57話 脅迫状と首狩りの騎士
梟を通じて、エリィから呼び出しがあった。
面倒ごとを押し付けられる予感しかしなかったが、無視するわけにもいかないと、ウェッジは律儀に《協会》本部へと向かった。
最初は複雑で迷路のように感じた道のりも、今やすっかり慣れて、スムーズに事務局長室に向かう。
部屋に入ると、普段と変わらず、エリィが机の上に座っていた。
手にはいくつかの書類。
「そういえば、君はキーロフ・モダン卿のところの事件を解決した実績があったね」
エリィは入ってきたウェッジには目もくれず、書類を見ながら言った。
「あれを解決したと言うのかは分かりませんが、えぇ、まぁ」
「謙遜しなくてもいいよ。さて、今日は君にわざわざ来てもらったのは他でもない。ひとつお願いをしたいんだ」
「また、アリスを盾に取っての脅迫ですか?」
ウェッジが牽制の意味を込めてエリィを睨む。
「あぁ、その節は済まないと思っている。あれは私も仕方なくだ。今回は君の善意にすがりたい」
「モダン卿の話を前置きにしているところから、あまり良い内容ではなさそうですね」
「ふふ、そう言うな。話を聞けば、君も興味が湧くに違いない」
ウェッジは溜息をひとつ吐いた。
「……分かりました。聞くだけ聞きましょう」
「そうこなくてはね」
エリィは手に持っていた紙をウェッジに渡してきた。
「これは……?」
「脅迫状だね」
「……いきなりですね。背景を教えて下さい」
エリィは他の資料を机にばさりと置くと、机から降りて部屋をゆっくりと歩き出した。
「まずは、その脅迫状だね。これは昨日、グレイヴェイト村の領主、キース・ダーウィッチ候の元に届いたものだ」
ウェッジは書面に目を通す。
血のような赤黒い字で、こう書かれていた。
『グレイヴェイト村で精霊を呼び起こしてはならぬ
精霊を呼び起こしても ろくなことはおこらぬぞ
首狩りの騎士様はお怒りじゃ
精霊を呼び起こせば おお 血 血 血 だ
大惨事が繰り広げられ グレイヴェイト村は血の海と化すであろう』
「精霊を呼び起こす……?」
精霊との契約であろうが、ウェッジはその辺りの詳しい知識が無いので、首をかしげるしかなかった。
「まぁ、内容としては、その村で行われる魔法儀式の中止を迫るものだろうね。そして、この儀式には《転生者》が関わっていてね。その警護を求めてきたのだ。我ら《協会》としては、《転生者》の保護は優先すべきことだからね」
ウェッジにはもうひとつ、気になる単語があった。
「この……、首狩りの騎士、というのは?」
「それが、君を呼んだ理由だよ」
エリィはウェッジの前に来て地図を広げた。
「この地図を見てもらいたい。ここが、グレイヴェイト村だ」
隣国との境界に近い、かなりの山奥にぽつんと小さな村が位置している。
「このグレイヴェイト村には、ある伝説が語り継がれている」
それが、首狩りの騎士の伝説。
「詳細は現地で聞けるとは思うが……、かつてこの村で非業の死を遂げた人物の魂が転生して、首狩りの騎士となり、その復讐で村に災いを齎す、というものだそうだ。この伝説が今回の件に深く関わっているようでね」
村に伝わる伝説を利用して脅迫するやり方だというのは分かった。
「しかし、この脅迫状、まさか《協会》も真に受けて、私に護衛しに行けとでも言うつもりですか?」
なぜウェッジを呼びつけたのか、本題が見えないので、ウェッジはエリィに直球をぶつけてみた。
「おぉ、さすが、察しが良いね。その通りだ」
「お断りします」
基本的に面倒ごとは即断即決で全力回避する、というのが信条のウェッジである。
「そうくると思ったよ。だが、私も言っただろう、聞けば興味が湧く、と。首狩りの騎士の話を続けよう」
エリィはウェッジが渋い顔をしているのを無視して、説明を始めた。
「首狩りの騎士、という伝説はこの村だけに伝わっているものだ。なんでも昔、この村に逃げ落ちてきた八人の騎士を、村の者たちが匿ったそうでね。だが、八人とも死んでしまった。そして、村に怨みがあるのか復讐のために甦る、と。その復讐の仕方が、馬型の魔獣に乗り、人の首を刈り取るというものらしい。そこから、首狩りの騎士と言われている」
今の話のどこに、と言いかけて、ウェッジはエリィの言葉を振り返った。
(馬型の魔獣に乗る……?)
魔獣を操る人らしき魔性のモノ。
「まさか……」
ウェッジはある可能性に思い当たった。
「そう、首狩りの騎士とは魔族ではないか、と私は睨んでいる。君たちが先日葬った魔族、アリスを襲った黒い翼の魔族、灰色の羽の女魔族、合わせて三体だ。四獣遣いならば、首狩りの騎士は最後の魔族の可能性があるんじゃないかい?」
ウェッジは糸に絡めとられた気分になった。
たしかに、魔族の情報となれば、ウェッジは多少の無理をしてでも得たいと思っている。
だが、最初から魔族であるという前提で話をされても、ウェッジは信用せずに警戒していただろう。
外堀を埋めるように説明され、ウェッジ自身で可能性に思い当たるよう誘導されたのだ。
「仕方ありません……」
ここで再度断っても、結局は魔族であれば、遅かれ早かれ、対峙することになる。
ウェッジはこの話を受けることに決めた。
「ふふ、ありがとう、ウェッジ。さっそくだが、儀式までの時間が無い。装備を整える準備はこちらも手伝うので、明日にでも発ってもらいたい。それから……」
エリィが一歩、ウェッジに近付く。
「ちなみに、今回の件には私も同行するから、よろしく頼むよ」
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