだ。

「エリィ、ダーウィッチ候を呼んできてください!」

「分かった!」

エリィは滑るように階段を下りて、館の方へ向かった。

その間、ウェッジは扉を叩き、中に呼び掛け続けた。

「クローシャさん! 大丈夫ですか!?」

しかし、中からは何も反応が無い。

ウェッジが最悪の事態を想定し始めた頃、エリィがキースを伴って戻ってきた。

「ウェッジ、状況はどうだい!?」

「駄目です! 扉も開かないですし、反応もありません!」

「閣下! この扉は貴方で開けられるかい!?」

エリィがキースに問いかけた。

「この扉は私でも開けられん。娘たちでなければ、どうにもならん!」

「ならば! ダーウィッチ候、扉を破ってもよいですか!?」

ウェッジが強硬手段に出ようとする。

キースはしばし逡巡したが、絞り出すように許可した。

「やむを得まい……」

ウェッジとキースで扉に体当たりをする。

エリィはしれっと応援に回っていた。

二度、三度、ぶつかる。

「オイ、何の騒ぎだ!」

タイガが階段を上がってきた。

ウェッジはタイガへ体当たり要員に加わるよう頼んだ。

いったんは渋い顔をしたタイガも、キースの顔つきを見て、観念したようだ。

三人でぶつかると、扉が軋みだした。

「もう少しです!」

「わ、わ、皆さん、どうしました?」

この騒ぎで起きたのか、アリス、フィオ、スケイルの順で、揃って駆けつけてきた。

最後の一押しとばかりに皆でぶつかる。

扉は大きな音を立てて、外れた。

勢い余って、皆が部屋に雪崩れ込む。

「はぁはぁ、皆さん、大丈夫ですか……?」

言いながらウェッジは部屋の中を改める。

円形の部屋、その中心にそれ(・・)はあった。

黒いドレスを着た彼女が横たわっていた。

ウェッジは一点を凝視する。

そこから目が離せなくなっていた。

そこは彼女の頭、があった場所。

今は何も無い。

首を切られていた。

頭部が失われていた。

首の無い死体が、そこにあった。

「きゃあーー!」

アリスが悲鳴を上げる。

ウェッジはその声で我に帰った。

「……シーシャさんは?」

ウェッジは不意に恐ろしい予感がした。

エリィ、アリス、フィオに現場の保存を頼み、呆然としているキースを部屋に残して、他の者を連れ立って階段を降りた。

急ぎ《白の塔》へ向かう。

途中、《控えの間》でティーケが青い顔をして立っていた。

タイガが、ティーケにここで待っているよう伝える。

《白の塔》も、《黒の塔》と同じ構造のようだ。

再び階段を上り、《白の塔》の《儀式の間》に着いた。

白塗りの扉を開けようとするが、こちらも鍵が掛かっている。

ウェッジがいくら呼び掛けても反応は無かった。

「ここも、こじ開けましょう!」

二度目の強行突破。

皆で勢いをつけて、何度も扉に激突する。

先程と同じように扉が外れた。

部屋の入口でウェッジたちは立ちすくんだ。

そこにも、白いドレスを着た、首の無い死体が横たわっていた。

二つの塔に、二つの首無し死体。

「まさか、首狩りの騎士……」

スケイルが震えながら呟く。

(そんな……)

ウェッジも信じられない思いだった。

動揺した心を落ち着けながら、部屋に危険が無いか、見渡してみた。

三方に窓があったが、鉄製のかんぬきでしっかり鍵がかけられている。

儀式のための部屋であるためか、物は少なく、人の隠れられるような場所はない。

ウェッジは壊れた扉を見た。

ひしゃげてはいるが、鍵の掛け金が下りたままだ。

(こんなこと、有り得ない……)

死体しか無い、鍵の掛かった部屋。


――つまり、この部屋は密室・・だった。

数ある作品の中から、本作品をお読み頂いてありがとうございます。


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