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24話 山と猪

ウェッジたちは、ヨシュアの敵である魔獣討伐に向かうことにした。

まずは、ギルドで魔獣の討伐クエストを受注する。

ギルドの受付嬢は、

「ホントにやってくれるんですか!?ありがとうございます!」

と喜んでいる様子だった。

町の人も魔獣には手を焼いていたらしい。

──目指すは《月の光と戯れる山》に棲む魔の猪。


◇◇◇


「さて、猪狩りの始まりです」

ウェッジが号令をかけると、アリスが、おーー!と威勢の良い返事をした。

ギルドで得た情報によれば、この山は標高が高く、切り立った崖などが多いという。

踏破するのも苦労する場所であることが、余計に討伐の難易度を上げているとのことだ。

ウェッジたちが山に足を踏み入れる。

魔獣が猪型であるためか、この山には猪も多く生息しており、山道を登っていると猪の姿も見えた。

次第に山道が険しくなる。

アリスの体力を心配して、ウェッジはこまめに休憩を取るよう促したが、当のアリスが、まだ大丈夫と突っぱねた。

足手まといになりたくないと思っているようだ。

岩肌の目立つ、急峻な山道を進む。

魔獣の姿どころか、猪以外の獣が近寄って来る様子もないため、ひたすら進む一行。

だが、それはボス魔獣の縄張り支配が強いものであり、他の獣が入ってこれないということでもある。

山の中腹まで進んだ。

道は続いているものの、右手は木々もまばらな険しい斜面、左手は谷底まで続く崖である。

足元の道が崩れたら、谷底まで一直線だろう。

ギルドの情報では、この辺りで目撃情報が増えているらしい。

フィオの魔力感知にはまだ反応は無いため、二、三人が横に並んでやっとの狭い道を進む。

(ここで遭遇すれば、逃げ場は、ほとんどありませんね……)

「ひぃぃ、……ダメ、これ、下見れない……」

アリスはどうやら高いところが苦手のようだ。

ウェッジの腕をしっかり握り、それでも震えながらついてきている。

突然、フィオが叫んだ。

「右から、でかいのが来るぞ!」

魔力感知で魔獣の存在を感じたようだ。

フィオの反応と同時に、右手の斜面から木々がへし折られる音がする。

バキバキッ。

恐ろしい勢いで音がこちらに迫って来る。

「来ます!!」

ウェッジが叫ぶ。

前方に、黒く大きな岩山が転がり込んできた。

岩山と感じたのは錯覚だったが、それは象ほどもある体躯の猪だった。

魔獣がこちらを向く。

巨大な野生の獣が剥き出しの敵意を放ってくる。

呼吸が止まりそうな威圧感だ。

口許には大きく反り返る牙。

それだけでも人の背丈ほどは優にあるだろう。

かの獣の名は《三日月牙の魔猪(カリドニアン)》。

町を踏み荒らし、山を食い荒らす、貪欲な魔の猪。

魔猪が鼻息を荒くして、こちらの様子を窺っている。

ウェッジは戦列の先頭で魔猪の挙動を観察する。

果たして、ナイフの一本二本で効果があるのか、と感じさせるほどの巨躯である。

試しにウェッジがナイフを数本投げる。

魔獣の目の近くと前足に刺さりはしたが、全くの無反応である。

次にフィオが炎の矢を放った。

魔猪の顔面に直撃、首まで炎に包まれる。

しかし、魔猪が首を振って火を消すと、ほぼ無傷の顔が現れた。

圧倒的な耐久力を誇る相手である。

ここで、魔猪が後ろ足に力を溜めた。

「グォオゥゥ!」

一直線に魔猪が飛び込んでくる。

巨躯を活かした体当たり。

ウェッジはアリスを抱えて右手の斜面を駆け上がり、かろうじて猪をかわした。

そして、滑り落ちそうな斜面をナイフの足場で踏み留まった。

ぶつかれば、ただでは済まない大質量の突進である。

「きゃーー、ダメーー、死んじゃうーー!!」

アリスは足元が不安定になったことで、悲鳴をあげた。

フィオは魔猪を飛び越す形で空中に逃げて、振り向きざまに炎の矢を放つ。

しかし、炎の矢をものともせず、魔猪はウェッジたちの方に向き直り、蒼白い光をまとい始める。

魔猪の方から風が吹いてきた。

風は次第に強くなり、ウェッジたちは近くの木に掴まり、風をしのごうとする。

(これは、《原始魔法プロット》!)

