48話 容疑と教団
メルとの会話を終えたウェッジたちは、キーロフの館を後にした。
結局、この館で得られる情報だけでは、犯人の特定には至らないだろう、とウェッジは見切りを付けたのだ。
(そもそも、私はモダン卿の仇を取ろうとしているのでしょうか……?)
ウェッジは、自分の行動に明確な理由を付けることが出来なかった。
「図書の館の殺人」で犯人を挙げたのは、降りかかった火の粉を払ったのに近く、言ってしまえば成り行きであった。
しかし、今回の殺人について、ウェッジが関与出来ることは少ない。
憲兵や《協会》の組織的調査力に対し、個人で対抗出来ることと言えば直感による閃きや偶然の産物くらいである。
そして、犯人を特定出来たところで、裁きを下すのは司法である。
ならば、ウェッジが介入する意味は薄いはずである。
だが、ウェッジはこの事件がどこかで自分たちに繋がってくるのではないか、という予感を持っていた。
根拠の無い薄いものではあるが、心に引っかかるのである。
(《協会》を通じて、事件の進捗は今後も気にかけておきましょうか……)
次の日、ウェッジはエリィに《協会》の本部まで呼び出された。
ウェッジひとりを指名してきた理由に心当たりは無いまま、執務室の扉を叩く。
「よく来てくれた。わざわざ呼び出して済まないね」
「前置きはいりません。用向きをお願いします」
「先日、君が言っていたことを覚えているかい? 《氷魔像》使いのオリキスについてだ」
「オリキスがどうしました?」
「彼にはキーロフ・モダン殺害の関与が考えられる」
「!!」
ウェッジは驚いた。
魔法大会で闘ったときは、後ろ暗い殺人に手を染めるような性格には感じなかったからだ。
「彼とコンビを組んでいたジュノについても同様だ。さらに、調査を進めて、彼らが《汎魔導教団》の信徒であることが判明した」
「……《汎魔導教団》ですか?」
「あぁ、君は知らなかったか。《汎魔導教団》というのは、いわゆる魔王崇拝の教団だ」
「魔王……? 魔族の上位種ですか?」
「そうだな。存在自体が稀有な魔族、それを統率する存在が《魔王》だという」
「その教団に属していることが、モダン卿殺害に繋がると?」
「魔族は転生者を狙うのだろう? その教団の教義は私も知らないことが多いが、魔族と目的を同じとする可能性はある」
「それは、否定できませんね……」
ウェッジはエリィから詳細を聞くことにした。
まず、エリィは魔法大会の翌日から、オリキスたちを鳥によって監視し始めた。
情報を集めるうちに、オリキスたちが怪しげな集団と接触し、またキーロフの館周辺をこそこそと調べ回っていることも判明した。
そこに先の殺人事件である。
そこで、オリキスたちの関与が疑われ、詳しく身辺を調査したという。
そうして、接触した集団は《汎魔導教団》であること、また事件当日の行動について、監視や人目を避けて行動しており、現場不在証明が存在しないこと、から容疑がさらに濃くなったのだという。
「それで、私に何をさせようというのですか?」
ウェッジは説明を終えたエリィに間髪入れず尋ねた。
あのエリィが親切心でここまで情報を開示するわけがない、とウェッジは確信していた。
「オリキス、ジュノ、両名の確保を依頼したい」
「確保……? 何故ですか?」
「彼らは魔法大会に出場して、魔法士の中でも顔が知られる存在になった。その直後に人殺しでは、我ら《協会》の体裁が悪い。また、《汎魔導教団》に所属していることも、脛に傷となる。憲兵に捕まる前に、こちらで確保して処理をしておきたいのだよ」
(……結局、体面の話ですか)
ウェッジは溜息をつく。
「私にその話を受ける義務はあるのですか?」
「キーロフ・モダンの敵討ちだよ。義憤に駆られたりはしないのかい?」
「そういうものは、持ち合わせていませんよ」
「そうかい。ただ、あまり言いたくはないのだが、《協会》の頼みを断れる立場かな?」
「っ……!!」
ウェッジは思わず舌打ちをする。
エリィが言っているのは、アリスのことだ。
アリスは《協会》から庇護を受けている。
それは、言い換えれば、人質に取ることも容易いということなのだ。
「私もあまり強権的なことはしたくない。特に、君の《技能》の恐さは良く知っているからね。だが、私の立場も分かってほしいところではある」
(面倒なことになりましたね……)
ウェッジは依頼を引き受けざるを得ない状況に追い込まれた。
そして、この事件はウェッジたちを巻き込み、さらに思ってもみなかった方向へと進展していくことになる。
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