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59話 警護と双子

ウェッジが部屋で一息つくと、ドアがノックされた。

執事のロキドがこの館の主のところに案内してくれるという。

ウェッジは皆に声を掛けて、挨拶に向かうことにした。

階段を降りて、一階の奥へと進む。

「こちら、主の間で主人が待っておりますので……」

ロキドに促され、部屋に入った。

奥行きのある部屋で、壁には大剣や斧、槍といった武具が飾られている。

全体として無骨で重厚な雰囲気の部屋だ。

突き当りには黒檀で出来た机が鎮座していた。

そこには肘をついた大柄な人物が座っている。

「ふむ、君たちが《協会ブロンヅ》の遣いかね」

値踏みするような視線で睨みつけてくる。

「はい、そうです」

ウェッジが代表して答える。

尋ねてきたのは、光沢を失った金髪を後ろに無造作に流し、顎ひげを蓄えた、初老の男性。

ウェッジはその風貌と威圧感を放つ目つきから、獅子が服を着たような人物と心の中で評価した。

「そうか……。私がキース・ダーウィッチだ。今回の魔法儀式について、警護を依頼する立場の者だ」

ウェッジたちもそれぞれ自己紹介を行う。

「ウェッジ・モルガ、と言ったな。見たところ随分若いが、果たして警護が務まるのか?」

キースは無駄な飾りを省いた言葉で、一切の遠慮なく突っ込んでくる。

「お言葉ですが、閣下。この方は、今回と同じような事件を解決に導いた実績を持つ、《協会ブロンヅ》の専門家です」

前に出たエリィがいけしゃあしゃあと言葉を並べる。

(誰が専門家ですか! というか何の!?)

ウェッジはつい反射的に否定ツッコミしかけたが、何とか踏みとどまった。

エリィの言葉に怪訝な顔をするキース。

「ふむ……、ならば、試してみようか?」

言うと、キースは壁に手を這わせると大剣を手に取り、二、三回軽く素振りをした。

身の丈に近い重量感のある大剣を、重さを感じさせずに振るう。

「どうだね、私に傷でも付けることが出来たら合格としようか?」

キースが大剣を正面に構える。

それだけで、部屋の空気が戦場のそれに変わった。

キースは今にも斬りかかろうとする気迫に満ちていて、アリスは思わず後ずさりした。

対するウェッジは、その闘気を普段通りの表情で受け流す。

そして、自然体の構えからナイフを抜き、キースに向かって投げた。

キースは剣を振り下ろし、ナイフを叩き落とす。

「どうした、それで終わりか?」

キースの技量は老いてもなお衰えず、扱いに苦労する大剣であっても、ウェッジのナイフを防げるほどである。

しかし、ウェッジの《技能スキル》は、それを上回る。

キースが剣を構え直そうとして、何かに気付いたようだ。

剣の持ち手(グリップ)を顔に近付けて、じっと見る。

大剣の持ち手(グリップ)には、ウェッジのナイフが刺さっていた。

弾き落とされたナイフはいわば見せ球で、本命は別に投げていたのだ。

剣を振り回している最中、その持ち手(グリップ)にナイフを当てるという芸当をやってのけた。

さすがに、キースも言葉が無いようだ。

しばし、眉根を寄せて剣を見つめていたキースがぽつりと呟いた。

「……認めよう。たしかに、際立った腕前だ。これなら、警護することに不足はないだろう」

「ありがとうございます、ダーウィッチ候」

ウェッジが恭しく礼をした。

「しかし、先程の技量を見るかぎり、閣下には警護は不要なものと思いますが……」

エリィが疑問を呈した。

剣を壁に戻すと、キースは椅子にどかりと座り、溜息をひとついた。

「警護の対象は私ではない。今回の魔法儀式に関わってくるのは、私の二人の娘だ」

キースは机に置かれている呼び鈴を鳴らす。

すると、部屋のドアを開けて、二人の少女が入ってきた。

「私の娘、姉のクローシャと妹のシーシャだ」

少女は二人揃って、ウェッジたちにお辞儀をした。

仕草だけでない。

服装から、顔つきから全てが瓜二つだった。

「双子……、ですか?」

ウェッジが尋ねると、少女たちは微笑んだ。

「そうです、私が姉のクローシャです」

長い金髪で顔の左半分が隠れている方の少女が胸に手を当てる。

装飾が施された白色のドレスを身に付けており、胸元には黒いリボンが結ばれている。

「そして、私が妹のシーシャです」

今度は顔の右半分を紙で隠した方の少女が言った。

服装も姉とほぼ一緒だが、唯一の違いは胸元のリボンが白色であることだった。

『どうぞ、よろしくね』

双子がハミングする。

「今回の魔法儀式、成否の全ては二人に懸かっていると言ってもよい。それゆえ、二人に万が一のことがあってはならんのだ」

キースは眉間にしわを寄せて言うと、娘たちに部屋を出るよう指示を出した。

「彼女たちを警護するのについては分かりました。それでは、肝心の魔法儀式について、教えてくれませんか?」

ウェッジは警護の計画を練るために、キースに情報を要求した。

「今回執り行う魔法儀式は、我がダーウィッチ家の秘伝だ。部外者に明かせる部分は少ない」

「それでは、警護のしようがありません。ダーウィッチ候もそれはお分かり頂けるでしょう」

しばし逡巡するキース。

その間、ウェッジはじっと黙って待っていた。

エリィも成り行きを見守っている。

この魔法儀式を調査することが、エリィの目的でもある。

しかし、どうやらこの場はウェッジに任せることにしたようだ。

「……仕方あるまい。まず、ここに来るまでに白い塔と黒い塔は見たか?」

観念した様子でキースが話を切り出した。

うなずく一同。

「満月の夜、あの塔にそれぞれ二人の娘が籠り、魔法契約を行う。それが儀式の概要だ」

「満月の夜……、まさに今日の夜が満月では!?」

ウェッジが思わず確認する。

「そうだ、今日の夜に儀式を行うつもりだ。他にも細かい条件があってな、この機会を逃してはならん」

(急な話になってきましたね……)

村に着いて早々に山場を迎えることになるとは思ってもいなかった。

だが、時間が無い、とエリィが言っていたことを思い出す。

「夜に塔へ籠るのですか……。それはどのくらいの時間ですか?」

「夜通しだ。複雑な契約で、おそらくかなりの時間が必要になるだろう」

「ダーウィッチ候、この館の見取り図などは拝見できますか?」

「それも仕方あるまい。ロキドに用意させよう」

ここまでは警護に必要となる基本的な情報である。

そして、ウェッジは今回の件の核心である脅迫状について尋ねた。

「この脅迫状に心当たりはありますか?」

血で書かれたような文章だけに、単なる悪戯では済まない予感がする。

「全く無い。この儀式を執り行うこと自体、内密にしていたのだ」

ならば、かなり深いところまで事情に精通した人物が脅迫者として想定される。

「この、脅迫状にある、精霊が呼び起こされる、とは?」

「……それは答えられん。儀式に関わることだ」

「首狩りの騎士については?」

「それはこの村に古くからある伝説に過ぎん。その話を担ぎ出せば怯えるとでも思ったのだろう。だが、私はそんな与太話は信じる気になれないな」

「そうですか……」

結局、脅迫状のことについて、何も新たな切り口に繋がる情報は得られなかった。

数ある作品の中から本作品をお読み頂いて、ありがとうございます。


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