33話 相方と予選
──魔法大会《天象杯》予選会場
「参加するよう頼んでおいて、普通の参加者と同じような扱いですか……」
ウェッジはその辺りの面倒は省いてほしいと思った。
だが、特別待遇では何かを企んでいる相手に怪しまれることも考えられる。
ウェッジの周囲は参加者がひしめき合っていた。
ざっと見ても、このブロックだけで百人以上はいるだろう。
「仕方ありませんが、まぁ、優勝を目指していきましょうか」
ウェッジは軽い口調で隣の相方に言った。
「……ウェッジさん、わたくし、ここにいること自体、何かの間違いじゃないかと思えてきましたわ……」
緊張した顔でグロリアが周りを見渡している。
ウェッジがチームメイトに選んだ相手は、グロリアだった。
アリスやフィオを除くと、ウェッジの周囲には妥当な人物が彼女しかいなかったのだ。
◇◇◇
話は三日前に遡る。
「グロリアさん、いますか?」
ウェッジは同じ宿に泊まっているグロリアの部屋を訪ねた。
同じ宿に逗留しているので、時折顔が合えば世間話をする程度の関係である。
(いきなり、魔法大会に出場しませんか、と言って聞いてもらえるでしょうか……?)
出たとこ勝負のウェッジであった。
「はぁい」
中から返事が聞こえ、グロリアが顔を覗かせる。
「あら、ウェッジさんでしたか」
どうぞどうぞ、と歓迎するグロリア。
お願い事をするということで、ウェッジは手土産に茶菓子を持参していた。
それを見たグロリアから、「お茶を用意するので、一緒に食べましょう」と誘われ、部屋にお邪魔することになった。
グロリアは手際よく二人分の紅茶を用意する。
ウェッジは先日の事件を思い出して、紅茶を飲むときだけは少し身構えてしまった。
「折り入って、お願いがあります」
ウェッジはかしこまった態度で切り出した。
「グロリアさん、私と魔法大会に出場してくれませんか?」
目をぱちくりさせるグロリア。
言葉の意味が伝わっていないのか反応が薄い。
数拍を置いて、え? とグロリアが声を漏らした。
「あ、あの、わたくしが、あの魔法大会に、出場するのですか?」
「お願いします」
頭を下げるウェッジ。
「そんな、頭を下げなくても……。確かに助けて頂いた恩はありますけれど、本当に、その、わたくしと組むおつもりで?」
「私の力量は知っていると思いますので。グロリアさんには後方支援して頂く程度で構いません」
「うぅ、確かに、わたくしではそんな戦力にはなりませんから……」
そういう意味で言ったのではないですから、とフォローするウェッジ。
「考えてもらえませんか?」
「貴女ほどの方がそこまで言うのでしたら、きっと事情があるのでしょうが……」
懐が寂しくて賞金に釣られたとは言えず、ウェッジは胸が痛んだ。
「少し、考えさせてください……」
分かりました、と引き下がるウェッジ。
グロリアが芳しくない反応であったことで、ウェッジは多少気落ちした。
大会に出る相方はなるべく知っている人物で、しかも魔法士の方が良い。
アリスとフィオを抜いて周りでこの条件に当てはまるのは、グロリアしかいなかった。
グロリアなら、ウェッジが前衛で戦う際の支援役にも向いていると思われた。
そして、彼女の性格なら、事前に賞金の取り分を相談すれば、後で揉めることも考えにくい。
大会の本戦に出場するだけでも、魔法士には名誉なことだと聞いていたので、グロリアも二つ返事で答えてくれるのでは、という淡い期待は裏切られた。
助けた恩はあるが、グロリアにはそれを笠に着て参加を迫るのは、あまりウェッジの望むところではなかった。
(後は、本人の気持ち次第、ですか……)
グロリアを訪ねた次の日、彼女の方からウェッジたちの所にやって来た。
「ウェッジさん、昨日のお話ですが、お引き受けしますわ」
グロリアが参加してくれるというので、ウェッジは安心した。
しかし、一日で態度が変化したことは、少し気がかりだった。
こうして、ウェッジとグロリアのコンビは魔法大会の予選に参加するに至った。
◇◇◇
話は現在に戻る。
魔法大会の予選会場は整地された屋外の広場で行われた。
どうやら、《蒼銅協会》の野外魔法実験場らしい。
かなりの広さを誇り、数千人は収容できそうだ。
会場は八つのブロックに分けられ、ウェッジたちは第五ブロックとなった。
各ブロックの代表者ペアが本選に進める、つまり予選を勝ち抜けるのは八組のみだ。
ウェッジは自分のブロックにいる参加者を観察した。
冒険者のような恰好をしたものから、いかにもな怪しいローブ姿の魔法士もいる。
どれほどの実力があるのか、武芸者なら佇まいや所作を見ればある程度の力量は推し量れる。
しかし、魔法士は扱う魔法によって全く判断が変わってくる。
魔法士は、一見しただけではどれほどの脅威か推し量れない、という怖さがあるのだ。
ウェッジは魔法の知識については人並み程度であるため、相方のグロリアには魔法の知識面でのサポートも頼んでいた。
しかし、その頼りのグロリアは、周りの面子を見て自信を失いかけている。
「あの、ウェッジさん、本当にわたくしで良かったのです? あちらには王都でも十指に入る風魔法士の方ですし、その後ろには岩も砕きそうな大男、他にもそうそうたる顔ぶれですわ……。わたくしの魔法、そんなに役立つとは……」
確かに、周りにいるのは百人以上の腕に覚えのある者、魔法に長けた者の集まりである。
「大丈夫です。貴女の魔法はきっと頼りになります。それに、大体のことは私のコレで何とかしますよ」
ウェッジはナイフをグロリアに見せる。
「そ、そうかしら……」
「大丈夫ですから」
ウェッジも一抹の不安を感じていたが、相方のグロリアを鼓舞し続けた。
会場の中心に、大会運営の関係者らしき人物が現れた。
どうやら、予選会を始める準備に入っているらしい。
突如、会場の奥の地面から、大人の頭ほどの大きさの光り輝く球体が湧き出てきた。
それも大量に。
ざわめく参加者たち。
ここで、関係者の男が大声で案内を始めた。
「えー、本日は皆さま、お集まり頂きありがとうございます。《天象杯》の予選の説明をただいまから始めさせて頂きます。まず、光る球体が見えますでしょう」
参加者が一斉に光る球体に顔を向けた。
「こちらの魔法球はある程度の攻撃を受けると消滅します。皆さまはこちらの魔法球をできるだけ多く消していってください」
模範演技ということだろうか、関係者が目の前にある魔法球を剣で斬り付け、続いて魔法の矢を当てて見せる。
剣と矢を受けた魔法球は、淡い光の粒となって消えた。
「誰に消されたかは、こちらで集計されますので、各ブロックで一番多く魔法球を消した方が予選を通過できます」
そして関係者の男が手に砂時計を掲げた。
「各ブロックの魔法球は百あります。制限時間はこの砂時計の砂が落ち切るまでです」
「ウェッジさん、これ……、結構大変じゃないかしら?」
グロリアが心配そうに尋ねてくる。
「単純に早い者勝ちで、魔法球を片っ端から攻撃していくということですね」
他の参加者同士が妨害することは禁じられていないようだ。
つまり、妨害を受ける前にどれだけ素早くあの球を処理出来るかが、攻略の鍵となる。
他の参加者も、予選の攻略方法を必死に検討していることだろう。
「……それでは、《天象杯》予選、始め!!」
関係者の男が叫び、砂時計を引っ繰り返す。
運命を決める砂が、静かに零れ落ちていった。
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