43話 騎士と魔女
魔法大会《天象杯》決勝戦、当日。
控え室では、ウェッジが試合前の最終準備を行っていた。
ウェッジの頭に雑念はなく、心は落ち着いていた。
グロリアは新調した魔導杖の調整に余念がない。
だが、予選などの頃と比べて、表情に不安の色は見られない。
ウェッジと共に闘い抜いた経験が彼女を成長させたのだろう。
大会関係者から、入場の声が掛かる。
「この闘いで最後です。行きましょう」
「はい!」
ウェッジとグロリアは決戦の舞台へと進んでいった。
石舞台の上では、すでに対戦相手が待ち構えていた。
白い布の服に銀の盾を装備した金髪の青年が、グロリアを見かけると手を振ってきた。
「やぁ、グロリア。《塔》以来だね。まさか、君が決勝まで残るとは」
「フィラルド……」
その隣、紺色のシンプルなドレスを着た黒髪の少女がグロリアに冷ややかな視線を送った。
「グロリア、久しぶりね」
「メリーヴェ……」
「グロリアさん、もしかして、二人とも知り合いですか?」
「えぇ。かつて、魔法を共に学んだ仲ですわ……」
「それは大丈夫なのですか?」
「ウェッジさん。……知り合いだからといって、情をかけることはしませんわ。安心してください」
「こちらも、そうだね。決勝まで勝ち上がってきたんだ。昔の君とは違うだろうから、本気で挑ませてもらうよ」
「あのグロリアがどこまでやれるのか、楽しみね」
そういうと、フィラルドとメリーヴェは試合の開始位置まで歩いていく。
グロリア、そして相手の二人とそれぞれ態度に違いはあれど、お互いに遠慮は無いようだ。
「《無冑の騎士》フィラルドに、《四方の魔女》メリーヴェ……。転生者ではないですが、二人とも魔法の実力は《塔》の中でも一、二を争う才能の持ち主でしたわ。」
グロリアは懐かしい頃を思い出すような目で、ウェッジに説明した。
「フィラルドは錬金魔法の使い手、メリーヴェはわたくしと同じく支援魔法を得意としています」
「錬金魔法に支援魔法ですか……」
ウェッジの脳裏に以前戦った精霊戦隊の姿がよぎる。
「わたくしが知る頃よりも一年以上経ってますから、恐らく更に研鑽を積んでいることでしょう」
「決勝まで昇ってきた相手だけはあるということですね」
「えぇ、気を引き締めていきましょう」
両者が開始位置に着く。
皆の発する緊張感が空気に混じり、肌を刺してくるようだ。
「決勝戦、始めっ!!」
審判の合図で、決勝戦の火蓋が切って落とされた。
「いきます!!」
先手必勝を信条とするウェッジがナイフを放つ。
グロリアの説明で、それぞれの魔法は判明したが、実際の運用は闘ってみないことには分からない。
そこで、まずは反応を探り、そこから推理して攻略の筋道を立てる。
ウェッジが基本とする魔法士攻略法である。
ウェッジの投げたナイフが金属音を立てて弾かれた。
フィラルドの装備していた銀の盾が菱形の板状に変形して、ナイフから身を守ったのだ。
そして、そのままフィラルドの周囲を旋回している。
「あれが、彼の錬金魔法ですわ……。銀の浮遊板を自在に運用することで、攻防一体の《鎧》とする魔法……」
「成程、それで《無冑》ですか……」
銀板はフィラルドの顔より少し大きい程度であり、それが一枚浮遊している。
(ならば、あの板を貫くか、両脇から攻めるか……)
銀の板一枚程度なら、ウェッジからすれば、そこまで脅威ではない。
「グロリアさん、私に《支援魔法》を。早々に片付けます」
「分かりましたわ!」
攻略法を見いだし、ウェッジがナイフを構えたときだった。
「僕は卑怯な真似は嫌いだから……、闘うときは最初に手の内を明かすことにしているんだ」
フィラルドはそう宣言すると、銀の板に手を当てた。
すると、銀板が輝きだし、分裂して数を増やし始めた。
「どうだい、グロリア。《塔》にいた頃よりも魔法が上達したと思わないかい?」
フィラルドが自身の魔法を誇るように言う。
銀板はその数を倍々に増やし、最終的には三十二枚となった。
一枚でウェッジのナイフを弾いた銀板、それが大量に浮遊している。
