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36話 舞台と歓声

魔法大会《天象杯》の本選がこれから始まろうとしていた。

ウェッジは殺風景な控え室で、装備の点検を行っていた。

グロリアは自前の魔導杖を抱え、落ち着きなく、部屋の中を行ったり来たりしている。

「グロリアさん、大丈夫ですか?」

「えぇ、……そうね」

グロリアは上の空といった返事だ。

ウェッジは予選でのグロリアの《支援魔法バッファ》を受けて、この戦力なら十分に戦えると自信を持った。

しかし、当のグロリアにそれを伝えても、

「……わたくし、そんな褒められるような魔法士ではありませんわ……」

未だに自己評価は低いままだった。

「そろそろですね……」

「……えぇ」

ウェッジが点検済みのナイフを胸のベルトに戻したとき、大会の関係者が二人を呼びに来た。

大会の競技場までの道順を案内され、移動するウェッジたち。

暗い廊下を進んでいくと、競技場への入口が見えてきた。

進むにつれ、なにやら低い地鳴りのような音が聞こえる。

暗い廊下を抜けると、ウェッジは外の明かりが眩しくて目を細めた。

ようやく慣れて視界を取り戻すと、そこには石造りの舞台があった。

そして、先程の地鳴りが、観客の大歓声に変わり、二人を揺さぶった。

『うおぉぉぉぉ!!』

「な、何ですの、この歓声!?」

「どうやら私たちが来るのを待っていたようですね……」

歓声で上手く聞き取れないため、ウェッジはグロリアの唇を読んで応えた。

正方形の石床が敷き詰められた舞台(リング)。それを取り囲むように観客席が作られている。

観客はほぼ満員で見渡すばかりの人、人、人である。

どうやら出場者が入場したことで盛り上がっているようだ。

『さぁ、ウェッジ選手、グロリア選手が堂々の入場だーー!!』

魔法で場内に拡声しているようで、どこかから実況が聞こえてくる。

二人で石舞台リングに上がり、中央近くまで移動する。

ウェッジたちの対面の出入口から二人の男が現れた。

(あれが相手のオリキスとジュノ、ですね)

