47話 捜査と図書館
ウェッジたちが到着したころには、キーロフの館には人だかりが出来ていた。
さすがに、地元の名士という立場であったキーロフの死は、周囲も関心があるようだ。
人だかりの間から館の様子を窺う。
憲兵が入口を警護している。
さすがに強行突破は出来ないので、ウェッジはエリィの部下とやらを探した。
そこで、意外な人物と出会った。
「あなたは、メルさん……」
「どうも。お久し振りですね、お嬢さんがた」
相変わらずの伊達っぷりである。
「どうして、こちらに?」
「私もモダン卿と生前親交があったものですから、彼の死を悼みに来たのですよ」
淀みなく答えるメルの言葉に、わずかに別の意味を感じ取るウェッジ。
「モダン卿の死について、詳しいことはご存知で?」
「さぁて。私には知ったところで、どうすることも出来ませんから」
「……そうですか」
「彼のことについて、詳しく知りたければ、エリィ女史の部下があちらにいますから、聞いてみればよいでしょう」
「分かりました。ありがとうございます」
メルはウェッジにそう言うと、憲兵に軽く挨拶をして館の中へ入っていった。
ウェッジはメルを追いかけたい衝動に駆られたが、まずは先に情報収集を行うことにした。
例によって、いつもエリィに無茶振りをされる事務員の男性がいたので、話を聞いてみた。
どうやら、《協会》の事務局も《転生者》の管理という名目で、事件についての情報を集めているらしい。
事務員の話をまとめる。
キーロフは館の中、彼の自室で死んでいるのが、今朝訪れた客人によって確認された。
死因は溺死だという。
この時点で、魔法による殺害の可能性が考えられている。
また、住み込みのメイド一名も同じく溺死体で発見された。
特筆すべき点として、図書室が破壊され、蔵書の類いは全て破損していたとのことだ。
現状、不審な点は多いものの、犯人などの情報には結びついておらず、彼の交友関係や怨恨、行きずりの犯行などで憲兵は捜査を進めているという。
「つまり、魔法士の関与が考えられているだけで、他は誰が彼を殺害したのか、という点は進捗が無いということですね……」
得られた情報を吟味して、ウェッジが言った。
「そうみたいだね……」
アリスが同意する。
ウェッジは事務員の彼を解放すると、館の中に入ることにした。
入口の憲兵に、先程入っていったメルの知人であり、キーロフの追悼を行いたい、と告げると、中へ入れてくれた。
館の中は、以前訪問した時と変わらず、豪華な造りに圧倒されたが、今日はどこか寒々しい。
主を喪った館は、もはや役割を終えたかのように静かだった。
ほどなく、キーロフの自室に行き当たった。
憲兵の検証の後が残っているが、綺麗に整理された部屋だ。
アリスはここで腕輪を握り、祈りを捧げた。
ウェッジもそれに倣い、彼の死を悼む。
次に、破壊されたという図書室へと向かった。
以前訪れたときは、その広さと蔵書の数に驚いたが、今回はその徹底した破壊の跡に驚くしかなかった。
棚から本が引き出され、床に散乱している。
そして、まるで荷車で引いたかのように、本が潰され、引き裂かれていた。
そして、部屋の中央で、メルがじっと本の残骸を見つめていた。
「メルさん、こちらでしたか」
「話は聞けましたか?」
「お陰様で。ありがとうございます」
「いいえ、礼を言われることではありません」
「ここで何を?」
「少し、考えごとを」
ここで会話は途切れた。
メルは一体、何を見ているのだろうか。
以前この館で起きた事件の際も、どこか達観していて、真相の近いところに立っているような雰囲気があった。
今回はどうなのだろうか。
ウェッジがそんかことを考えていると、そのことを読み取ったかのように、メルが口を開いた。
「この本の残骸を見ていて思いましたが……、犯人はモダン卿の殺害よりも、むしろこちらに重きを置いているような気がしますね」
「本を処分すること、ですか?」
「そうです。この有り様、念の入れよう、本を破壊することを徹底しています」
「犯人は何故、ここを破壊する必要があったのでしょう?」
「それは分かりませんよ、私は犯人ではないので」
思わせぶりなことを言いながら、あっさりと梯子を外すような真似をするメル。
そして、メルはさらに事態を混沌とさせるような疑問を投げかけてくる。
「そもそも、疑問に思いませんか?」
漠然とした問いかけに首をかしげるウェッジ。
「《検閲図書館》という大層な二つ名でありながら、彼の蔵書は一室に収まる程度です」
メルは両手を広げ、かつての図書室の名残りをよく見るよう促す。
「もちろん、個人でこの蔵書量というのは、この魔法都市において比類の無い量ですが。……先人の叡知の結晶である本。昔の人はよく文章や物語を本にして書いていたそうです」
急に話が飛ぶ。
メルが言いたいことがよく分からず、ウェッジはとりあえず相槌も入れず聞くことに徹する。
「なのに、今の我々はどうでしょう。後世に知識などを残すという意欲が悉く薄いのでは?」
どうなのだろうか。
ウェッジ自身は後世のことを考えたことすらほとんど無い。
「魔族の記述が少ないことも、頷けます。我々は、なぜか知識を残せない」
以前、ここで魔族の情報を探したこともメルは知っているのか。
メルのこの話の着地点が分からない。
「何故なのでしょう、疑問に思いませんか?」
再度、メルは問いかける。
まるで、ウェッジではない誰かに問うているようだ。
一体、誰に?
「人類がここまで文明を発展させたのは、先人の智慧を営々と繋いできたからでしょう」
それにはウェッジも同意する。
そして、その繋ぐ媒介となるものが本である、とメルは言いたいのだろう。
「その叡知の結晶をまるで踏みにじるかのように、今回の事件では数多くの貴重な書が破壊された。まるで、今の人類に足踏みをさせるために。そんな錯覚に陥りますよ」
スケールの大きな話となった。
キーロフの殺害はそのついでだったと言うのだろうか。
「ここの有り様を見て、つい、そんなことを思ってしまいました。今回の事件にはあまり関係ないでしょう。忘れて下さい」
メルはそう言って、締めくくった。
人類に対する敵意、のようなものを感じたウェッジは、なぜか不意に魔族のことを思い出した。
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