27話 蒼銅協会と二つ名
宿で疲れを取った次の日、ウェッジたちは《蒼銅協会》の本部に向かうことにした。
グロリアは別行動ということで、フィオを隠してウェッジとアリスで《協会》本部の建物までやってきた。
尖塔がいくつも連なる複雑かつ重厚な建物。
重く固い木の扉を開ける。
中は薄暗く、受付も見当たらない。
通りすがりの人を捕まえては道を聞き、を繰り返して、ようやく事務局の受付までたどり着いた。
ウェッジはここで気合いを入れた。
ここからは、交渉ごとになる。
コネも伝手もなく、いきなり飛び込んできたのだ。
アリスに対してどんな反応をするかも分からない。
行き当たりばったりでも、出来るだけ良い条件を引き出さなければ、ここに来た意味が無いのだ。
受付の女性に、今日は相談事で訪ねてきた旨を伝える。
すると、年配の男性が奥から出てきた。
おそらく、事務的な対応になるだろうとウェッジは予想していたが、まさにその通りだった。
事務員風の男性に、同伴している女性は転生者であり、狙われているので、《協会》に保護を求めたいと伝えた。
事務員はこめかみに筆記具を当て、渋い顔をする。
「いきなり、そんなことを言われましても……、こちらとしては、保護出来る出来ないではなくて、あまりそういったことは前例が無いことでして……」
なんともはっきりしない玉虫色の回答である。
だが、ウェッジもここで引いては無駄足になると、意気込んで事務員を説得しようとした。
その時である。
ウェッジの目の前に梟が飛んで来た。
驚く両者。
だが、事務員は驚いた後、すぐに苦い顔になった。
「その話、私が聞こう」
梟から声がする。
やや低いが、女性の声だ。
「局長……。ですが……」
事務員が梟に対して何か言いたげであった。
「私の所に連れてきなさい」
続く梟の声に、分かりました、と不承不承で応じる事務員。
「では、こちらでお話を聞くということです……」
ウェッジは、とりあえず成り行きに任せることにした。
梟の声の主は、かなりの権限を持っていることが分かる。
アリスの交渉をするのに妥当な相手である可能性が高い。
梟が飛び立って、奥の通路に抜けていく。
どうやら道案内も兼ねているようだ。
ウェッジとアリスは後を付いていく。
「わぁ、なんか、これ、魔法都市って感じがしてきました……!」
アリスは今の状況にえらく感動している様子だ。
ウェッジたちは何度も階段を上り降りし、いくつもの通路を経て、重厚な扉の前までやって来た。
ひとりでに扉が開く。
梟はすい、と吸い込まれるようにして入っていった。
ウェッジたちも意を決して部屋に入る。
部屋の中は、梟や鷲、その他の様々な鳥で溢れていた。
鳥の止まり木があちこちから生えている。
部屋の中心に机と椅子があり、一人の女性が机に腰掛けていた。
「よく来たね」
女性が自身の肉声で話しかけてくる。
見た目は二十代後半から三十代前半、黒のローブをタイトに着こなしている妙齢の美女だ。
カールがかかった黒髪で片目が隠れている。
「まずは、自己紹介といこうか。私の名は、エリィ・クライン。この《蒼銅協会》の事務局長を務めている」
「私はウェッジ・モルガ。こちらは、アリス・ワーグ・アリスです」
「ふふ、ありがとう。だが、もう一柱、いるんじゃないかな?」
「!?」
アリスはウェッジの方を見た。
フィオのことを言っているのだ。
説明が面倒になるので隠していたが、把握されているのなら隠し立てする必要はない。
フィオを解放して、侵食精霊であることを伝えた。
「侵食精霊……。この私ですら、実際に見たのは二柱目だ」
エリィは少し驚いた様子だ。
「さて、ここに呼んだのは、その子のことだったね。《転生者》であり、保護して欲しい、と」
そうです、とウェッジは答える。
しかし、ここに来て、エリィと顔を合わせてみると、果たしてアリスを保護してもらっても良いのか、と不安を感じ始めていた。
エリィという人物の底知れなさがウェッジの判断を迷わせていた。
「いいだろう」
あっさりと、エリィは承諾した。
「え?」
ウェッジは拍子抜けした。
もっと、事情の説明などを迫られると思っていたからだ。
「転生者で、しかも侵食精霊とセットだ。どこかしこから狙われるのも当然だろう。我ら《蒼銅協会》の間では転生者を《世界の法を紐解く得難き者》として認識している。積極的に我らの手で保護すべきだとね」
「そう、……ですか。ありがとうございます」
ウェッジは口では礼を言った。
しかし、まだ心の中では警戒を解くことを許さない何かを感じていた。
「だが、試験は受けてもらおうかな」
エリィがそう告げると、彼女の周りに蒼白い光が生じ、《契約書》が複数現れた。
(魔法!? ここで仕掛けてくるのか!)
