38話 水流と肉弾戦
ジュノの魔法は、グロリアにとって想定以上の効果を発揮した。
彼の魔法は、相手の《技能》に対して自信を喪失させるのではなく、自信を反転させる効果をもたらす。
絶対の自信を持つ者が相手では、心が折れそうになるほど自信を喪失するため、絶大な効果を発揮する。
自信の無い者に使えば、逆にその自信は過剰に増大する。
大抵は、実力に見合わぬ慢心を引き起こし、むしろ隙だらけになったりするので、どちらにせよ厄介な魔法である。
つまり、今のグロリアは普段の自信の無さが反転した状態。
それで自信に溢れ、堂々とした態度になっているのだ。
「なんだ、アンタは小心者だったってわけか。派手な見た目の割りになぁ。クククッ、でもよぉ、自信満々になったからって、アンタみたいなのは別に怖くないよ……」
ジュノはグロリアの豹変ぶりに対しても冷静であった。
おそらく、魔法でこのように性格が変化した者への対応も織り込んでいるのだろう。
「今度はその心、ぐちゃぐちゃにしてやるぜぇ!」
ジュノが《契約書》を展開し始めた。
グロリアに別の精神干渉系魔法を放つつもりだ。
しかし、彼は見誤っていた。
グロリアは自信を得たことにより、かつてないほど魔法が冴え渡っていたことを。
そして、彼を守る壁となるはずの《氷魔像》が砕けてしまっていることを。
グロリアは、ここにきて自分の魔法の真価をついに理解した。
《支援魔法》の対象を身体の部位ごとに細かく指定し、瞬間ごとに強化していく。
走るときは足のみ、杖を振るうときは腕のみ、と限定してピンポイントで強化をすることにより、契約に要する時間を縮め、出力を向上させたのだ。
グロリアは強化された脚力で、一息の間にジュノに肉薄する。
ジュノは想定以上の速さで距離を詰められ、狼狽した。
「な、いきなり、どうなってんだよ!」
ジュノが叫ぶが、彼は生粋の魔法士である。
近接戦を挑まれては、なす術がない。
グロリアが杖を振り下ろす。
ジュノは腕で頭をかばったが、腕はへし折れ、肩に重い一撃を食らった。
沈むジュノ。
「残るは、貴方だけですわよ」
オリキスを見据え、グロリアが告げる。
もはや別人と言えるほどの革新が、グロリアの中で起こっていた。
オリキスは、形勢を逆転されても、なお不敵な態度だった。
「いいや、まだ駒はある」
オリキスは腰の荷袋から、手の平ほどの青い球体を取り出した。
「……使わせていただきます、水の■■■■さま」
オリキスが呟く。
最後の部分は聞き取れなかったが、彼の言葉を受けて球体が光りだした。
球体から水が零れだす。
球体の中身よりも遥かに多い大量の水が、脈打つように溢れ、オリキスの周りで渦巻いた。
蛇のようにうねる水流が、ウェッジとグロリアを圧し潰そうと迫ってきた。
杖で殴り、水流を逸らすグロリアと、横に転がって回避するウェッジ。
「オリキスを倒すには、あの水流をかいくぐっていく必要がありますね」
「ウェッジさん。わたくしが水流を防ぎますから、そちらは任せてもよろしくて?」
「グロリアさん、それでは貴女が……」
「心配は無用と言ったはずですわ。今のわたくしなら、恐いものなどありませんわよ!」
「分かりました。では、行きます!!」
ウェッジが走り出す。
グロリアは自分に《支援魔法》を使っているため、ウェッジは素の身体能力でオリキスに攻め入る必要がある。
熊に投げられたダメージもあったが、ウェッジは果敢に進んだ。
グロリアもウェッジに並行して、迫って来る水流を叩き伏せる。
オリキスに指呼の間まで近付いた。
オリキスは水流を束ねると水の壁を形成する。
「いきますわよぉ!!」
グロリアが先の熊を倒したときのように、渾身の力で杖を水の壁に叩きつけた。
壁にぽっかりと大穴が開く。
水がすぐに穴を塞ごうとした。
だが、ウェッジは穴に飛び込み、オリキスの眼前までたどり着いた。
「ここまで来るとは……。だが、どうする」
オリキスの態度は崩れない。
「貴方を、叩き伏せます」
「そうか」
オリキスがウェッジに蹴りを放つ。
ウェッジは蹴りを足でガードする。
カウンターでオリキスの顔面を左手で殴る。
オリキスはのけぞったが、踏みとどまり、ウェッジに掴みかかろうとする。
ウェッジは腕をかいくぐり、オリキスの腹に膝蹴りを食らわせる。
「う、ぐはぁ」
オリキスが悶絶し、屈んだ。
その顔に、ウェッジは一回転してまわし蹴りを叩き込んだ。
石舞台の外まで吹き飛ぶオリキス。
審判がジュノ、オリキスの状態を確認する。
「そこまでっ! 試合、終了っ!!」
審判の宣言を聞き、ウェッジは疲労で座り込んだ。
そして、自分の発言を訂正した。
「あぁ、すいません。叩くのではなくて、蹴り倒してしまいました」
◇◇◇
新しいステータスが公開されました。
グロリア・コーデル
技能:支援魔法……B+ランク(限定状況でAランクに相当)
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