32話 仕事と大会
ウェッジが犯人を告発して倒れた後、オーウェンは縛り上げられ、到着した憲兵に連行されていった。
憲兵の事情聴取も行われたが、ほとんどがウェッジにより解明されていたため、関係者のメルとアイネはすぐに解放されることになった。
ウェッジが毒から回復すると、待っていましたとばかりに憲兵に囲まれた。
それから、病み上がりにも関わらず、事件について根掘り葉掘り聞き取りをされる羽目になった。
キーロフは「事件に巻き込んでしまい、済まなかったのぅ」としきりに謝ってくれた。
ちなみに、この館で起きた事件は、後に《図書の館の殺人》と呼ばれるようになった。
こうして、キーロフの館での毒殺事件は幕を下ろしたのだった。
◇◇◇
「結局、本来の目的である魔族の情報はあまり得られませんでしたね」
憲兵から解放され、宿に戻ったウェッジはアリスたちと話し合った。
「仕方あるまい」
フィオが薪を咥えながら答える。
「次につながる手掛かりというのも、今のところありませんねぇ」
「やっぱり、魔族は倒さなきゃ、ダメなのかな?」
アリスが心配そうに聞いてくる。
狙われる当事者であるため、不安は尽きないのだろう。
「私も出来れば交戦は避けたいです。ですが、向こうが放っておくことは無いと思います」
「でも、なんで《転生者》を狙うんだろうね」
「それが解れば、対策も講じることが出来るかもしれませんが……」
《転生者》が狙われる理由。
人間と違う目的で動いている分、理解出来るものかどうかも怪しい。
(そして、もう一つ。冒険者に狙われていることも忘れてはいけない……)
ウェッジは情報屋のツォラから、アリスを狙っているのは《白銀教会》であると教えられた。
(こちらも、《教会》に手を引くよう働きかけることが出来るのか……)
まだ話の通じそうな相手ではあるが、交渉の糸口も見えない状況だ。
「当面は、ここで迎え撃つ態勢を維持するしかありませんね……」
根本的な解決にはまだ時間も材料も足りないという結論となった。
「となれば……」
ウェッジはため息をつき、少しばかり嫌な現実と向き合うことにした。
「軍資金、心許なくなってきますね」
ここで、金銭的な問題が生じてきたのだった。
最後にこなした依頼は魔猪の討伐。
それ以降、実入りは無かった。
「この魔法都市、ギルドが無いんですよね」
アリスの困った顔に、ウェッジも頷き返す。
冒険者であるウェッジが手っ取り早く路銀を稼ぐには、ギルドで依頼をこなせばよい。
しかし、この《魔法都市ライン・リィク》では、冒険者の数が少ないからなのか、ギルドの窓口が設置されていないのだった。
「依頼を取りまとめてくれるギルドが無ければ、どうするか……」
ウェッジの思い付く選択肢は二つあった。
街行く人から直接依頼を取り付けるか。
魔物などを討伐して素材屋に買い取ってもらうか。
いずれにしても、そこまでの稼ぎにはならないだろう。
ウェッジもギルドを利用出来ないほど幼かった頃、そうやって生計を立てていたが、なんとか飢えずに済む程度だった。
この街で仕事に就くという選択肢も考えたが、ウェッジはアリスと長時間離れるのに抵抗があった。
アリスも一緒に考えてくれているようで、首をひねり、うーんと唸っている。
「まさか、《協会》で仕事の斡旋とかは……、してくれないですよねー?」
アリスは何気なく呟いた。
「あるよ、仕事」
窓から突然の返事。
驚いて見ると、エリィの梟が窓から覗いていた。
「……聞いていたのですか?」
懐具合を聞かれた恥ずかしさと、常に監視しているのではないかという疑念で、ウェッジは梟を睨んだ。
「恐い顔をしないでくれ。良い話を持ってきたのだが」
「真っ当な仕事ですか、それ?」
ウェッジの質問に、ホッホッホと笑って答える梟。
「仕事というか……、魔法大会に参加するというのは、どうだい?」
「魔法大会……?」
「あぁ、毎年《協会》が主催している大会でね。優勝すれば、賞金が出る」
「その、賞金はいくらですか?」
ウェッジは怪しさを感じたが、一応聞いてみる。
「ふふ、食いついてきたね」
エリィが提示した金額は、実にウェッジたちの生活費一年分に相当した。
梟の向こうでエリィがほくそ笑んでいる気がしたが、さすがにこの金額は心が揺れる。
「そんな羽振りの良い話、どうして私たちに?」
「毎年、この大会には色々な者が参加してくるのだが、……どうも今年はキナ臭いのだよ。だから、いざという時のために、私の息がかかった者を送り込んで対応したい」
「その懸念していることですが、具体的に何か動きが?」
「ふふ、無いね。まぁ、私の勘だ」
ホッホンと梟が胸を張る。
「噂の範疇だが、色々気になることがあるのだ」
どうやら、エリィはその点について詳しく言う気はなさそうだ。
「あぁ、それとこの大会、二人一組のチームで戦って競うことになるからね。腕の立つ者が二人要るよ」
「魔法が使えない者でも参加できますか?」
「可能だ。だが、周りは魔法士ばかりだから不利になるだろう」
「……分かりました。少し考えてみます」
ウェッジはもったいぶって即答を避けた。
「それじゃあ、良い返事を待ってるよ」
梟はそう告げると飛び去った。
「ウェッジさん……、どうします?」
アリスが尋ねてくる。
「参加します」
ウェッジは即答した。
「えっ!?」
「驚くことですか?」
「たしかに、賞金はすごいけど……。迷ってるみたいだったし、ウェッジさんって、こういうのあまり好きじゃないと思ってた」
「迷って見せたのは、演技です。足元を見られていたようなので。それと好みで言うなら、好きではないですよ。こういうのは面倒ですから」
ですが、とウェッジは前置きして続けた。
「背に腹は代えられません」
「そっかー。じゃあ、あたしとウェッジさんで参加して、優勝しちゃう?」
「いえ。アリス……、貴女を危険には晒せません」
「えぇー! あたしじゃあ……、頼りない?」
「そういう訳ではないのですが……。このような二人組での戦闘では、特に《治療魔法士》は狙われやすいですから」
だから、応援する側でお願いします、とウェッジはアリスをなだめた。
「んー、分かった、もー、分かりましたー。……でも、それじゃあ、あと一人、どうするの?」
ウェッジは考えた。
(戦闘向きの魔法を使える者というと……)
「……声をかけてみますか」
ウェッジはアリスにそう言うと、部屋を出ていった。
数ある作品の中から本作品をお読み頂いて、ありがとうございます。
もし、気に入って頂けたら、評価ptの入力やブックマーク登録を是非お願いいたします。




