53話 夜空と問答
テルモアの造った巨大な水球がウェッジたちに迫って来る。
見上げれば視界を覆うほどの大きさだ。
「ふぉふぉ、さぁ、逃げ場など無いぞ」
テルモアの言う通り、空がまるごと落ちてくるような規模の大質量である。
まともに食らえば、圧死は免れない。
テルモアの高位魔法、名を《海嘯の如き圧し流すもの》。
河などの水場が近くにあったなら、この倍になっていただろう。
だが、ウェッジたちに向けて放たれた水球も尋常ではない威力だ。
(逃げられないなら、立ち向かうのみ……!)
差し迫る水の壁を前に、ウェッジは隣のフィオを見る。
フィオと目で意思疎通を図った。
全力をもって打破するのみ。
互いの意志が一致した。
ウェッジがナイフを構える。
フィオが炎を溜める。
呼吸を合わせ、狙いを合わせ、力を合わせる。
そして、ウェッジの渾身の一投とフィオの全身全霊を込めた炎が放たれた。
その二つは螺旋を描きながら水球へと向かっていく。
そして、光が水球に吸い込まれた。
一瞬、無音となる。
だが、次の瞬間、夜空を白く塗り替えるほどの爆発が生じた。
水球の中心で発生した大爆発は、その熱で大半の水を蒸発させ、光と音とわずかな水を残した。
破裂して飛び散った水が、雨のように一帯に降り注ぐ。
「まさか、侵食精霊ならまだしも、魔法も使わぬ人間がここまでやるとは……。興味は尽きぬが……、そうも言ってはおれんようだな」
テルモアが口の端をわずかに上げながら、ウェッジたちに向き合った。
ウェッジはナイフを構え、フィオは炎の矢を周囲に展開した。
「フィオ、少しだけ時間をください」
ウェッジがフィオの前に出た。
「テルモア……、貴方はアリスを傷つけ、そして転生者の命を奪うと言った。貴方は私にとって倒すべき敵です」
ウェッジはナイフをテルモアに突きつける。
「ですが、他の魔族について聞きたい。貴方たち魔族は皆すべてが転生者を狙っているのですか? そして、なぜ、転生者を狙うのですか!?」
「人間が魔族に問うか……。その思考……、その技量……、《転生者》を除いて、ここまで私の探求心をうずかせる人間というのは初めてだよ」
ウェッジは答えを待った。
「だが、名も知らぬ人間の女よ。その問い……、前者のみ答えよう。我ら魔族は、《転生者》の抹消を至上命題としておる」
「なぜ、狙うのかは答えないのですか!?」
「人間には知る必要の無いことだ……。この世界、秩序、そして、《転生者》という例外処理……」
「そうですか……」
ウェッジはもはや何も言うまい、と引き下がった。
「さて、人間、そして侵食精霊よ。私の目的は《転生者》の抹消だ。そこを退くがよい」
テルモアはこれが最大の譲歩だとでも言うようにウェッジたちに告げた。
「拒否します。私はアリスを守ります」
「同じくだ、この下郎が」
ウェッジとフィオはそれぞれがきっぱりと拒絶した。
テルモアは溜息をひとつ吐くと、二本の水の槍を造り出す。
ウェッジとフィオは息を合わせたように、互いを狙う槍をそれぞれの刃と炎で粉砕した。
ウェッジが返す刀でテルモアにナイフを放つ。
水の障壁がナイフを食い止めた。
フィオがナイフで生じたわずかな軋みを狙い、炎の矢を撃ち込む。
水の障壁が硝子のように砕けた。
無防備となるテルモア。
ウェッジはテルモアの眉間にナイフを放った。
テルモアは自分の額に刺さったナイフを、信じられないものを見るような目つきで凝視した。
そして、眉間の傷口から蒼白い光を零しながら、テルモアは仰向けに倒れていった。
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