51話 相剋と津波
テルモアに啖呵を切ったが、相手は全くウェッジのことを意に介していない。
ならばこれ幸いと、ウェッジはナイフを投げて奇襲をかける。
しかし、水の障壁がナイフを阻んだ。
魔法契約の兆しすら無かったが、どうやら水の障壁で常時守られているようだ。
魔法に長けた上位者との戦闘では、単純な攻撃は効果が薄いことが多い。
ウェッジにとっては想定内の結果である。
だが、ウェッジはなおも同様の攻撃を続けた。
(敵はアリスを集中して狙う。こちらに注意を向けさせなければ!)
さすがに、アリスを抱えたまま、何度もあの規模の水流を避けられるわけではない。
ウェッジに敵意を集めて、アリスを安全圏に置かなければ、守るだけで手一杯になってしまう。
しかし、ウェッジの思惑を無視して、テルモアはアリスに向かって再び水流を放つ。
ウェッジは回避よりも相殺することを選択し、水流を《破城》で打ち破った。
しかし、間断なく第三波の水流が襲ってきた。
力の溜めが間に合わず、今度は避けようとアリスを抱えるウェッジ。
水流がウェッジたちを飲み込もうとする寸前で、水が音を立てて霧散した。
「フィオ、助かりました」
フィオの炎により、水は一瞬で蒸発したようだ。
「フン、この威力……、《水》を冠するだけあるな。そして、我との相性は相剋か」
「火に対する水、……やはり相性は悪いのですね」
「……そうも言ってられん。奴は明らかにアリスを狙っている。我の炎で守りきらねばならん」
「私もついていますよ」
フン、とフィオは鼻を鳴らした。
「ならば、貴様は攻め続けろ」
言うと、フィオは炎の壁を造りだした。
テルモアは水流を繰り出すも、炎の壁で食い止められた。
(確かに、フィオが攻撃を防いでいるうちが勝機!)
ウェッジが力を籠めてナイフを放つ。
何本か刺さると水の障壁が軋んだ。
(畳みかければ……!!)
さらに重ねて、ウェッジがナイフを放とうとした。
しかし、足元が揺れて、ウェッジはバランスを崩してしまう。
(地揺れ……?)
「古来より、水とは万物にとって創造の礎であった。一方で、水は荒れ狂う洪水となり、万物を蹂躙する破壊の権化でもあった」
テルモアが何やら呟いている。
「さて、侵食精霊よ。そんな壁で《転生者》を守りきれると思っておるのか」
震源はテルモアだった。
泉から地を震わせるほどの水が溢れてくる。
辺り一帯の木々をへし折り、見上げるほどに高い津波となって押し寄せてきた。
「何かに掴まって!! 早く!!」
ウェッジが声の限り叫ぶ。
災害がウェッジたちを飲み込んだ。
倒木の混じる濁流に翻弄されながらも、流されないよう必死で樹を掴むウェッジ。
アリスたちの安否が気になるが、確認できる余裕は無い。
水が少しずつ引いていく。
辺りの様子は一変していた。
森であったはずが、木々はなぎ倒され、流されてしまった。
一帯は膝丈まで埋まるぬかるみに変わっている。
ウェッジが急ぎ周囲を見回す。
視界の端に、フィオらしき明かりが見えた。
ウェッジはぬかるんだ地面を苦戦しながら進んで、明かりの許にたどり着く。
フィオの周囲だけは水が避けて通ったかのように、元の乾いた地面のままだ。
そして、アリスが息を荒くして、座り込んでいた。
「アリス、大丈夫ですか!?」
「ウェッジさん……。うん、あたしは、大丈夫……。ちょっと、フィオに魔力、あげちゃって、息、上がってる、だけ」
どうやら、フィオがあの大津波を炎で何とか防いだようだ。
しかし、その代償として、アリスの魔力を大量に使用したのだろう。
(侵食精霊でも、魔法士から魔力を供給出来るのか)
このコンビの関係でまだ知らないことがあったのか、とウェッジは感心した。
大きな被害の無かったアリスを見て、ウェッジは一瞬だが気が緩んでしまった。
いまだ魔族との戦闘中ということを忘れてしまうほどに。
「そこに居たのかね」
テルモアの声で、ウェッジは自分が致命的なミスを犯したことに気付いた。
ウェッジが上を向くと、上空にテルモアと蛇が浮かんでいる。
そして、獲物に噛みつく蛇の如く、いくつもの水流がアリスに襲いかかった。
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