45話 三角関係と宴
試合が終わり、表彰台で記念の杯と賞金がウェッジたちに授与された。
観客たちも盛大な拍手で二人の健闘を讃えている。
グロリアは緊張から解放されたことと、優勝した喜びと、頬の痛みでぐちゃぐちゃに泣いていた。
ウェッジも、ここまで名誉とは無縁で生きてきたので、こういった場ではむしろ肩身が狭く感じた。
しかし、悪い気はしなかった。
石舞台を降りて退場口を抜け、控え室に戻る途中、とある人物が待ち構えていた。
「メリーヴェ……」
「優勝、おめでとう」
「……」
「……」
気まずい沈黙。
ウェッジも下手に口を出さず、成り行きを見守ることにした。
「メリーヴェ、魔法、すごい上手くなりましたわね」
「グロリアも、やるようになったじゃない」
「……」
「……」
再びの沈黙。
「ところで、何の用かしら?」
グロリアが仕方ないといった風に切り出す。
「別に 。……ただ、一言いいたかっただけよ」
「何ですの?」
「どうして貴女、《塔》の卒業のとき、フィラルドの誘いを断ったの?」
「あぁ、あのときの……、一緒に王都の騎士団に入ろう、でしたわね」
「彼、ひどく落ち込んでいたわ……。納得出来る答え、聞かせて」
「わたくしは、ただ、あのとき……、そう、余裕が無かったのですわ」
「余裕?」
「ただ、ひたすらに、魔法と自分のことで精一杯で……。それに、わたくし行くところが決まってましたから……」
「そう、そんな理由……」
「彼には悪いことをしましたわ……」
「貴女、彼の気持ち分かってるの!?」
メリーヴェはダンッと足を踏み鳴らした。
そして、キッとグロリアを睨みつける。
「あれからも、ずっと、彼は貴女のこと!!」
「いいんだ、メリーヴェ」
フィラルドがいつの間にか通路に立っていた。
「控え室にいないから、探したよ」
「フィラルド……」
「メリーヴェ、いいんだ。もう、そのことは……」
「でも、貴方、未だに、この子のこと……!!」
メリーヴェが今度はなぜか泣きそうな顔をした。
「メリーヴェ、貴女、もしかして」
「何よ!?」
グロリアはメリーヴェから目を逸らす。
メリーヴェは目尻に溜まった涙を拭う。
「グロリア! 今日は負けたけど、貴女には絶対に勝つから!! 魔法だって! それから……」
「……そうね、メリーヴェ。また、勝負しましょう」
グロリアは優しい笑顔で答えた。
メリーヴェは踵を返すと、フィラルドを引っ張って帰ろうとする。
慌ててメリーヴェについていくフィラルド。
しかし、フィラルドはこちらを向き、グロリアに手を振った。
「グロリア! いつか、また逢おう!」
「フィラルド……」
グロリアも少し微笑み、手を振った。
(青春、ですね)
ウェッジは若者たちの一幕を見せつけられて、何やらくすぐったい気持ちで一杯だった。
◇◇◇
酒場《黒猫の三角亭》にて。
店のドアには『本日、貸切』との札がかかっている。
中では、ウェッジたちの祝勝会が開かれていた。
関係者も招いて、呑めや唄えやの騒ぎである。
「どうした、ウェッジ? 貴様、今日は酒は飲まんのか?」
「フィオは黙っていてください」
ウェッジは、息がすでに酒臭いリスを手で追い払う。
「そういえば、結局この大会でエリィさんの言ってた怪しいことって、何かありましたっけ?」
アリスが両手の焼き鳥の串を消費しながら聞いてきた。
「そうですね……、少しだけ気になることはあったのですが……」
「フン。貴様もか、ウェッジ」
フィオが今度は真面目な顔で話に加わる。
「聞かせてもらおうかな?」
ウェッジとアリスの間に、エリィが割って入ってくる。
今回はちゃんと招待されての参加である。
エリィも両手に焼き鳥の串だ。
「何だい、気になったことというのは?」
「エリィさん、そうですね……。一回戦のオリキス、覚えていますか?」
「たしか、《氷魔像》使いの子だったね?」
「えぇ、彼が最後に使ったあの水の球体、あれが少し引っかかっています」
「そうだな。オリキスは切り札で取り出した球体を媒介に、かなり高ランクの水魔法を駆使していた。氷系魔法士の奴が使うにしては、威力が強すぎる」
ウェッジの感じた齟齬をフィオが言葉にした。
「よく気付いたね。私もあの魔法道具には注目していたよ。あれはかなり高ランクの魔法士が噛んでいるな。そもそも、氷系の魔法と水系の魔法、属性は似ていると思われがちだが、実際の運用は大きく異なる。基本がすでに固体の操作と流体の操作で勝手が違うからね。それを道具一つであそこまで運用していたのは、私も違和感があった」
エリィは焼き鳥を食べながらなので、あまり説得力が無い。
「それから、彼ら二人には、何か魔法大会とは別の目的もあったようです」
「そうか……、分かった。彼らの動向には注意を払っておこう」
エリィは食事にありついた分の仕事をしてくれそうだ。
「あんさんたち、お酒の席で、なに真面目な顔してはるのん?」
後ろからネムリが赤い顔で絡んできた。
「……って、なぜ貴女がここに!?」
ウェッジが驚く。
「ひゃあぁ!」
グロリアに至っては試合を思い出したのか、怯えだした。
「なにって? 関係者です、て言うたら入れてくれてんで?」
「大胆にも程がありますよ、それ」
「ええやん。うち、お二人さんのこと好きやさかい、お近づきになりたかってん」
やはり、どこまで本気か分からないネムリの発言。
「いやぁ、うち本気やで。なんなら、この後はもっと親密に、互いの身体触れ合うくらい近づきたいんやけどなぁ?」
ネムリの指が艶かしく、ウェッジの喉から胸にかけてを撫で回す。
「そういうのは結構です」
「わ、わたくしも、そ、そんなこと、ダメ、ダメですわ! な、何となくですが、きっと、も、戻れなくなりますわ!」
「つれないなぁ」
ウェッジとグロリアににべもなく断られ、落ち込む素振りのネムリ。
「なんだ、貴様の連れ合い、変態か?」
フィオがネムリを見守る影に話し掛ける。
「……肯定」
ヘイズは達観した目をしていた。
かくして、宴の夜は更けていった。
数ある作品の中から本作品をお読み頂いて、ありがとうございます。
もし、気に入って頂けたら、評価ptの入力やブックマーク登録を是非お願いいたします。