さすがのウェッジも、攻略法を修正せざるを得ない物量であった。
加えて、もう一つの懸念。
(まだ、相手は《支援魔法》を実行していない……)
メリーヴェは腕組みをして様子を眺めているだけだ。
相手の戦力はまだ底が見えない状態である。
(あの手のものは……、至近距離か遠距離戦か……)
物を操作して攻撃する魔法は、至近距離まで肉薄すれば、術者は巻き添えとなるのを恐れて物の動きを止めることが出来る。
もしくは、ひたすらに撃ち合い、ゴリ押しで相手の防御を突破するか。
ウェッジは作戦をこの二つに絞った。
「さて、それじゃあ行くよ」
フィラルドが銀板を伴ってこちらに向かってくる。
ウェッジはナイフを投げて迎撃するが、重ねられた銀板に遮られ、全くフィラルドに届かない。
フィラルドが手を横にかざす。
すると、銀板がそこに集まり、一直線に並んだ。
銀板が変形し、剣のようになる。
フィラルドは銀板を横薙ぎに振るう。
ウェッジは後ろに跳んで回避、グロリアは頭を抱えしゃがんで避けた。
今度はウェッジに向かい、フィラルドが手をかざす。
銀板は角を鋭く尖らせ、ウェッジ目掛けて何枚も飛んでくる。
ナイフを振るって弾き返すウェッジ。
(なるほど、銀板のパターンは少なくとも三つ。防御の《鎧》、広範囲斬撃の《剣》、連射可能な《矢》。……どれも厄介ですね)
どうやら銀板は手をかざすことで指向性を持たせることが出来るようだ。
防御は特に操作している様子が無く、自律防御に頼っていると考えられる。
(至近距離の穴を突いてみましょう)
ウェッジは相手の懐に飛び込む決断をした。
フィラルドに向かい、走るウェッジ。
《矢》が幾本も飛んでくるが、ウェッジはナイフを巧みに使い、軌道を逸らした。
「いいのかな? 切り刻まれるよ!」
フィラルドが《剣》を振りかざす。
刃となった銀板が頭上から降って来る。
ウェッジはぎりぎりまで引き付けて、身体をずらして回避した。
ようやくフィラルドに触れる距離まで詰め寄った。
ウェッジがナイフを突き出す。
刃がフィラルドの左肩に突き刺さる。
ウェッジがもう一本ナイフを刺そうとしたところで、フィラルドが《鎧》を動かした。
横から次々と銀板がぶつかって来る。
大量の銀板に押し出される形で、ウェッジは離されてしまった。
肩を押さえるフィラルド。
「まさか、直接斬り込んでくるなんてなぁ」
ウェッジの攻撃を呑気に評価している。
「フィラルド、いいかしら」
ここで、ずっと静観していたメリーヴェが声を発した。
「貴方が傷つくことに私は耐えられない。これは前も言ったはずよね?」
「いやぁ、試合だから仕方ないんじゃないかな……」
「このまま黙って見ていろと? いいから、さっさと片付けて。私も魔法を使うわ」
「分かった、分かったよ……」
痴話喧嘩のようなやりとりが済むと、メリーヴェは《契約書》を展開し始めた。
「グロリアさん、彼女の《支援魔法》は何か特別なのですか?」
ウェッジが今の隙にグロリアに尋ねる。
「《支援魔法》の効力自体はわたくしと同じ……、といっても、彼女は運用の仕方が群を抜いて上手いですの」
グロリアも対抗して、ウェッジに《支援魔法》をかけるため、《契約書》を展開する。
「彼女は《塔》に居た頃、常に四人の護衛を連れていました。四方向を守る護衛、そこから《四方の魔女》とあだ名が付いたんですが……」
たしかに、護衛を侍らせていてもおかしくない高飛車な雰囲気がある、とウェッジは変なところで感心した。
「その護衛四人には、常に《支援魔法》をかけていましたの。……つまり、四つの対象に同時に《支援魔法》を実行できる才能の持ち主」
グロリアは一人で精一杯だというので、その差は歴然としている。
「それで対象が一人だけでしたら……」
「四つの《支援魔法》を重ねがけ出来る、ということよ」
メリーヴェがグロリアの発言を継いで、そして魔法を実行した。
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