100話 侵食と手帳
魔法都市に着くなり、ドゥーゼはその場に倒れた。
きっちり送り届けてから倒れるのは、ある意味プロらしい。
「ドゥーゼさん、大丈夫ですか!?」
「魔力、使い果たしちまった……。ちょっと休んだら動けるようになるだろうから、気にしないでくれよ……」
そうは言っても、道のど真ん中で倒れた人を置いていくような真似は出来ない。
ウェッジはフィールとドゥーゼの二人を肩にかついで、街を歩いた。
以前、エリィが入院していた病院に、二人を預ける。
そして、医師と治療魔法士が二人を処置し終わるのを見届けた。
「済まねェ……、ウェッジさん。アンタには何から何まで世話になったよ……」
治療を終えて、ベッドに横になったドゥーゼは殊勝な態度で礼を述べた。
ドゥーゼは疲労が抜ければ、元気になるとの見通しだった。
一方、フィールについては、蔦が腕を深いところまで侵食していたという。
処置を済ませても、木の組織が腕の内部に残ってしまうため、左腕に後遺症が残るだろうとの見立てであった。
その結果を聞き、ウェッジの顔は曇った。
しかし、フィールは医師の宣告を聞いてなお、明るく振る舞った。
「ウェッジさんのせいじゃありませんよ! 命が助かっただけで十分です!」
「ですが……、私がもっと適切に行動していれば、防げたことです」
前途ある子供に重い枷を負わせてしまったという後悔が、ウェッジの表情を沈痛なものにした。
「ウェッジさん、顔を上げてください」
ウェッジが顔を上げると、フィールは真剣なまなざしで目を合わせてきた。
「ウェッジさん、貴女は最善を尽くしました。あの過酷な環境で、僕のようなお荷物を抱えてもなお、皆を無事に返してくれました。それは、貴女にしかできなかったことです。ありがとうございます」
フィールは頭を下げた。
そして、無事だった右手で、自分の脚をパンと叩いた。
「それに、僕にはこの脚がありますから、多少のハンデなんてへっちゃらです!」
「へっ、小僧が一丁前の口をききやがる!」
隣のドゥーゼが冷やかしてきた。
「もう! 師匠、小僧って言うのはやめてくださいよぅ!」
フィールが顔を赤らめる。
師弟の微笑ましいやり取りに、ウェッジは頬をほころばせた。
そして、言い合いをする二人を尻目に、病室をそっと出ていった。
次の日、ウェッジは《協会》に向かい、エリィを訪ねた。
「お疲れ様、無事帰ってきてくれて嬉しいよ」
会うなり、エリィは労いの言葉を口にした。
「エリィ……。先遣隊の捜索ですが、ドゥーゼさん以外は……」
ウェッジは《樹海》に残してきた者たちのことが気がかりだった。
「そうか……。仕方あるまい。あの森に君たちまで飲み込まれてしまうわけにはいかないからね」
エリィは指先に小鳥を止まらせて、何かを考えているような表情であった。
「それから、私はあの《樹海》で様々なものと遭遇しました」
木に埋まっていた魔道具。
謎の気配。
人語を話し、魔法契約を行使する魔獣。
フィールの身体を蝕んだ植物。
そして、《侵食精霊》。
《樹海》を脱してから丸一日ほど経っているが、振り返れば遠い出来事のように感じる。
「エリィ、あの《樹海》とは一体何ですか?」
ウェッジが根本的な質問を投げかけた。
エリィは小鳥を空に放して、机の引き出しを開けた。
「ウェッジ、私は君に真実を伝えるべきか迷っていた。……だが、聡明な君のことだ。ある程度のことは推察出来ているんだろう?」
ウェッジは躊躇いながらも頷く。
《樹海》の謎。
ウェッジは《侵食精霊》を見たとき、脳裏にひとつの仮説が浮かんだ。
《樹海》の出来事を繋ぐ線、それは《侵食》。
エリィが引き出しから取り出したのは、一冊の古びた手帳だった。
「ここに、あの《樹海》の答えが書いてある。……読むかい?」
試すように問いかけるエリィ。
ウェッジは吸い込まれるように手帳を手に取った。
そして、頁をめくろうとすると、エリィが忠告を放った。
「……だけど、覚悟はしておくといい」
ウェッジは大きく息を吸うと、ゆっくりと頁をめくり始めた。
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