26話 魔法都市と観光
「そう言えば、まだ貴女がたのお名前を伺っていませんでしたわね」
グロリアが言った。同行することになったが、こちらの自己紹介をまだ済ませていなかった。
「ウェッジ・モルガです」
「アリスです。えーと、こっちの浮いてるのがフィオっていうの」
それぞれが名前を伝える。
「あら、アリス……?どこかで聞いたことが……」
グロリアが首を傾げる。
(まさか、手配の依頼を知っている……?)
んー、とグロリアは可愛らしく悩んでいる素振りだが、ウェッジとしては心中穏やかではない。
「まぁ、いつか思い出すかも知れませんわ」
どうやらこれ以上の詮索は無いようだ。
ウェッジは少し気が抜けた。
そのようなやり取りを続けているうちに、遠くの方に何やら巨大な建造物が見えてきた。
「もしかして、あれが……、魔法都市……!」
途端にアリスの足が早まる。
「ウェッジさん、グロリアさん、はやくはやくー!」
「あまり急いで行くと危ないですよ」
ウェッジが忠告する。
しかし、はしゃぐアリスを見ると、ウェッジは警戒し通しだった気持ちがほぐれていくのだった。
◇◇◇
城門と呼べるほど立派な造りの門を抜けて、一行は魔法都市に足を踏み入れた。
大きな通りを挟み、煉瓦造りの建物が建ち並んでいる。
また、街全体は青を基調とした色彩であり、見た目が涼やかだった。
道行く人の数も多く、街は活気に溢れている印象である。
普通の街と違うのは、ローブ姿の魔法士らしき人間も頻繁に見かけるところか。
アリスとグロリアは街並みをキョロキョロと見回しながら歩いている。
「はぇー、す、すごい」
「……ですわね」
修道院育ちのアリスにとっては、これほどの規模の都市は新鮮に見えるのだろう。
挙動不審で街行く人に奇異の目で見られても、ウェッジは気にしないことにした。
「ウェッジさん、ウェッジさん。これが……、魔法都市、なんですよね?」
アリスが人目を気にするように話しかけてきた。
「えぇ、そうですが。……それが何か?」
「その、何か……、こう、想像と違ってて」
「わ、わたくしも、もっと、こう……」
グロリアも話に加わる。
「それはどんな?」
「えと、皆さん、魔法で空飛んでたりとか、変な動物とか生き物が町中に溢れてたり」
「何か、普通の街ですわね」
「変に期待し過ぎだ、貴様ら」
フィオが冷静にコメントした。
「ですが、こちらの素材屋や魔法士のローブ専門店というのは珍しい。魔法都市ならではですかね」
ウェッジが興味深そうに目の前の店を眺める。
「ええ、魔法薬とかの素材を売ってるんですわね」
グロリアは魔法士らしく興味を引かれたようだ。
「あ、見てください!このローブ、《ザラペケ》の新作ですよー」
アリスは服屋の店頭を指差す。
「あたし、修道服ばかりだから、こういうの憧れてて」
アリスが目を輝かせて言う。
「アリスさん、お目が高いですわね。きっと良く似合いますわよ」
グロリアも楽しそうに話を合わせる。
「ありがとう、グロリアさん。あっ!こっちの髪止め、グロリアさんどうです?」
アリスがグロリアの頭に髪止めを合わせてみる。
「あら、ありがとう。アリスもそちらの腕輪はいかがかしら?」
その後も店先で二人はキャッキャウフフと話している。
「……、若いですね」
女子二人の華やかなトークを遠巻きに眺めながら、感慨深げにウェッジは言った。
「……全く何をやっとるのだ、奴等は」
フィオはただ呆れていた。
◇◇◇
「ちなみに、グロリアさんは魔法都市のどちらの方まで行くのですか?」
「わたくしは、そうね……、まずは……」
あまり深く考えていなかったのか、ウェッジの問いかけに長考するグロリア。
「ウェッジさん、あたしたちはどうしますか?」
アリスが聞いてきた。
「宿の確保を優先します。その後、《蒼銅協会》の本部に行く予定です」
宿探しはいつものことである。
「《蒼銅協会》……、魔法士の人の集まりよね……」
「そうですね。そこで、アリスが転生者であることを伝えて、庇護下に置いてもらうよう働きかけるつもりです」
「……大丈夫、かな?」
「大丈夫です。アリスに危害を加えるようなことにはならないでしょう」
それに、とウェッジが言葉を切る。
「何があっても、私が守ります」
ウェッジはアリスの不安が吹き飛ぶようにと、力強く言った。
「……うん!」
アリスは満面の笑みを浮かべた。
「あの……」
グロリアがおずおずと話しかけてくる。
「わたくし、貴女たちと同じ宿でもよろしいかしら?」
「構いませんが、どうしました?」
「ウェッジさん、とても旅慣れていらっしゃいますし、そんな方たちと一緒の宿なら、わたくしも安心出来るというか……」
「部屋は別で取ることになると思いますが、よろしいですか?」
「えぇ、その方がこちらも好都合……、ではなくて、それでよろしくてよ」
「では、まずは宿に向かいましょう」
おー!という掛け声。
随分と賑やかになったなぁ、とウェッジはしみじみ思った。
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