39話 異国と空振り
試合が終わり、石舞台から降りるウェッジとグロリア。
同じく、大会の関係者に支えられながら、ジュノとオリキスも石舞台を降りてきた。
「お前ら、よくもやってくれたなぁ……」
ジュノがウェッジたちを睨みつける。
「よせ、ジュノ。お互い様だ」
オリキスが相方をなだめる。
「でもよぉ、こんな女どもにやられて……。しかも、ショボい《支援魔法》使いに、もう一人は魔法士ですらねぇし!」
「俺たちは試合に負けた。ここで吠えても無駄だ。それに忘れたのか、俺たちの目的を」
「チッ! ……分かったよ」
オリキスがたしなめて、ようやくジュノは引き下がる。
確かに、試合はウェッジたちの勝利だった。
しかし、ウェッジ自身は素直に喜べない。
グロリアに助けられ、何とか勝ちを拾った形だったからだ。
(私もまだまだですね……)
ウェッジはナイフを握り締めた。
もう、心の不安は消え去っている。
魔法の効果が切れたのであろう。
「グロリアさん、ありがとうございました」
グロリアに礼を言うウェッジ。
しかし、当のグロリアは俯いたまま、何も応えようとしない。
「あ……、あぁあ……」
グロリアが呻き、顔を手で覆う。
「どうしました?」
「わ、わたくし、何て、はしたない真似を……」
「そんなことはなかったと思いますが……」
「それに、あぁ、わたくし、ウェッジさんにも大変失礼な口を聞いてしまって……」
「もしかして、グロリアさんも魔法が切れてます?」
「もう、わたくし、お嫁にいけませんわー!」
泣き崩れるグロリア。
ウェッジはグロリアを慰めながら、なんとかグロリアに自信をつけさせる方法は無いか、考えていた。
控え室まで戻ると、アリスたちが待ってくれていた。
「ウェッジさん、大丈夫です!?」
「毎回手を煩わせてしまって、申し訳ない」
「いいですよー、これくらいすぐ治せますから」
アリスが《治療魔法》で、まずはウェッジの腕の治療を始めた。
見る見る内に、腕の傷が癒えていく。
「次は、わぁ、身体が痣だらけ……。これも治します」
「アリスさん、貴女、……さすがですわね」
アリスを誉めるグロリア。
しかし、その目つきは鋭かった。
「えへへ、任せてください! あとで、グロリアさんも傷や痛みがあれば治しますね」
「わたくしは、大丈夫……ですわ」
「すごく落ち込んでるように見えますよ?」
アリスが心配する。
「そっとしておいてあげて下さい」
ウェッジはアリスの肩に手を置き、首を振った。
◇◇◇
初戦は無事に勝利した。
ウェッジたちは闘技場を後にして宿に帰る。
また明日には、準決勝が始まるのだ。
ウェッジたちは、それぞれ英気を養うことにした。
部屋でくつろいでいると、ドアがノックされる。
ウェッジがドアを開けると、エリィが立っていた。
「驚いたかい?」
「えぇ、まさか本人が来られるとは思いませんでした」
「ふふ、たまには良いだろう」
エリィは相変わらず、身体のラインにフィットした黒のローブを着こなしている。
「とりあえず、中へどうぞ」
エリィを部屋に招き入れる。
「用件は何ですか?」
「まぁ、一回戦の勝利おめでとう、という労いと、次の相手のことだ」
「次はどんな相手ですか?」
「……すまない。情報はほとんど無い」
「相手は魔法士では無いのですか?」
「そうだ。予選会で君たちの次に早く勝ち抜いた二人が相手になる」
「あぁ、あの……」
ウェッジは予選会場で見かけた二人、カタナの女と黒ずくめの覆面を思い出した。
「二人とも遠い国の出身ということだ。覆面は魔法ではない何かを使うらしい。それから女の方はかなりの腕前のカタナ使い。教えられる情報はこれだけだ」
「そうですか……」
どちらも、かなりの武芸を修めているとウェッジは確信していた。
(厄介な精神干渉魔法の次は、異国の武芸者……。この大会、楽はさせてくれそうにないですね)
「しかし、それだけのためにわざわざ来て頂いて、ありがとうございます。仕事は大丈夫でしたか?」
「ふふ、事務員の彼に押し付けたから、問題無いさ」
ウェッジは幸の薄そうな事務員の男性に同情した。
「ところで……」
エリィが部屋を見回している。
「今日は祝勝会はしてないのかい?」
「えぇ、まだ一回戦を勝っただけですし。それに毎回祝えるほどお金に余裕も無いですから」
「……そうか」
よく見ると、エリィは手に食器を持っていた。
(食器を持参……?)
「いや、別に良いんだ。あの美味しそうな料理には興味があったが、なければ構わないさ」
そう言うと、そそくさと帰ろうとするエリィ。
「では、また。明日も健闘を祈っているよ」
最後に一言添えて、エリィは去っていった。
「もしかして……、料理を食べたかったのかな?」
アリスがウェッジに尋ねた。
「さぁ……」
ウェッジは首をかしげるしかなかった。
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