ウェッジは二人を観察する。

オリキスは青色を基調とした布のローブを着た青年だった。髪を短く刈り上げて運動もこなせそうな精悍な顔つきだ。

一方のジュノは黒一色のマントをまとった猫背ぎみの青年で、目元まで伸びた黒髪の隙間から、上目づかいでこちらを睨んでくる。

だが、目が合うとすぐ逸らすので、どうやら人見知りなのでは、とウェッジは思った。


さて、二組が石舞台リングで揃った。

本選では、二人一組で直接闘って優劣を競う形だ。

ただし、相手を殺してはならず、二名とも戦意喪失による降参で敗北となる。

もしくは試合の続行が困難と判断された場合も、同様に敗北となる。

審判は、試合前の説明をした後、舞台を降りて離れていく。

二組はそれぞれ舞台リングの端まで移動して距離を取る。

近い距離で自分の魔法の巻き添えを食らってしまわないよう、最初から距離を取っておくようだ。

魔法大会ということで、ウェッジは想定していた内容と実際のギャップを修正していく。

この遠く離れた距離というのは、魔法士の魔法の適正距離であり、同時にウェッジが得意とする距離でもある。

審判がウェッジたちとオリキスたちを交互に見て、手を上げる。

そして、息を吸い、一拍溜めたあと叫んだ。

「一回戦、始め!!」


早速、ウェッジが前に出てナイフを放つ。

オリキスとジュノにそれぞれ早業の三連投。

しかし、二人の身体にはナイフが刺さらず、弾かれてしまった。

ジュノが黒マントを揺らすと、その下には氷で出来た鎧のようなものが見える。

オリキスの氷系魔法で作られた強靭な鎧であろう。

生半可な攻撃は通らないようだ。

「クククッ、言った通りだろ? ああいう女は自信過剰だから、まず先手を取ってくるって。ワンパターンなんだよ」

ジュノが陰湿そうな口調でオリキスに話しかける。

「そのようだな」

「お前の鎧のお陰で助かったぜ。ただ、ずっと着けとくと風邪引くな、こりゃ」

「ならば、早々に終わらせるとしよう」

オリキスはそう応えると、手を広げた。

蒼白い光が手の先に集まり、《契約書》を形作っていく。

「精霊よ、我が氷像に其の息吹を以て化身と為せ」

オリキスが《合意文アグリメンツ》を唱えると、彼の頭上に氷塊が出現した。

そして、氷塊がガリガリと削れていき、獅子の形に彫り込まれていく。

「ウェッジさん! あれは、《氷魔像ゴーレム》の魔法です!」

グロリアがウェッジに向かって叫ぶ。

「分かりました! グロリア、支援を!!」

ウェッジはナイフを投げ、オリキスの魔法契約の妨害を図った。

「そんな素直に実行なんてさせませんよ!」

ナイフが当たる刹那、オリキスの姿がぶれる。

そのままナイフは刺さらずに、素通りしてしまった。

「こっちこそ、素直に食らうわけねぇだろ」

ジュノがニタァと口を広げ、笑っている。

オリキスが魔法契約で目を引いているうちに、ジュノも魔法を実行していたようだ。

(オリキスたちが二重に見える……。幻覚の類いの魔法ですか)

ジュノが得意とする精神干渉系の魔法であろうか。

「頼むぜ、オリキス。オレが今から始める魔法は契約に時間が掛かるからなぁ」

「承知した」

氷塊だったものが、ついに獅子の形に整えられた。

氷魔像ゴーレム》が完成したようだ。

身体こそ氷で出来ているが、唸り声や動きはまさに獅子のそれである。

獅子がウェッジとグロリアを唸って威嚇してくる。

そのまま、氷の塊とは思えない敏捷性で、ウェッジに迫ってきた。

前足の爪で切り裂こうとする氷の獣。

噛みつきも加えた連続攻撃を、ウェッジは距離を取ってかわし切った

ウェッジは、まず一番の脅威である氷魔像を潰しにかかった。

氷魔像ゴーレム》の耐久性は高そうなので、行動停止に追い込むつもりだ。

ウェッジが放った《抜打ぬきうち》のナイフが氷の獅子に迫る。

獅子の前足に何本か刺さると、その足が砕け、細かい氷の欠片となって散らばった。

しかし、蒼白い光が損傷箇所に集まると、傷ひとつ無い氷の前足が復活した。

(自動修復するのは、厄介ですね)

ウェッジは相手の状態を確認する。

オリキスは二体目の《氷魔像ゴーレム》を造成している。

頭数で畳み掛けるつもりだろうか。

ジュノは蒼白い光をまとい、複数の契約書を周囲に展開している。

(あちらも放ってはおけませんね)

相手の魔法士二人は魔法契約中で手出しはしてこれない。

その間は《氷魔像ゴーレム》が二人を守る形である。

ここでグロリアが支援魔法を実行した。

ウェッジの身体能力を倍にまで引き上げる強化。

「ウェッジさん、お願いしますわ!」

「任せて下さい!!」

放たれた矢の如く、相手に向かい突き進むウェッジ。

まずは《氷魔像ゴーレム》を速さで撹乱し、修復出来なくなるまで攻撃する。

その後、魔法士二人の手足を撃ち抜く算段である。

殺してはいけないという縛りがここで響いてくる。

対人では、あまり高威力の技を放ってはいけない。

かといって、戦意を喪失させる程度のダメージを与える場合、どうしても狙うところは限られてくる。

まごまごと時間を掛けるほど、敵は魔法で戦力を整えるため、こちらの形勢が悪くなる。

ならば、とにかく速さで勝負する、とウェッジは判断した。

まずは、高速で動きつつ、《氷魔像ゴーレム》の手足にナイフを撃ち込む。

氷で出来た人造の獅子であるため、目潰しや急所狙いは効果が薄い。

手足が粉々になったが、すぐに割れ目から光が出て、氷の手足が生えてくる。

しかし、これで獅子の態勢が崩れ、一拍ほどの猶予が生まれた。

その隙に、ウェッジはナイフを構え、力を溜めた。

今度は《氷魔像ゴーレム》の中心を狙う。

ウェッジは持ち得る手札で最も破壊力のある投擲とうてき、《破城はじょう》を放った。

獅子に大穴が開き、砕けて、崩れていく。

「さぁ、次です!」

(《氷魔像ゴーレム》の二体目完成までに、オリキスを倒す!)

氷魔像ゴーレム》撃破で、勢い付くウェッジ。

「チィッ!」

オリキスも狙われることを察したのか、二体目の《氷魔像ゴーレム》完成を急ごうとする。

「させませんっ!!」

ウェッジがナイフを放とうとした、その瞬間である。

「待たせたな、オリキス。さぁ、精霊よ、幻惑の遣いみちを示せ。敵対者の牙といさおを有限かつ微小に貶めよ」

――ジュノの魔法が発動した。

数ある作品の中から本作品をお読み頂いて、ありがとうございます。


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