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23話 努力と守るべきもの

次の日も、ヨシュアと森でナイフ投げの練習を行った。

「おねーさん。ところで、これってどのくらい続ければ、おねーさんぐらい出来るようになるの?」

ナイフを投げては拾い、投げては拾いのヨシュアが練習に飽きてきたのか、疑問を発した。

「そうですね、ひたすら地道に修練を重ねて十年以上でようやく一人前、といったところでしょうか」

「え、そんなに!?」

「そうです。地味だ役立たずだと言われようと、ひたすら極めていって十年、です」

ヨシュアが握ったナイフをじっと見つめる。

「私もまだまだ修練が足りないと思うところもありますが」

「おれ、そんなに待てないよ」

「強くなりたいのなら、地道に努力です。……ただ、私も貴方くらいの年頃で、すでにナイフ投げはある程度出来ましたから」

ウェッジが少しだけ遠い目をして言った。

「ですから、貴方も努力次第です。地味でも努力は続けなさい」

ウェッジに諭されて、練習を再開するヨシュア。

「ウェッジさん、その……、小さい頃ってどんな感じだったんです?」

アリスは軽い興味を覚えてウェッジに聞いてみた。

ウェッジの過去の話はまだ聞いたことが無かったからだ。

「……何の力も持たない、ただの子供でした」

ウェッジはそれきり押し黙る。

まだ、ウェッジには不用意に触れることの出来ない過去があるようだ。

ヨシュアにナイフ投げをひたすら続けるよう言いつけ、ウェッジは再びギルドに向かった。討伐クエストが更新されていないか目を通す。

ふと、ヨシュアの両親の敵である魔獣はどうなっているか確認したくなった。

受付嬢に聞いてみると、三ヵ月前の町への襲撃で、報酬が上乗せされているが、いまだ討伐には成功していないとのことだ。

根城は町の裏手にそびえる山の中腹、猪型の魔獣であるという。

町長があまり討伐に積極的でないため、上乗せされても報酬は低めで、冒険者の目を引かないとのことだ。

「町長、ケチでみんなから評判悪いんです」と受付嬢がこぼした。

ギルドから戻ると、ヨシュアは言い付け通り、ナイフをひたすら投げていた。

ただ、彼の態度には、焦りと苛立ちのようなものが混じっていた。

そして、その日のヨシュアとの練習も無事に終わった。

帰る途中には、どうしても例の壁のところを通らなければならない。

今日もヨシュアは壁のところで足を止めた。

「……おねーさん、魔獣って強いよね?」

壁をみつめながら、ヨシュアは静かに言った。

「そうですね。少なくとも、この魔獣は貴方の手には負えないでしょう」

ウェッジの歯に衣着せぬ言葉に、顔を背けるヨシュア。

「……分かってる(・・・・・)よ、そんなこと」

(おや……?)

ウェッジは少年が敵討ちのために力を欲していたのかと思っていた。

だが、どうやら少し違ったようだ。


◇◇◇


「えー、私が町長です」

壇上に上がり胸を張っているのは、見たところごく普通の中年男性だ。

「本日、記念すべき12体目の銅像が建立されました!」

銅像の除幕式という晴れやかなセレモニーのはずだが、集まっているのは数人であり、皆あまり気乗りしていない面持ちである。

幕が外される。

壇上の男性そっくりの、磨き上げられた銅像が披露された。

拍手がまばらに起きる。

「これもひとえに、皆さまの日頃の声援のおかげであり、……」

観客との温度差を全く感じていないのか、堂々とした態度で演説を続ける町長。

「ここで、何をしようとしてるのですか?」

ウェッジがヨシュアに声を掛ける。

彼は裏の建物の陰に隠れて町長の演説を聞いていた。

その手にはナイフが握られている。

「おねーさん……、なんでここに……」

ウェッジは理由を答えない。

ただ、じっとヨシュアの目を見つめていた。

「あの町長を、暗殺(・・)しよう(・・・)とした(・・・)のですか?」

ウェッジがヨシュアを問い詰める。

その可能性に思い当たったのは今朝のこと。

町長の銅像披露があると、宿屋の従業員から聞いたとき、ヨシュアの行動が一本に繋がった。

ヨシュアはうつむき、黙っている。

ウェッジは答えを待った。

カツンッ。

ナイフが少年の手を離れた。

伏せた彼の顔から、ぽつり、と水滴が落ちた。

「父さんや母さんが死んだのも、町長のせいだって」

ヨシュアが震える声で訴えた。

彼はその小さな身体の中に町長への憎悪を育てていたようだ。

「町長があんな銅像ばっかり建ててないで、町の壁とか門をしっかり作ったら、魔獣だって入ってこなかったって。みんなが町長は悪いやつだって」

だからですか、とウェッジが問うと、ヨシュアが頷く。

「貴方が何をしようとするのか、私にはあまり興味はありません」

ウェッジは突き放すようにヨシュアに言った。

「ですが……」

ウェッジが言葉を切ると、ヨシュアの顔を両手で掴み、顔を上げさせる。

ヨシュアはとめどなく涙を流していた。

「私が教えた技術スキルは悪を裁くためのものではありません」

強い口調、だが厳しさだけでない、諭すようなウェッジの言葉だった。

「大切な人を、守り抜くための力です」

「大切な人なんて……、父さんも、母さんも、もう誰もいないよ!」

「……いるでしょう、一人」

ウェッジの思いがけない言葉に、ヨシュアは戸惑ったような顔をした。

貴方です(・・・・)

ウェッジは、はっきりと力強く言った。

「貴方はまず、自分の人生を守りなさい」


泣きじゃくるヨシュアを家に帰らせて、ウェッジは宿に戻った。

アリスが心配そうな顔で待っていた。

「少し寄り道となりますが、魔獣討伐に行きませんか?」

ウェッジからの提案にアリスは力いっぱい頷いた。


◇◇◇


新しいステータスが公開オープンされました。


ウェッジ・モルガ

スキル:技術スキル指導……Dランク

数ある作品の中から本作品をお読み頂いて、ありがとうございます。


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