52話 怒りと観察
「ア、アリスッ!!」
アリスは水流でなぶられるように打ちのめされた。
水の勢いで空中に投げられる。
ウェッジは叫びながらアリスを追った。
そして、頭から落ちてくるアリスをしっかりと両の手で受け止めた。
「アリス!! 大丈夫ですか、アリス!?」
ウェッジが必死に呼びかける。
アリスは口から血を流し、苦痛に顔を歪めていた。
「アリス! 早く自分に《治療魔法》を!!」
かつて、アリスは自分に対しての治療は苦手だと語っていた。
しかし、この際、命を繋ぎとめるにはそれしか方法は無い。
ウェッジの脳裏に、アーリアの最期の記憶が甦る。
(しっかりしろ、自分!! 守ると決めた者を再び喪う気か!?)
ウェッジは自分に叱咤して、叫びたくなる気持ちを抑え込んだ。
頭を冷やしたウェッジは、アリスをゆっくりと地面に降ろす。
アリスの身体を蒼白い光が包んでいる。
アリスが自身にかけている《治療魔法》の光だ。
ひとまず致命的な事態にはならないだろうと、ウェッジは少し安心した。
アリスの容態も気になるが、ウェッジに出来ることは敵を倒すことだけである。
気持ちを切り替えて、テルモア打倒の方策を頭に練り上げる。
(やはり、あの魔族を打倒する鍵は……)
ウェッジはちらりと横を見る。
火の玉となって燃え盛っているフィオがいた。
「……よくも、アリスを! 許さんぞ……、魔族如きが!!」
フィオが怒声を放つ。
頭上には炎の槍が何本も形成されている。
フィオの炎の槍を見て、テルモアが警戒したのか、滝のように水流を降らせてくる。
ウェッジもフィオを援護するため、水流をナイフで相殺する。
フィオが炎の槍を解き放った。
轟音を伴って、赤い光が夜空に駆け昇る。
炎の槍が連なって、テルモアに突き刺さる。
テルモアのいた場所は炎が渦巻く巨大な火球となった。
衝突の余波で、紅蓮の炎が地上にまでその舌を伸ばしてくる。
炎と熱でテルモアの方をまともに見れず、ウェッジは思わず顔を背けた。
(フィオが激高すると、ここまでの破壊力になるのですか……)
地上まで焼きかねない熱を浴びて、ウェッジは改めて侵食精霊の恐ろしさを感じた。
火球から黒い塊が落ちてきた。
テルモアの召喚した大蛇が焦げて、丸まったものだった。
蛇は死んでいるようだが、肝心のテルモアが見当たらない。
すると、蛇の死骸が割れて、中から無傷のテルモアが現れた。
「次こそ、貴様を燃やし尽くしてくれる……」
フィオが再び炎を練り上げようとする。
「侵食精霊が、ここまで人間に肩入れするとはな。やはり、契約で縛られているのか……。いずれにせよ、稀有な例だ。観察するに値する」
テルモアはそう呟くと、フィオと同じように水を操り、次々と槍を作り上げていく。
洪水を防ぎ、疲弊したフィオよりも、テルモアの方が余力はあるらしく、テルモアが先手を取った。
水の槍がフィオに向けて放たれる。
「フィオ! 危ない!!」
ウェッジは《破城》を放ち、水の槍を潰した。
(守りに回っては不利になる一方……!!)
「フィオ、奴に攻撃を届かせるために、私と連携を!」
ウェッジがフィオに呼びかける。
気位の高いフィオが果たして応じるか、ウェッジは半ば賭けのような心境だった。
「……仕方あるまい。だが、ウェッジ、貴様が我に合わせろ!!」
「構いません! いきましょう!!」
テルモアが顎に手をやり、感慨深そうに言った。
「相容れぬはずの侵食精霊と人間が協力する……。……実に、興味深い」
テルモアから蒼白い光が放たれた。
周囲の水分が集められ、夜空の一点めがけて練り上げられていく。
出来上がったのは、月と錯覚してしまいそうになるほどの巨大な水球だった。
「そして、私に極限状況での反応を見せてくれたまえ!!」
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