34話 支援と驟雨
予選が始まった。
開始の合図で、魔法球の浮いている地点に向かって、一斉に周りが動き出す。
蒼白い光や魔法の《契約書》もそこかしこで見える。
グロリアの言っていた風魔法士はいきなり周囲に魔法を放ち、何人か吹き飛ばしていた。
ウェッジも巻き添えを食らわないうちに、先頭集団に追い付くべく走り出した。
「では、グロリアさん、打ち合わせ通りに!」
「分かりましたわ!」
会場に入る前から、ウェッジはグロリアに対し、彼女の得意な《支援魔法》でのサポートを頼んでいた。
「精霊よ! わたくしを扶助け、彼の者を幇助けよ!」
《合意文》を唱え、グロリアは《瞬間契約》でウェッジの身体能力を強化する。
身体が蒼白い燐光に包まれると、ウェッジの動きは倍近い速さとなった。
(身体が軽い。これは想定以上の効果……。グロリアさんの魔法《技能》、かなり高いですね……)
ウェッジはようやくグロリアの実力を知った。
本人はあまり自信の無い態度だったが、力量は平均的な魔法士を凌駕していると、ウェッジは感じた。
(これなら、手早く処理できる)
強化された脚力をもって、会場を疾風迅雷の速さで駆け抜ける。
魔法球が射程距離に入るところまで来た。
先頭集団が何人かたどり着いている。
ウェッジの前方を屈強な大男が走っていた。
「ちょっと、失礼します」
「ぐぇっ! な、何だ!?」
ウェッジは助走をつけて、男の背中と肩を踏み台にして、舞うようにして大きく宙に跳んだ。
空中なら、ナイフ投げを遮る余計なものは無い。
ウェッジは目を走らせ、一瞬で目標の位置を把握する。
両手にナイフを持てるだけ握り、頭上で交差するように振りかぶる。
そして、しなやかに振り下ろし、ナイフを雨の如く降らせた。
地上の魔法球が次々と消し飛んでいく。
広域殲滅の投擲、ウェッジが《驟雨》と呼ぶ技。
ナイフの雨が辺りを一掃する。
他の参加者たちは降り注ぐ刃物に驚き、足を止めた。
先程ウェッジに踏まれた大男に至っては、何が起きたかも分からず、呆然とした表情だ。
ウェッジが着地する。
「こんなところでしょうか」
ウェッジが首尾を確認する。
目標の魔法球、その数は百。
そして、ウェッジはどうせやるならと思い、その全てを悉くナイフで撃ち抜いた。
周囲がどよめく。
関係者の男が大慌てで駆け寄って来る。
手に持った砂時計は、まだ砂がほとんど進んでいなかった。
「こ、これは……」
男がナイフの突き立った会場を見て絶句した。
ウェッジは関係者の男に声を掛けた。
「あの、この後は、どうすればよいでしょう?」
ウェッジに言われ、男はここで我に返ったようだ。
「だ、第五ブロック、予選終了ぉーー!!」
周囲のどよめきは騒然としたものに変わった。
「え、嘘だろ!?」
「いや、でも、あれ見たけど、やべぇよ……」
「まだ、何もしてないんだけどー」
「もうこれで終わりなのか!?」
周りからは不満や疑問、驚きの声などが入り交じって、騒々しくなった。
グロリアが人ごみを何とか押し進んで、ウェッジのもとにたどり着いた。
「ウェッジさん、何だかもう終わってしまったみたいですわよ!?」
「はい、終わりましたよ」
「え、あら、あのナイフ……、ウェッジさんのです?」
地面に草原の如く刺さったナイフを見て、グロリアが言った。
「はい」
「でしたら、予選って」
「私たちが勝ちました」
「えぇーー!!」
グロリアが驚き、大声を上げたことで、周囲の目が二人に集まる。
「おい、もしかして、あの二人が?」
「間違いない、あの地味な方だ」
「でも、赤髪の派手な方も魔法使ってなかったか?」
「地味な奴が派手にナイフで」
「派手な奴が地味な魔法で」
周りが勝手なことを言い出してきた。ウェッジたちは注目を浴びる前に、この場を離れることにした。
(手練れの者たちと直接ぶつかる形式でしたら面倒でしたね……)
勝利条件とウェッジの《技能》が見事に噛み合い、圧倒的な勝利となった。
関係者の男に案内されて、第五ブロックの会場を後にする。
他のブロックはまだ選考中のようで、魔法の炎や雷の光、爆発音も聞こえる。
魔法大会らしい雰囲気とも言えた。
だが、さらに他のブロックを見てみると、静まり返ったブロックがあった。
第八ブロック。
そこをウェッジたちと同じように、関係者の後を歩いてくる二人組がいた。
ウェッジたちに次ぐ速さの予選突破者。
一人はカタナを携えている女性。
もう一人は黒ずくめの服装で覆面をしている。
遠目からでもただ者ではない雰囲気が伝わってくる。
果たして、本選ではどうなるのか。
(ここからが、本番でしょうね……)
厳しい戦いが待つであろう本選に向け、ウェッジは気を引き締めた。
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