ウェッジは驚き、アリスの方へ振り向いた。
すると、アリスの足元から突然木の芽が現れ、太く成長したかと思うと彼女を包み込んだ。
「きゃあぁ!」
太い幹がアリスの華奢な身体をぎちりと締め上げる。
ウェッジは樹に大振りのナイフを振り下ろすが、幹は堅く切り倒すには骨が折れそうだ。
フィオが炎を放とうとしているのに気付き、ウェッジは制止する。
フィオも焦ったのか、アリスにまで火が及んでしまうことを失念しているようだ。
「さぁ、どうする?彼女の魔法で窮地を脱することは出来るかな?」
試すというよりは弄び愉しんでいるように見えるエリィ。
「アリス、大丈夫ですか!?」
ウェッジが呼びかける。
アリスは喉や胸に巻きつかれ苦しそうだが、
「大丈夫……」
と答えた。
「くそっ!」
ウェッジがナイフを何度も振るう。
次第に樹の幹が削れてきたが、まだ時間がかかりそうである。
「ウェッジさん……、離れて……」
アリスがかろうじて声を出す。
そして、アリスの周りに魔法の光が生じ始めた。
「アリス! いったい、何を!?」
「……精霊よ! 我が魔力の、鍵をもって、生命の錠を開き給え!!」
アリスが魔法契約を実行した。
樹が蒼白い光に包まれる。
すると、急速に樹の色が変わり細くなっていった。
樹が異常な速度で枯れていく。
ウェッジはここでアリスが何をしたのか理解した。
(これは、アリスの《治療魔法》!)
アリスは《治療魔法》を応用した。
樹に過剰な生命力を与え、成長サイクルを異常促進することで、樹を枯らしたのだった。
アリスは樹から解放されると、地面に倒れ込んだ。
「アリス!!」
ウェッジとフィオが近寄る。
アリスは疲労と首などに痣が出来ているが、他は大事ない様子だった。
アリスはなんとか立ち上がると、エリィに向かってはっきりと言った。
「これで、試験は合格ですか!?」
エリィは口の端を大きく吊り上げて笑うと、パンパンと手を叩く。
拍手のつもりだろう。
「そうだ。よくやった、《転生者》の少女!」
確かに、アリスの力量はこれで十分に伝わっただろう。
しかし、一歩間違えば、アリスに重大な事故が生じていたかもしれない。
ウェッジは、エリィの試験には納得出来なかった。
フィオも怒り心頭の様子である。
この部屋全てを燃やし尽くそうと、炎を吐こうとする一歩手前だ。
当のエリィは彼らの怒りの視線を受け流し、アリスに向かって歩み寄った。
「アリス・ワーグ・アリス。魔力型の《転生者》にして、《白銀教会》のシスターよ。君には我ら《協会》の庇護と支援、そして二つ名を授けよう」
「二つ名?」
アリスが聞き返す。
「そうだ。《転生者》に我らは二つ名を授け、それを名誉として讃えている」
「それって、何か凄そう……」
「あぁ、確かに称賛に値するだろう。アリス・ワーグ・アリスよ、君に贈る名は《白銀の鍵》だ」
「《白銀の鍵》……」
芝居がかった仕草で、エリィは手を広げると、恭しく礼をした。
「そして、ようこそ。我らの《蒼銅協会》へ。同朋として歓迎しよう」
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