50話 泉と蛇
夜の森を駆ける。
幾分か先行されたが、ウェッジたちの方が速く進んでおり、追いつくのも時間の問題だった。
「待て! 奴が止まった。……が、その近く、魔力反応があるな」
フィオが警告を発する。
前方にジュノを見つける。
それから、もう一人。
泉の淵に青いローブを着た老人が座っている。
どうやら、釣りをしているようだ。
ウェッジが警戒しながら近づいて行く。
「ジュノ、そこまでです」
観念しなさい、とナイフを突き付けながらウェッジが迫っていく。
「来やがったか……」
ジュノが毒づいて老人の前に出た。
「……申し訳ありません、水のテルモアさま。俺たちの力が足りないばかりに、貴方さまのお手を煩わせることに……」
あのジュノが殊勝な態度で老人に謝っている。
「構わんよ。人間に任せることで生じる歪みが知りたかったのでな……」
老人が釣竿を置いて振り向く。
「ふむ……。《転生者》に侵食精霊とは、興味深い……」
老人は顎髭をさすりながら言った。
老人は白髪を後ろに撫でつけた老紳士といった風貌であり、街中で見かけてもおかしくはない。
それだけに、そんな人物が深夜の森の中に佇んでいるという状況は、異様に感じる。
「さて、後始末は、私がしようかの……」
よっこいしょ、と老人が立ち上がる。
ここで、ウェッジは肌にじっとりと何かがまとわりつくような不快感を覚えた。
老人の背後の泉から、ごぽり、と泡が湧き上がる。
そして、老人の背中が奇妙に蠢いたかと思うと、薄紅色の虫に似た翅が生えてきた。
「ウェッジ! こやつは……!!」
フィオが焦ったように叫ぶ。
ウェッジもフィオの言いたいことをすぐに察した。
(あの翅、この感覚、この老人は……、魔族!!)
泉から湧き上がる泡が増え、次第に水面が盛り上がる。
泉から出てきたのは、巨大な蛇だった。
胴の太さは樹の幹よりも太く、口を広げれば荷馬車くらいは飲み込めそうだ。
老人が後ろに跳び、鎌首をもたげている蛇の頭に着地した。
「さて、《転生者》よ……。私の責務でな、その命……、絶たせてもらおうか」
テルモアは名乗りを上げると、泉から渦巻く水流をいくつも引き出した。
そして、水流を束ねるとアリスの方に叩きつけてきた。
「きゃあぁぁぁ!!」
アリスが悲鳴を上げる。
とっさにウェッジがアリスに飛びつくと、彼女を抱えて水流を避ける。
しかし、衝撃の余波でごろごろと転がってしまった。
「むぎゅう……、あ、ありがとー、ウェッジさん……」
アリスは目を回しているが、特に被害は無いようだ。
(やはり、転生者であるアリスを狙うか!)
ウェッジは体勢を立て直すと、テルモアに向き合った。
「この魔族、ここで倒した方が良いですね……」
どうやら、テルモアはウェッジなど眼中に無いようだ。
ウェッジは深呼吸すると、ナイフを抜き、テルモアに向けた。
月光が刃を濡らす。
「水のテルモアと言いましたか……。このナイフに懸けて、貴方をここで沈めます!」
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