22話 少年と指導
グラントンを下したウェッジたちは、森を抜けて町に到着した。
傭兵団が退いたため、ウェッジたちには気持ちの余裕が少し生まれていた。
アリスの捕縛依頼はまだ取り下げられていないだろう。
だが、散発的な冒険者の襲撃なら、あまり神経を尖らせなくても対応できる。
そのため、この町では二、三日ほど滞在して英気と装備を充実させる予定だった。
ウェッジたちは町を巡った。
町長の銅像が至るところにあるが、そこを除けば何の変哲の無い町だ。
一行はまず、宿を確保した。
そして、アリスとフィオを休ませたら、ウェッジは外へ出た。
この規模の町なら、冒険者ギルドがあると踏んだウェッジだったが、首尾良く見つけることが出来た。
古めかしい建物だったが、きちんと機能はしていそうだ。
ギルドの受付で討伐クエストを確認する。
ここから、魔法都市までの間のルートで倒せそうな魔獣や猛獣がいればクエストを受けておこうという算段だ。
いくつかの情報を得たウェッジは、外に出た。
すると、向かいの建物に隠れて子供がこちらを覗いているのが見えた。
十歳前後の男の子。
その子とウェッジの目が合う。
すると、男の子は驚いた表情を見せた。
そして、少し逡巡した素振りのあと、こちらに駆け寄ってきた。
「……おねーさん、冒険者だろ?」
「一応、そうですが」
ウェッジが答える。
こんな少年に話しかけられることはまず無いため、多少の警戒をした。
「おれに剣を教えてくれ!」
少年は叫ぶようにウェッジに言った。
「……」
突然の申し出。
ウェッジが黙っていると、少年は頭を下げた。
「私はそれほど剣術に長けているわけではないので」
そう言って、ウェッジはその場を去ろうとする。
しかし、少年がウェッジの前に回り込んで、足を掴んだ。
「お願いだ!冒険者なら、依頼聞いてくれよ!」
ウェッジは溜息をついた。
「依頼でしたら、まずは親に言って、ギルドに話を持っていく方が良いですよ」
少年は途端に黙る。足を握っている手が少し震えているようだ。
「……親は、いない」
ウェッジは無表情で少年の顔をじっと見つめた。
少年はたじろぐも、ここで退いてなるものかという風に見返してきた。
少年の言葉を見極めようとするウェッジ。
そして、根負けしたかのように、言った。
「……仕方ありません。では、私のナイフ投げでよければ、技術をお教えしましょう」
◇◇◇
少年はヨシュアと名乗った。
ここ一週間ほど、ギルドの前に通い詰めて、冒険者に声を掛ける機会を窺っていたらしい。
しかし、どの冒険者も強面で、剣も教えてくれそうにない人ばかり。
彼はなかなか話しかけることが出来なかった。
だが、今日ギルドに来たウェッジなら、地味な見た目なので大丈夫かも知れないと、そう思ったらしい。
彼の両親は、三ヵ月前にこの町を襲った魔獣によって命を落としたということだ。
彼は今は親戚の家で暮らしているという。
剣を習いたい理由は、強くなりたいから、の一点張り。
ウェッジは、この町に滞在する間だけ、と条件をつけて師匠役となった。
早速、彼とアリスを連れて町の外にある森で練習することになった。
「手本といきましょうか」
ウェッジは軽くナイフを投げる。
遠くの樹の幹に用意した的の中心にナイフが刺さった。
さらに投げると、まったく同じところに突き刺さる。
結局、10本ほどナイフを投げたが、全てが的の中心に刺さっていた。
おぉー、とヨシュアから歓声が上がる
「さらに、こうです」
ウェッジが構えてナイフを投げた。
先程の的にドスッと刺さったかと思うと、そこから音を立てて太い樹が切り倒された。
「どうぞ、今のようにやってみてください」
「……どうやって?」
ヨシュアはナイフを手に茫然としている。
うーん、面倒ですね……、とウェッジは少し渋った様子だったが、詳しく説明する気になったようだ。
「私も、自分の技術を言葉で説明することは、あまりしたことが無いのですが……」
ウェッジが前置きをして、指導に入る。
ここで、なぜかアリスも「あたしもナイフ投げやってみたい!」と参加を表明した。
「まずは基本です」
ウェッジの解説が始まる。
ふむふむと熱心な様子のアリスとヨシュア。
「構えます」
ナイフを持った手を引き、もう一方は水平に手を伸ばして、弓を射るような姿勢。
同じようにポーズを取る教え子二人。
「こうやって、シュッ!と投げます」
腕の振りが速すぎて消えたように見える。
ナイフは遥か遠くの木に刺さっていた。
「!?」
困惑している様子の二人をよそに、ウェッジは続ける。
「バッ!とナイフを取って」
いつの間にかナイフを四、五本手に握っているウェッジ。
「!??」
「あとは連続でトトトトッ!です」
二人の目に追えない速さで、ナイフを乱れ撃ちするウェッジ。
「!???」
「さぁ、どうぞ」
ウェッジの顔は大真面目である。
「あの、ウェッジさん……。さすがに今のでは……」
アリスも困惑した顔だ。
ウェッジが首をかしげる。
「おねーさん、それじゃわかんないよ……」
ヨシュアが途方に暮れていた。
とりあえず、ヨシュアがナイフをひたすら投げて、それをウェッジが見て、姿勢の矯正や狙い方などを都度教えていく練習方式となった。
昼から続けて夕方となり、疲労困憊のヨシュアを家に帰す時間となった。
森から帰る途中のことである。
町の外周を囲う石壁が崩れた跡があった。
突貫工事で修復されているようで、木の板が雑に打ち付けられている。
ヨシュアの足が止まった。
そして、また歩き出す。
ウェッジはこの跡を見て察した。
おそらく、三ヵ月ほど前、ここから魔獣が壁を破り、町に侵入してきたのだ。
そして、ヨシュアの両親が殺された。
彼の心の傷も、あの壁のようにまだ癒えず、なんとか形を保っているだけなのかもしれない。
ウェッジは、彼の依頼の真意について思いを巡らせていた。
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