25話 出発と赤髪の少女
魔猪を倒した次の日のことである。
「えぇー!おねーさんたち、行っちゃうの!?」
「はい、この町での用事はもう済みましたから」
ウェッジたちはこの町を出ることにした。すでに補給も済ませ、魔猪討伐により資金も稼いだ。
アリスは狙われる身であるため、あまり長居をすることも出来ない。
魔法都市までかなり近づいてきているため、ここで足を止める理由はもう無かった。
「せっかく、町のみんなもおねーさんたちと仲良くなったのに……」
魔猪討伐により、町の皆がウェッジたちを称えた。
宿の方も少し割引してくれた。
何より、温かく迎え入れられたことが、旅の一行の心にじんわりと沁みた。
心地よい町ではあったが、名残を惜しんではいられない。
泣いて寂しがるヨシュアをなだめ、ウェッジたちは町を出た。
魔法都市までは、このまま順調に行けば一両日ほどでたどり着く見通しだった。
しかし、途中の荒野に着いたとき、遠くに鳥型の魔獣の群れが見えた。
「きゃーー!!いやーー!!」
ウェッジとアリスは顔を見合わせる。
人の悲鳴が聞こえたからだ。
「ウェッジさん、助けないと!!」
アリスがウェッジに強く呼びかける。
(この流れは面倒になりそうなのですが……)
当のウェッジは見ず知らずの人を助けるということに、あまり気が進まなかった。
しかも、アリスを助けたときと似た状況であり、後々の面倒になる予感がしたのだ。
「なら、あたしが助けにいきます!」
アリスが悲鳴の聞こえた方へ駆け出して行った。
ウェッジが止めようとしたが、アリスは聞く耳を持たない。
ウェッジがフィオの方を見ると、諦めろ、といった顔である。
「仕方ありませんね……」
アリスに走って追いつくと、そこには確かに魔鳥の群れに襲われている人がいた。
見たところ、赤い外套を着た少女のようだ。
少女は頭だけでも守ろうと、しゃがんで頭を抱え縮こまっている。
ウェッジは溜息をついた後、ナイフで飛ぶ魔鳥を撃ち落としていった。
ぼてぼてと落ちる鳥を、呆気にとられた顔で眺める少女。
そして、ナイフを投げた主にはたと気付くと、
「……あ、ありがとう」
恥ずかしそうに礼の言葉を述べた。
「大丈夫でしたか?」
アリスは駆け寄ると、少女に心配そうに聞いた。
特に、外見上は怪我もなさそうだ。
「えぇ、お気遣いは無用ですわ」
赤い外套の汚れを手で払いながら、少女は立ち上がった。
「貴方がた、旅の方かしら?」
少女がウェッジたちに問いかける。
そうだ、とウェッジが代表で答える。
「改めてお礼申し上げますわ、旅の方」
そう言うと胸を張る少女。
堂々とした態度で整った顔立ちと品のある佇まいが印象的だ。
「わたくしの名はグロリア。グロリア・コーデルと申しますわ」
グロリアは燃えるように赤く、カールのかかった髪をかき上げた。
そして、紅玉石をはめ込んだような瞳で真っすぐにこちらを見据えてくる。
羽織っていた赤い外套は魔鳥の攻撃で所々ほつれていた。
見たところ軽装だが、どこからか旅をしてきたのだろうか。
「危ないところだと思いましたので、助けたまでですよ」
ウェッジは話もそこそこに、その場を立ち去ろうとした。
しかし、アリスがウェッジを引き止めた。
「駄目ですよ、グロリアさんをこのままにしてたら、また襲われちゃいます」
こうなっては、アリスは意地でも彼女を助けたがるだろう。
ウェッジはせめてややこしい話になってしまわないことを祈った。
「グロリアさんはどうしてこんな所に?」
アリスは疑問を口にした。
確かに、グロリアは見たところ長旅をしているような恰好ではない。
「わたくし、魔法都市に用があって、向かっている最中でしたの」
「あ、あたしたちもそうなんです!」
アリスは同好の士を見つけたように喜ぶ。
「魔法都市に一体、何の用で?」
ウェッジは面倒な事情でないことを願いながら聞いてみた。
「それは、まぁ、色々ですわ」
グロリアはここで少し言葉を濁した。
「わたくし、こう見えても魔法士ですの」
ウェッジはグロリアが武器らしいものを持たない点から、魔法士であることは感づいていた。
だが、気になる点があった。
「非難するつもりではないですが、魔法士なら、先程の魔物も魔法でどうにか出来たのでは?」
ウェッジの問いに、グロリアがとたんに狼狽した。
「わ、わたくしが得意なのは……、実は《支援魔法》系なので……」
彼女は消え入るような声で続けた。
「ああいった魔獣とか、その、倒すのは苦手なんですわ……」
「だったら!」
アリスはここでハイ!と元気よく手を挙げた。
「魔法都市まで一緒に行きませんか?」
アリスが屈託のない笑顔で言った。
「助けていただいたのに、さらにそこまで親切になってよいのかしら……」
グロリアは迷っているようだ。
ウェッジとフィオはもうどうにでもなれという心境の面持ちだ。
グロリアは外套のほつれた裾を少し触ってから、言った。
「……分かりました。ご一緒させて頂いてもよろしいかしら」
「もちろん!!」
アリスはどうやら彼女を気に入ったようだ。
グロリアは十代後半に見える。
アリスは歳の近い同行者が嬉しいのかも知れない。
ウェッジは、アリスを助けたときのことを思い出していた。
(まさか、彼女も実は転生者とか世界最高の何某で狙われている、とかでは無いでしょうね……)
魔法都市に着くまでの間、と言いつつも、その後の流れが心配なウェッジであった。
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