魔物が使う単純だが強力な魔法。

風は台風のように強まり、ウェッジたちを襲った。

吹き荒れる風の中、ウェッジが魔猪にナイフを投げる。

しかし、ナイフが風で弾かれた。

魔猪の周りはさらに風の壁と言うべき障壁が形成されているようだ。

フィオもこの風で炎が流れてしまい、魔猪に魔法が届かない。

ウェッジは持ってきていたロープで木に身体を固定する。

そして、十分な力を溜め、魔猪の方へナイフを投げた。

魔猪の身体には当たらず、足元に勢いよくナイフが突き立つ。

続く投擲も同様に足元へ。

今度は魔猪の近くの木々にナイフを放った。

木の幹に刺さると、メリィと音を上げて木々が魔猪の方へ倒れ込む。

風の壁があろうと構わず、魔猪の真上から叩きつけるような衝撃。

そして先程の足元へ放ったナイフがグラリと揺れる。

負荷のかかった地面に亀裂が走り、足場と魔猪の身体が大きく傾く。

駄目押しでウェッジが魔猪の足元へナイフを放つと、道が崩落した。

魔猪が崖を転がり落ちていく。

ウェッジは身体のロープをほどくと、追撃のため、魔猪と一緒に崖を落ちるように駆け降りる。

山を震わすほどの衝撃と鈍い大きな音がした。

魔猪が谷底まで落ちたようだ。

ウェッジは途中の木々を掴み、足掛かりにして、落下の勢いを殺しながら、谷底へ着地した。

魔猪はかなりの高さから落ちたはずだが、大きなダメージにはなっていないようだ。

魔猪と対峙するウェッジ。

谷底も幅は狭く、突進されたら横にかわすことも出来ない。

魔猪は牙を突き出しながら、ウェッジめがけて突進してくる。

ウェッジは谷の壁にナイフを階段状に打ち込み、そこを足場にして壁を駆け上がった。

壁走りにより魔猪の頭上を取ったウェッジ。

対する魔猪は、またしても《原始魔法プロット》による風でウェッジを揺さぶろうとする。

荒れ狂うように風が吹く。

そこに雨の如く炎の矢が降り注いだ。

上にいるフィオの魔法だ。

ウェッジの所にも構わず、流れ矢が来るほどの広範囲に渡る攻撃。

間断なく撃ち込まれる矢で、猪が燃え上がる。

しかし、身体をかれているにも関わらず、猪は風を止めようとしない。

炎の矢では効果が薄いと分かったのか、フィオが次の手に出た。

「ウェッジ、これは離れたほうがよいぞ」

フィオが警告を言うやいなや、炎の矢の数倍はある炎の槍が魔猪の頭上に浮かぶ。

ウェッジはさらに壁を駆け上がり、急いで距離を取った。

それを確認したフィオは、槍を魔猪の脳天に打ち込んだ。

爆発とともに火柱が上がり、谷底が炎に包まれる。

炎の中では、魔猪が悶えて壁などに身体をぶつけている。

いかに外皮が丈夫であろうとも、風で炎を遮ろうとも、熱は防げない。

焼けた空気が魔猪の気管と肺腑を焼いたのだ。

身体の内側を攻められ、暴れ狂う魔猪。

ウェッジは今が好機と判断した。

ナイフの持ち手に持ってきた鉄線を括りつける。

そして、鉄線でつないだナイフを魔猪に打ち込んだ。

続けてナイフを放ち、近くの地面や壁に鉄線を釘付けする形で固定する。

鉄線が徐々に魔猪の身体を縫い止めていく。そして、魔猪はその動きを封じられた。

暴れる獣を留めるための技、その名は《囲繞いぎょう》。

炎も収まってきたところで、谷底の魔猪の前に降り立つウェッジ。

鉄の線で縫い止められた魔猪はよだれを垂らし、ウェッジをきつく睨んでいる。

ウェッジはナイフを構えた。

──そして、ウェッジの最大威力の《破城はじょう》が魔猪の身体を貫いた。


◇◇◇


町に戻ると、町の人々がウェッジたちを出迎えてくれた。

一番前にはヨシュアが待っており、帰ってきたウェッジに抱きついた。

「おねーさん、無事に戻ってきた!」

半べそのヨシュアの頭を撫でてなだめるウェッジ。

周りを住民が囲み、ウェッジたちを口々に称えている。

町を救った英雄の如き扱いだ。

町長は「あなたたちの銅像も建てましょう!」などと口走っている。

ウェッジは慣れていない雰囲気で、少しはにかむ。

フィオは胸を張り、皆の賛辞を一身に浴びている。

アリスは「今回はー、あたしー、何もしてないよーぅ」と少しいじけていた。

ウェッジは面映ゆい気持ちだったが、ヨシュアの笑顔を見れただけでも、自分の行いは悪くなかった、と思えたのだった。

数ある作品の中から本作品をお読み頂いて、ありがとうございます。


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